2016年10月04日

No.6 創業家が大戸屋に株主提案したら???

創業家側が負けると思います。創業家や発行済株式総数の約18%を保有していますので、「たくさん持っているから勝てそうな気がするけど」というご意見もあろうかと思います。大戸屋ホールディングスの株主構成は以下のとおりです。

 一般的に言うと、株主提案においては会社側が有利です。基本的には現経営陣をISSやグラスルイスは支持します。大塚家具のケースでもそうでした。もし創業家が亡くなったオーナーのご子息を社長とする株主提案をしても、現経営陣を支持するでしょう。ただ、大戸屋の場合、創業家が勝つ可能性はゼロではありません。メディア対応次第では勝つ可能性はあります。ISSとグラスルイスが現経営陣を支持したとしても、勝負には全く関係ないからです。

 株主構成を見るとお分かりのとおり、外国人株主は1%しかいないのです。つまり、ISSやグラスルイスの意見を直接聞く株主が1%しかいないということです。この勝負にISSとグラスルイスが何と言おうと、ほとんど関係ありません。勝負の鍵を握っているのは、創業家を除いた個人株主です。

 

上表は今年の株主総会の議決権行使結果です。社長の賛成率が低いのは、創業家が反対したためと想定されます。反対個数は14,373個で、創業家の議決権個数は13,510個であるので、ほとんどが創業家の反対票と考えられます。

ただ、一方で、「なぜ創業家は反対しただけで、株主提案しなかったのか」という疑問があります。これは簡単です。この時点で、創業家は株主提案権を持っていなかったのです。株主提案権は1%以上または300個以上の議決権を6か月前から継続して保有することで確保できる権利です。創業家は元オーナーから株式を相続していますが、株式が異動したのは今年の3月なのです。だから、定時株主総会時点では株主提案権を確保できていませんでした。ただ、10月になりました。現時点では株主提案権を確保しましたので、今後、創業家は株主提案をしてくる可能性があります。

個人株主の投票行動は読みにくいです。しかも、個人株主比率が高い企業は、基本的に株主総会における議決権効率は低いです。ちなみに、大戸屋の6月総会における議決権行使率は約57%でした。議決権行使率が低いほど、創業家の影響力は高まることになります。ただ、株主提案されたら話題になるから議決権行使率も上昇する可能性はあります。

個人株主の投票行動は読みにくいですが、あまり創業家を支持する個人株主はいないのではないかと思います。なぜか?

これは私の専門分野ではありませんが、現在の世論はどうでしょうか?いわゆる「2世」に対して厳しい見方をする人が多いのではないでしょうか(2世がすべて悪、などと言うつもりはありません)。有価証券報告書の役員の状況で経歴を見ると、2011年4月に三菱UFJ信託銀行に入行し、2013年4月に大戸屋に入社。2014年8月に執行役員就任、2015年6月に常務取締役就任・・・平成元年生まれ、現在27歳です。私、27歳のころはまだ平社員でした。この方を「ぜひ社長にしたい!」と思う個人株主がいらっしゃるでしょうか?もしかしたら、元オーナーとの関係性が深い個人株主の方などは支持するかもしれませんが、たぶん、純粋な個人株主は支持しないのではないでしょうか。会社側も「いずれ社長になってほしいとは思うが、まだ若すぎる」という点を大いに主張してくるでしょう。なお、元オーナーのご子息の資質を語るつもりはないですし、語るほどの情報はありません。

これは、創業家もおそらくわかっているでしょう。少なくとも、創業家がわかっていないとしても、創業家のアドバイザーはわかっていると思います。だとすると、勝負に勝つためにはどうするか?

株主提案の争点を経営陣の入れ替えに集中させるのではなく、ぼかしてくることが考えられます。例えば、経営陣の入れ替えだけでなく、「増配」も株主提案する。「私が社長になったら増配します」とする。また、大戸屋を欲しいと思っているパートナーとの業務提携なども視野に入れた提案をしてくることなども考えられるのではないでしょうか?そうすることで、個人株主を味方につけることができれば、創業家が株主提案で勝利をおさめることも可能ではないかと思いますが、会社側も同様に増配などをすれば、ちょっと厳しいかなと感じます。

いずれにしろ、20%程度の持分だと、株主提案を可決させることは割とハードルが高いということかもしれません。このように、株主提案が実施された場合、世論の状況を見極めた対応が必要になってくると言えます。

 

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