2017年01月04日

No.42 今年はどんな1年になるでしょうか など2コラム

■今年はどんな1年になるでしょうか

 2015年はコーポレートガバナンスコードが制定されたことで、ガバナンス元年と呼ばれていました。2016年は特になかったと思いますが、あわや経営陣の選任議案が否決されそうになったケースが散見されました。2017年はどんな年になるでしょうか?

 新年早々、不吉なことを申し上げたくはないのですが、年末にも書いたとおり、今年の株主総会では役員選任議案が否決されるケースが出てくる可能性があります。しかも、名だたる会社で。

 一昔前、アデランスの役員選任議案が否決されました。スティールパートナーズに株式を約25%取得され、外人比率も高かったこともあり、アデランスは2008年の株主総会で役員選任議案を否決されました。なつかしい投資家です。明星食品やブルドックソースに対して敵対的TOBを実施した投資ファンドです。今は何をしているのでしょうか。

 スティールパートナーズはいなくなりましたが、エフィッシモが登場しました。登場人物が変わりましたが、登場人物の性格は変わっていません。モノ言う投資家です。そして、必要であれば買い増しもしますし、株主提案もしますし、TOBもします。

 2006年には王子製紙による北越製紙に対するTOBが実施されました。昨年はソフトブレーンがスカラという会社に議決権の約45%を取得されました。事前に株式取得を打診したようですが、まあ、形式的なものであり、実質的には敵対的買収ではないかと考えます。現に、昨年末、役員選任の株主提案をしましたが、ソフトブレーンは反対を表明しています。事業会社による事業会社に対する敵対的買収が成功するかもしれません。というか、これだけの議決権を確保してしまえばおそらく成功するでしょう。

 創業家が合併に反対している出光興産はどうでしょうか?昭和シェル石油に対する第三者割当増資を検討していることが報道されています。第三者割当増資を実施しても発行差止めされてしまうリスクがあります。差止められれば、合併は可決できません。それどころか、現経営陣の選任議案が否決されることもあり得ます。

 私の仕事は予想を的中させることではありません。起こり得るイベントが上場企業に対してどういう影響があるのかを分析することが仕事です。当然、どこの会社も役員選任議案が否決されないかもしれません。しかし、否決されるリスクが一昔前に比べて、各段に上昇しています。一昔前は「いつか役員選任議案が否決される時代が来るかもしれないね」と言っていましたが、とうとうその時代がやってきた!ということです。

 よく「資本市場に背を向けた経営をしてはいけない」という方がいます。私は、資本市場に背を向けてよい会社とよくない会社がある、と考えます。安定株主比率が非常に高い会社は、資本市場に背を向けた経営をしても問題ありません。そもそも外国人株主がほとんどいないのですから、外国人株主の声に耳を貸す必要はないです。むしろ持ち合い先の声に耳を傾けるべきでしょう。だって、持ち合い株主のほうが多いのですから。しかし、持ち合い構造が崩れていく中で、次に増える株主はどんな性格の株主でしょうか?未来を見据えた経営やIRを考える必要があります。

 外国人株主比率が高い会社は当然、資本市場に背を向けた経営はできません。一昔前なら問題なかったかもしれませんが、今はムリです。政府をはじめ、有識者と呼ばれる方々の意見はROE重視であったり、ガバナンス重視であったり、外国人投資家重視であったりするからです。しかし、どこかのタイミングで「本当に外国人投資家重視でよいのか?」という議論が起こると思います。そのトリガーは、名だたる会社での経営陣の否決です。ただし、トリガーが引かれたからといって、即座に「外国人投資家重視でよいのか?」という議論が巻き起こる訳ではありません。時間がかかります。

 その時間をかせぐためには、政府まかせではよくないです。自社を守ることができるのは、現在の経営陣です。今まさに、企業価値の源泉を守るための選択肢を検討するタイミングです。

 ちなみに、買収防衛策の検討、だけではありません。自己株取得や増配も検討材料の一つです。また、一度検討したからよい、という話でもありません。このテーマは永遠に続きます。議論を継続していくことが重要です。マーケットの登場人物は次々と現れます。

■新しい買収防衛策を検討してみませんか?

