2016年12月28日

No.41 今年の振り返り

 2、3日中に日経新聞で「今年の重大ニュース」がまとめられると思いますが、私の専門分野で今年を振り返ります。

 2015年はコーポレートガバナンスコードが制定されたことなどから、ガバナンス元年と呼ばれました。2016年はどのようなことが注目されたでしょうか?やっぱり、最近でも話題になっていますが、出光興産でしょうか?このコラムでもたびたび取り上げましたが、いろんな意味で注目されたと思います。また、マスコミが大きく取り上げはしないものの、川崎汽船も話題になっています。両社に共通するのは、今年の株主総会において、経営トップの賛成率が非常に低かったことです。

 パナソニックの賛成率も87%から67%に低下しています。パナソニックは最近買収防衛策の廃止を公表しました。出光興産は52%、川崎汽船は57%です。出光興産は、株主構成に大きな変化がなく、創業家を説得できなければ、当然ながら昭和シェルとの合併は承認されません。おそらく、今年同様、来年の株主総会で創業家が役員選任議案に反対する可能性があります。その場合、50%以上の賛成率を確保できるでしょうか?役員選任議案が否決されてしまうこともあり得ます。

 川崎汽船はどうでしょうか?エフィッシモの持分は2016年3月期末に30%でしたが、直近では38%に増えました。今年は30%しか持っていなかったけど、経営トップの賛成率は57%でした。来年は少なくとも38%持っていますし、2017年3月末までにさらに買い増す可能性もありますから、来年の株主総会はどうなるでしょうか?

 経営トップの選任議案が否決されるリスクは今年に始まったことではありません。実は何年も前に予兆がありました。私が訪問した会社様にはお伝えしていますが、ニフコという会社を覚えていらっしゃいますか?2011年6月に開催した株主総会で、監査役選任議案が否決されました。反対票の比率は50%強で、ニフコの顧問弁護士と同じ法律事務所に所属していることが問題視されましたようです。

 当時のニフコの株主構成を見てみましょう。2011年3月末です。

 外部からみた安定株主比率は約17%です。外国人株主が41.44%もいますので、ISSが監査役候補者を独立性が低いとみなし反対推奨をした結果、否決されたのだと思います。当時私は多くの会社様に「皆様の会社も同様のリスクを抱えています」としてご紹介しました。外国人株主比率が高い企業にとっては他人事ではないケースだったからです。

「ニフコのケースでは監査役が否決されましたが、いずれ名だたる企業の経営トップが否決される時代がきます」とも申し上げました。外国人株主比率が高い企業の皆様は「本当にそう思う。外国人投資家が納得する説明をしないと否決される議案が出てくるだろう」とお考えになっていると思います。

また「外国人株主はそこそこいるけれど、まあ、うちにとってはまだまだ先の話かな」とお考えになっている企業も多いのではないでしょうか。

今なのか、もうちょっと先なのか、という違いだけであり、いずれほとんどの企業が同様のリスクを抱えることになります。ちょっと余談ですが、ガバナンス改革も重要ですが、ガバナンス改革をした企業には何かしらのメリットがあるような法律改正もしてもらいたいものです。例えば、取締役会の過半数を社外取締役が占めている会社は議案が株主総会で否決されたり、株主提案が可決されたりしても、法的拘束力がない、などといった米国のような制度を取り入れることも必要ではないかと思います。

昨日のコラムで触れたソフトブレーンですが、昨日スカラから株主提案をされたそうです。取締役6名、監査役2名の選任です。ソフトブレーンの公表資料によると、ほぼ全員スカラの出身者です。スカラがソフトブレーンの株式を45.57%取得していますので、抜本的な手を打たない限り、おそらく株主提案は可決されてしまうでしょう。敵対的買収の成功です。

来年の株主総会では、経営トップの議案が否決されるケースが出てくると思います。ガバナンス改革は重要ですが、タイミングを間違えると大変なことになります。一昔前に経営トップの賛成率が50%台になることなどあり得ませんでした。

王子製紙が北越製紙にTOBを実施したのは2006年です。ちょうど10年が経ちました。2006年頃は村上ファンドやスティールパートナーズなどのアクティビストの動きが活発化し、数多くの企業が買収防衛策を導入しました。10年経って、敵対的買収が発生し、エフィッシモなどのアクティビストの動きが再度活発化しています。

ガバナンス改革と買収防衛策は全く別の話であると思います。企業の買収リスクが高まっている中、買収防衛策や株主構成などを再検討すべき時期にきているのではないでしょうか。2015年にトヨタ自動車が個人向けに種類株式を発行しています。日本企業最大の時価総額であるトヨタ自動車が株主構成を意識しています。おそらく数年先の株主構成はどうなるのかを検討した上での行動ではないでしょうか?

ことが起きてから、では遅いです。その時点では手遅れです。皆さん「ソフトブレーンはもう手遅れだな」と思いませんか?しかし、ああなる前に手の打ちようがあったはずです。川崎汽船はどうでしょうか?ソフトブレーンと違って38%だからまだ大丈夫?そんな訳ないですよね。どちらの企業も買収防衛策があればなんとかなっていたと思います。少なくとも経営陣を入れ替えられる状態に陥ってはいなかったでしょう。ソフトブレーンは創業者がまだ株式を持っていました。創業者という安定株主がいるから、株主構成を意識したことや議論したことがなかったのではないでしょうか?川崎汽船は買収防衛策を廃止しましたが、「うちがエフィッシモみたいな投資家に狙われることはないだろう」と楽観視していたのではないでしょうか?上場している以上、すべての企業がソフトブレーンや川崎汽船の状態になるリスクがあります。今リスクはないかもしれませんが、いずれリスクが生じます。

貴社の魅力はなんでしょうか?貴社のことを魅力的と感じる事業会社や投資ファンドは必ずいます。今年は、日本企業を守っていた安定株主神話が崩れた年とも言えます。虎視眈々と貴社のことを分析している人たちがいるかもしれない、ということを念頭において、株主構成や企業価値について議論していく必要があると考えます。

 

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