2017年01月26日

No.51 50回目のテーマにしようと思っていた内容~長いです~

これまでのコラムのまとめ的な内容です。

 本コラムで繰り返し書いていますが、なぜ買収防衛策が必要と考えているか?アドバイザーは、よく、「貴社が買収防衛策を必要であると考えるなら導入したらどうですか?ちなみに、投資家やISSは基本的に反対のスタンスですし、廃止している企業が増えています。」とアドバイスします。このアドバイスはアドバイスになっていません。ある意味、リスクを取らない無責任な誰でも言えるアドバイスと言えます。

 当社は「買収防衛策は必要です。導入すべきです。」とアドバイスします。もちろん、「事務局としては必要と考えているけど、投資家に反対されるリスクがあるし、いきなり導入すべきと経営陣に言われても困る」とお考えの方がいらっしゃることは理解していますので、会社の内部事情を勘案した上で、オブラートに包んだアドバイスもします。

なぜ必要か?どの会社も買収されるリスクがあるからであり、買収提案があった際には時間と情報の確保が必要不可欠であるからです。以下、いろんなケースを分析していきます。そのうえで、なぜ買収防衛策導入に踏み切れないか、今後どうすべきかをまとめます。

~時間を確保できず買収されそうになった、もしくは、買収されたケース~

かなり前のケースですが、ドン・キホーテがオリジン東秀にTOBを実施しました。以下、時系列に出来事をまとめたものです。

ドン・キホーテは2005年8月にオリジン東秀株式を23.62%取得しました。誰から取得したかと言うと、オリジンの創業者のご遺族から取得しました。そこからドン・キホーテはオリジンと業務提携に関する協議をしましたが、年が明けて2006年1月に突然TOBを実施しました。オリジンはドン・キホーテのTOBに反対し、イオンがホワイトナイトとして登場しました。細かい経緯は割愛しますが、結果的にはイオンのカウンターTOBが成功し、オリジンはイオンの傘下になりました。オリジンは買収防衛策を導入していませんでした。2005年は買収防衛策の導入がようやく始まった時期です。ドン・キホーテが23%の株式を取得したから買収防衛策を導入しよう!という発想がなかったのかもしれません。オリジンのケースにおいて買収防衛策を導入するとしたら、ドン・キホーテによる23%の株式取得が判明した直後のタイミングでしょう。設計としては、トリガーを25%に設定した買収防衛策です。そうすれば、追加で取得する場合は買収防衛策に則り、時間と情報をドン・キホーテはオリジンに提供する必要があります。買収防衛策を導入していたらどうなっていたでしょうか?当然、ドン・キホーテはTOBを仕掛けてきた可能性は否定できません。しかし、ルールを破ってまで仕掛けたかと言うと、それは疑問です。買収防衛策を導入していれば、もしかしたら、オリジンはイオンの傘下ではなく、今でも独立した上場企業だったかもしれません。

もう一つは、ソフトブレーン。これは最近もコラムで取り上げたケースです。

スカラ社(当時はフュージョンパートナーという社名)が提出した大量保有報告書を見ると、5月時点でも少し株式を取得していますが、6月27日に市場で発行済株式総数の約11%と大量に取得しました。その後も急激に買付け、およそ10日で約38%取得しました。7月12日時点での総議決権に対する割合は45.57%となり、スカラ社はソフトブレーンを連結子会社としました。ソフトブレーンは買収防衛策を導入していませんでした。ソフトブレーンは本件対応において買収防衛策を導入するタイミングはあったのでしょうか?残念ながら本件では、買収防衛策を導入する判断は難しかったと言えます。非常に敏感な経営者で、かつ、アドバイザーがついていれば、2016年5月中旬から6月にかけて、一度出来高が急増した時点で「何かおかしくないか?」と考えて買収防衛策の導入を検討したかもしれません。しかし、ほとんどの経営者・アドバイザーはそこまで考えがおよばないと思います。それに、ソフトブレーンの株主構成を見ればわかりますが、経営陣には安定化対策という考えはなかったと思います。創業者がけっこう株式を持ってましたから。宗文洲さんという方ですね。たまにテレビに出ています。オーナー創業者が株式を持っている状況において経営陣は安定化対策をしにくいと思います。ちなみに、宗さん、ソフトブレーンの株式を売っちゃいました。直近の持分は5.22%です。変更報告書を見ますと、市場で売却したようです。保有目的を見ると「安定株主として長期保有を目的としております」とあります。今となっては「いやいや、売ったやないか!」ですね。

現在、役員選任と増配に関する株主提案をスカラ社がソフトブレーンに対して行っています。これだけ持たれてしまったので、普通に考えたら3月の株主総会ではスカラ社の提案が可決されてしまいそうです。本ケースは、出来高が急増したという予兆があったものの、まさか買収されるとは思わないレベルでした。しかし、買収防衛策を平時から導入していれば、こんなに取得はされていなかったでしょう。また、あまりにも株式の取得ペースが早すぎました。大量保有報告書が、例えば、5%レベルの時点で提出され、その後もどんどん買い増されていることが変更報告書でわかれば、買収防衛策を導入して対策を講じることができたでしょう。それができないくらいに、取得ペースが速かったということです。