 日本で導入されている買収防衛策は、「当社株式の20%以上を取得する場合は、事前に買収提案の詳細情報を提供してください。提案内容を検討する時間をください。ルールを破ったり、提案内容が企業価値・株主価値を棄損したりするような場合は買収防衛策を発動することがあります」という内容です。

 昨今、パナソニックもそうですが、買収防衛策を廃止する企業が増えています。廃止する主な理由は、国内外の機関投資家による反対、です。では、なぜ機関投資家が日本企業による買収防衛策に反対するのでしょうか?

 理由は簡単で、「日本の経営者は買収防衛策を保身のために利用するかもしれないから」です。では、なぜ機関投資家は日本の経営者が買収防衛策を保身のために利用しようとする、と思うのでしょうか?米国のように超高額な報酬を会社からもらっている経営者は少なく、どちらかというと滅私奉公的な経営者が多いと私は思っており、性善説に立っていますので、日本の経営者は買収防衛策を保身に利用することはないと思います。でも機関投資家はそう考えません。

 おそらく、「いやいや、逆に、きちんと報酬をもらいなさいよ。ただし、ちゃんと社外取締役も採用しなさいよ。株主のためのコーポレートガバナンス体制を整備してくださいよ」と考えているのではないでしょうか。それであれば、株主の目線とあった買収防衛策を導入してはどうでしょうか?

 つまり、今の日本の経営者の報酬は少なく、機関投資家は「買収されて経営陣がクビになってしまうと、今の日本の労働環境では再就職も難しい。だから日本の経営陣は絶対に買収に抵抗するのではないか」と感じている可能性があります。買収提案が実現されれば、経営陣もメリットを享受できるような買収防衛策である場合、機関投資家も納得してくれる可能性があります。

 そこでおすすめする施策は「ゴールデンパラシュート」です。ゴールデンパラシュートとは、「買収により対象会社の経営陣が解任されたり、権限を減らされたりした場合に極めて多額の退職金等を支払う契約を締結し、多額の現金の流出を招くことによって、買収コストを引き上げ、買収者との交渉材料として活用するという対抗措置のことをいう。」です(野村證券「証券用語解説集」より)。

 私が提案するのは、今までのようなゴールデンパラシュートではありません。簡単に言うと、「買収提案がなされたときで、かつ、経営陣が買収提案価格を引き上げられたときのみに与えられる特別報酬制度」というイメージです。買収されたら身分が保証されないから日本の経営陣は買収提案を何としてでも拒絶するんじゃないかと危惧する機関投資家の不安を払しょくするための施策です。これがあれば、「経営陣も買収提案を引き上げれば、仮にクビになっても生活していけるだけの報酬をもらえるのだから、拒絶はしないだろう」と考えてくれるのではないでしょうか。

 「ん?いや、そんな特別報酬制度を入れなくても、役員報酬を引き上げればいいじゃないか」という意見があると思います。ごもっともです。おっしゃるとおりなんです。でも、「日本の経営陣ももっと報酬をもらうべきだ」と言われて何年経つでしょうか?最近では株式報酬制度を取り入れている会社も増えているとは思います。しかし、多くの会社は欧米並みの報酬を受け取っているのでしょうか。「今クビになっても明日から苦労しないよ」という報酬をもらっている経営陣はどれくらいいるでしょうか。

 であれば、ちょっと奇策ではありますが、こういった特別報酬制度を取り入れてもよいのではないかと考えます。なお、特別報酬制度は、新株予約権や種類株式などを活用することも考えられます。いずれせよ、株主に承認してもらうことによって安定性の高い制度設計にすることが考えられます。

 ちなみに、この特別報酬制度、よく考えると買収防衛策ではありません。ある意味、買収促進策とも言えます。

 

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以前にも書きましたが、買収防衛策の導入・継続議案に賛成してもらう具体的方法です。以前の案は以下のとおりです。

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