2016年12月05日

No.29 安心できる安定株主比率は?~海運業界から見てみる~

 これは川崎汽船のケースです。川崎汽船は2006年6月の株主総会で買収防衛策を導入しました。随分早い時期から導入しています。その後、二度にわたって更新し、昨年2015年5月に廃止しました。では、当初導入した2006年6月株主総会における株主構成はどうだったのでしょうか?2006/3期末の川崎汽船の株主構成は以下のとおりです。

 すぐわかりますね。上位に金融機関がたくさんいます。外部から見た安定株主比率は28.2%です。法人株主と上位金融機関の合計です(川崎重工の退職給付信託口も入れています)。では、廃止したときの株主構成は?2015/3期末の株主構成は以下のとおりです。

 外国人株主比率がかなり上昇しています。14%が40%になっています。外部から見た安定株主比率は、13.73%です。かなり下落したように見えます。法人株主は減ってはいますが、そんなに変化していません。上位に登場していた金融機関がいなくなったことが影響しています。もちろん、全株売却した訳ではないのでしょうが、かなり株数を減らしたようです。これが影響し安定株主比率が低下してしまいました。

 もちろん、「安定株主比率が低下したので買収防衛策を廃止します」などと川崎汽船は言っていません。ですが、外部から見る限りは、安定株主比率の低下が影響していないとは言えないと思います。その後、エフィッシモが川崎汽船株式を取得しました。買収防衛策があったら、どうなっていたのか?38%も買われなかったかもしれませんね。

 日本郵船も買収防衛策を導入していました。当初導入したのは2008年6月株主総会です。川崎汽船に比べると時期は少し遅いです。2011年6月に一度更新しましたが、2014年5月に廃止しました。買収防衛策を導入した時点(2008/3期末)の日本郵船の株主構成は以下のとおりです。外部から見た安定株主比率は23.09%です。

 では、買収防衛策を廃止する時点ではどうなっていたか?2014/3期末の株主構成は以下のとおりです。外部から見た安定株主比率は13.75%になりました。ちなみに、金融機関が株式を放出したことも影響しているかもしれない一方で、日本郵船は2009年12月に公募増資を行っています。分母が増えたことも安定株主比率低下に影響したのでしょう。

 川崎汽船もそうでしたが、買収防衛策を導入する時点では、安定株主比率が20%以上ありました。ただ、廃止する直前の株主構成を見ると、20%を下回っているのです。

 これを見ると、なんとなく、会社が「これくらいの安定株主がいれば普通決議は大丈夫」というラインが見えてきませんか?会社は、感覚的にかもしれませんが、「安定株主比率が25%~30%程度確保していれば、買収防衛策を可決させることができる」と考えているかもしれません。外部から見た安定株主比率が25%程度だと、実際の安定株主比率は当然それ以上です。外からは見えない安定株主がいますから。やはり外部からみた安定株主比率が20%を下回ると、票読み上、かなり微妙になってくるのではないかと思います。

 海運2社を見たので、商船三井の株主構成も見てみましょう。商船三井は買収防衛策を導入していません。廃止したのではなく、もともと導入していない会社です。ですので、10年前と直近の株主構成を比較してみます。2006/3期末の外部から見た安定株主比率ですが、12.53%です。川崎汽船と日本郵船が買収防衛策を廃止したときと同水準です。

 では、直近2016/3期末ですが、以下のとおりです。外部から見た安定株主比率は12.19%です。2006/3期末と比べて、ほとんど変化していません。もともと低いんです。

 当然、買収防衛策を導入するかどうかは安定株主比率だけで決めるものではありませんし、そもそも検討したのかどうかはわかりません。ただ、一般論を申し上げると、この安定株主比率だと、買収防衛策を総会で通すのは票読み上は厳しいです。

 やはり、外部から見た安定株主比率が20%を下回っていると、想像ですが、「買収防衛策を総会で通すのはちょっと厳しいかも」と思ってしまうのでしょう。

買収防衛策導入の直前、外部から見た安定株主比率は、川崎汽船は28.2%、日本郵船は23.09%だった。それが、買収防衛策廃止直前は、川崎汽船は13.73%、日本郵船は13.75%になった。商船三井と同水準です。

余談ですが、三菱グループと三井グループで安定株主比率が違うのが特徴的です。やはり、三菱グループのほうが安定株主比率は高いようですね。

 

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