2019年07月26日

No.638 吉本興業に学ぶこと(無料公開)

「このニュースに注目」でもまとめましたが、吉本興業の一連の不祥事を受けての社長会見が非常に興味深いです。松本人志が吉本興業に苦言「偉そう」「芸人ファーストじゃないと」という記事にもありますが、ダウンタウンの松本人志さんが吉本興業の姿勢に「芸人ファーストじゃない!」苦言を呈したそうです。この発言を受けて、吉本興業の社長は会見で「今後は芸人ファースト」という発言をしたのでしょうね。

まあ、あの記者会見は史上まれにみるグダグダな会見でした。子供を幼稚園に迎えに行く途中の車で音声しか聞いていませんし、ニュースで部分的にしか見ていませんが。あの会見をなぜあのタイミングでやったのか理解できませんね。

さて、吉本興業は本当に芸人ファーストの経営をすべきなのでしょうか?答えはNoです。〇〇ファーストという言葉が流行って久しいですが、〇〇ファーストというフレーズは非常にわかりやすい言葉ではあるものの、経営者が使う言葉ではないと私は思います。経営者は株主利益を重視すべきである。確かにそうではありますが、株主利益だけを重視する訳にはいきませんし、株主ファーストであってもいけません。株主、従業員、取引先、地域社会、金融機関などすべてのステークホルダーの利益のバランスを取る必要があると私は思います。利益のバランスという点が重要です。どのステークホルダーの利益も犠牲にせず、ましてや搾取せず、みんながハッピーになる経営を目指すべきと考えます。

あの記者会見って、5時間くらいかかったそうですが、本当なら1時間で終わる会見ですよね?一連の不祥事の問題は、宮迫さんが事件発覚時に会社に対してウソをついていたことから始まっています。吉本興業には何の問題もなく、初めからウソをつかずに金をもらっていたことを白状していれば、こういう状態にはならなかったはずです。社長会見の前に行われた吉本興業の法務本部長の説明が非常にわかりやすかったです。http://reserve111.com/archives/11337

いろいろと批判はあるようですが、本件について論じるコラムではないので、私の分野で申し上げます。これ、松本人志という吉本興業にとっては頭の上がらない芸人から社長が「芸人ファーストやろ!」と言われてしまい、社長がオロオロして本来なら批判すべき宮迫らの行動も批判できず、ただただグダグダの会見になってしまったということでしょうね。

これ、こういう事態になることは普通の会社にとってあまりないことだとは思いますが、アクティビスト・ファンドから攻め込まれた会社も同じような状態に陥る可能性はあると思います。アクティビスト・ファンドに株式を10%程度握られ、株主総会で大幅増配の株主提案を上程される。そしてアクティビスト・ファンドが「社長!そもそも会社は誰のものとお考えですか!?会社は株主のものですよ!社長は株主を軽視している!」などとまくし立ててくる場面ですね。吉本興業の社長は松本人志さんにおそらく「会社は芸人で成り立っとるんやぞ!」と言われ、「はいーーー!仰せの通り!」と言ってしまったのでしょうね。だから「芸人ファーストでやっていきます」などというとんでもない方向に経営のかじを切ろうとしています。株主総会の場で、会社は株主のものであると主張されたときに、社長が「確かにそうです。」と認めてしまうと、その後、どんな主張にも反論できなくなります。会社は株主のものであるという主張を認めることは、株主の言うことには背くなということです。だから会社は株主のものであるという主張に対しては「違う」と言わなければなりません。そして「会社は株主だけのものではありません。私は社長として、株主以外のステークホルダーである従業員や取引先、金融機関、地域社会の中長期的な利益も考えなくてはなりません。短期的には株主の利益にかなう経営であっても、中長期的に全ステークホルダーの利益にかなわない経営であれば選択することはできません」と主張しなくてはなりません。

私のように、大企業の経営をしたことのない者が言うことではないのですが、吉本興業の社長は社長の器ではない、と感じました。おそらく未上場会社がゆえに、会社は誰のものか?ステークホルダーとはなんぞや?を真剣に考えていなかったのではないでしょうか?だから芸人というステークホルダーの利益代表である松本人志さんの意見に振り回されてしまい、グダグダな会見をしてしまったのでしょう。芸人である松本人志さんが「芸人ファーストだ!」と主張するのは当たり前です。社長は、各ステークホルダーを代表する方々の主張に耳を傾け、どのような利益配分をするのが会社の中長期的な発展につながるのかを考えなくてはなりません。吉本興業はMBOをすべきではなかったと思います。会社は未上場会社になった瞬間から、経営者の実力がドンドン低下していくのだろうと私は思います。なお、今回の吉本興業のドタバタは、芸人というステークホルダーをこれまで軽視してきた結果起きたこととも捉えられますので、株主を軽視したら痛い目見ますよという教訓にもなるかもしれません。

ところで吉本興業っていつMBOしたか覚えていますか?2009年9月~10月にかけてTOBを実施して非公開化したようです。調べてみても、開示されているのは2010年2月12日の第3四半期報告書が最後です。つまり、2010/3期の有価証券報告書を提出する前に非公開化したようです。皆さん、2010/3期の有価証券報告書から何の開示が始まったか覚えていますか?そうです!1億円以上の報酬開示です!芸人に役員報酬を知られるのがイヤだから非公開化しました?ま、そんなことはないのでしょうが・・・。

 

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