オーナー以外に安定株主が実はおらず、個人株主比率があまりにも高いことから、一旦株価が上がればどんどん売却されてしまい、買い集めやすい状態であったということです。

オーナーには聞きにくいことかもしれませんが、平時のうちからオーナーと今後の株主構成に関して議論しておくべきだったのでしょう。そのうえで、買収防衛策を議論し導入しておく必要があったのだと思います。

~株式を相当程度取得されてから買収防衛策を導入したケース~

 以前、「このご時世に買収防衛策を新規導入する会社とは?」というタイトルのコラムをお送りしました(2016/01/10 IBコンサルティングコラムNo.44)。

 上記のうち、大量保有報告書が提出された会社が「株式を相当程度取得されてから買収防衛策を導入したケース」に該当すると思います。

また、有名になったケースだと、東京鋼鐵という会社です。「いちごの乱」として当時新聞でかなり報道されました。もちろん「大量保有報告書が提出されたから導入した」などと会社が言っている訳ではありませんが、外部から見たときにそう見えるということです。

2007年に東京鋼鐵は大阪製鉄との経営統合を公表しましたが、統合比率が東京鋼鐵にとって不利であることを理由に株主であるいちごアセットがプロキシーファイトを仕掛け、統合議案を否決しました。統合議案が否決された時点でいちごアセットは東京鋼鐵株式を約10%保有していましたが、その後買い増しました。その取得途中に東京鋼鐵はトリガーを25%に設定した買収防衛策を導入しました。いちごアセットは東京鋼鐵の株式を24.71%まで取得しましたが、トリガーである25%は超えませんでした。買収防衛策の効果があったということですね。

なお、2015年7月にいちごアセットは保有する東京鋼鐵株式を第三者に市場外で売却してExitしたようです。かなり長期にわたって保有しました。ちなみに、大阪製鉄は2016年に東京鋼鐵に対してTOBを実施し、子会社化しました(東京鋼鐵は上場廃止)。買収防衛策を導入していなかったら、いちごアセットの保有割合は24.71%では止まらなかったでしょう。

ある意味、後出しジャンケンかもしれませんが、買収防衛策には効果があるということが証明されたケースだと思います。もちろん、買収防衛策を順守しないことも想定されたでしょう。しかし、25%を超えてどんどん買い増され、33.4%まで買われる可能性だってあったわけです。そうなると、株主総会における拒否権を握られてしまいます。もっと買われたら、実質的に過半数を握られることだってあった訳です。そういう事態を避けるためには、ある意味、有事導入型に近いかもしれませんが、買収防衛策を導入したということです。結果的に投資ファンドはルールを破って25%以上の株式を取得することはしませんでした。2007年に統合議案を否決されてから、2015年に売却するまでの約8年間、いちごアセットは東京鋼鐵株式を保有し続けました。売るに売れなかったのかもしれません。でも、東京鋼鐵は買収防衛策のおかげで、経営を支配されることはありませんでした。

~買収防衛策を廃止し、その後、株式を相当程度取得されたケース~

 もう言うまでもありませんが、川崎汽船です。最近はエフィッシモも買い増していないようですが、今年の6月総会はどうなるのでしょうか?直近でエフィッシモは約38%保有しています。昨年の株主総会における社長選任議案の賛成率は約57%です。おさらいしますと、以下のとおりです。

2015年5月に買収防衛策の廃止を公表、2015年9月にエフィッシモが大量保有報告書を提出し6.18%保有していることが判明。以降、変更報告書がたくさん提出されているので上のグラフでは表示していません。直近の変更報告書は2016年12月12日に提出されています。

「買収防衛策を廃止したのが間違いですな」 そりゃそうです。川崎汽船も本当は廃止したくなかったのではないでしょうか。でも外国人株主比率が高まり、買収防衛策を否決されるかもしれない株主構成になってしまったから、やむなく廃止したのかもしれません。廃止直前の川崎汽船の株主構成は以下のとおりです。外国人株主比率が40%と高いです。

買収防衛策を廃止した会社は川崎汽船のように狙われた場合、なす術がないのでしょうか?手はあります。買収防衛策をもう一度導入すればよいのです。

「いくらなんでもみっともないでしょう?」とおっしゃるかもしれません。おっしゃるとおり、みっともないですね。しかし「みっともないけど、再導入しないと経営を支配されます。役員の皆さん、クビになりますけどいいですか?」です。

おっしゃるとおり、廃止した買収防衛策を再導入することはみっともないですし、ハードルがあります。だって、自分から「いらない」と言ったのに「やっぱりいる」と言うのですから。ではどう理屈をつけましょうか?廃止する前と後で何かが変化したから再導入する必要がある、と言わなければなりませんし、ほとんどの株主が再導入には反対すると考えた方がよいでしょう。

理屈は一つしかありません。「だって、こんなに大量に株式を取得しているのに純投資と言い続けている株主なんて信用できないよ!買収防衛策を再導入して株式取得の真の目的や今後の方針を確認しないとダメ!」と言える買収者かどうかです。

つまり、濫用的買収者とまでは言い切れないものの、世間から「まあ、再導入するわなあ」と思ってもらえるような買収者かどうかです。そう主張できる買収者であれば、かなり丁寧に理屈を説明する必要はあると思いますが、買収防衛策の再導入も不可能ではありません。また、トリガーも工夫すれば何とかなるのではないでしょうか?廃止する前は20%のトリガーだとしたら、再導入するときは30%にする、とか。経営に相当なレベルで影響を与える株式取得のみに適用する買収防衛策、という立てつけです。なお、特定の株主をターゲットにするような買収防衛策になりますので、東証には慎重に意図を伝えて相談する必要はあります。

~買収防衛策を廃止した理由の考察~ 

上表のとおり、買収防衛策を廃止した会社は増えています。今後も増えるのでしょうが、理由が気になります。ということで、買収防衛策を廃止した会社のプレスリリースから理由をいくつか列挙します。

企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上の観点から、慎重に検討した。

 

社を取り経営環境等が買収防衛策導入時から化した。

 

国内外の投資家をはじめとする株主の皆のご意見を考慮した。

 

・買防衛策をめぐる近時の動向などを考慮した。

 

金融商品取引法による大規模買付行為にする規制が浸透し、買収防衛策の目的が一定程度保された。

 

・当社取締役会は、コーポレート・ガバナンスのあり方に関し議論を重ねる中で、買収防衛策の必要性につき、現時点においてはその意義が低下したものと判断した。

 

社は、金融商品取引法の整備やコーポレートガバナンス・コードの浸透など外部環境の化を注視しつつ、機投資家のなども考にしながら、買収防衛策の取り扱いについて慎重に討した。

 

・持的な成長と中長期的な企業価値の向上をること、また環境化に迅速・的確に対応し、かつ透明性の高い経営体制の現に向けてコーポレート・ガバナンスの充強化に取り組むことが株主共同の利益の向上に資するものであり、また金融商品取引法による大規模買付行為にする規制が浸透し本プランの目的が一定程度保されたことを合わせて考慮すると、本プランの必要性が相的に低下したものと判断した。

 

1個1個論破することはできます。例えば、「金融商品取引法の整備により大規模買付行為に関する規制が浸透し」とありますが、本当に浸透しましたか?改正後の公開買付規則に則って行われた敵対的TOBは何件あったか答えられるでしょうか?答えは2件です。質問権を行使したケースはたった2件しかないのです。改正された公開買付規則に則ったTOBはたくさん実施されていますが、敵対的TOBはほとんど実施されていませんので、買収防衛策の目的が担保されるほど浸透したとは言えないですね。というか、「浸透」ってなんですかね。法律が改正されたのだから、浸透も何もないと思うのですが。

「買収防衛策の意義が低下した」・・・本当ですか?10年前は村上ファンドやスティールパートナーズなどの投資ファンドの動きが活発化し、「当社もターゲットになるかもしれない」と考えて導入したのでしょう。エフィッシモが活発に投資していますよ!持ち合い解消が進展し、買収しやすい株主構成になっていますよ!

コーポレート・ガバナンスの充強化に取り組むことが株主共同の利益の向上に資する」・・・当たり前です。

「買収防衛策をめぐる近時の動向を考慮した」・・・廃止している企業が増えたから、ということでしょうか。それは「みんな導入しているから導入しよう!」「みんな廃止しているから廃止しよう!」ということですね。

投資家のなども考にしながら」・・・投資家は2005年の買収防衛策導入時から反対しています。今になって突然反対し始めた訳ではありません。投資家の声に耳を傾けるのは重要ですが、すべての意見を経営に反映させる必要はありません。現に「増配しろ!「自社株買いしろ!」「持ち合い株を全部売却しろ!」という声を参考にして、増配や自社株買いを投資家の言うとおりに実施している企業は少ないと思います。「経営の現場がわかってない!」「短期利益の追求じゃないか!」とおっしゃってませんか?株主と経営陣にはどんなときでも意見の相違があります。買収防衛策だって同じですよ。

なお、廃止のプレスの最後はだいたい「大規模買付行為を行いまたは行おうとする者にしては、大規模買付行為の是非を株主の皆が適切に判するために必要かつ十分な情報の提供を求め、あわせて取締役の意見等を開示し、株主の皆討のための時間と情報の確保に努める等、金融商品取引法、社法その他係法令に基づき、適切な措置を講じてまいります。」と結んでいます。「買収防衛策は廃止するけど、買収提案があったら、株主が応じるべきかどうか判断するための情報や時間を確保するために努力します!」ということです。

え?どうやって?買収防衛策、ないんですよね?公開買付規則によって確保されている情報確保の権利は、質問権1回のみです。公開買付期間は20営業日~60営業日と決まっています。法律で決まっているんです。これ以上の対応を買収者に迫っても「はあ?知らんがな・・・」と言われるのがオチです。

プロからすると、廃止のプレスは矛盾だらけなんです。本当は廃止したくないけど、廃止せざるを得ないから廃止した、という感じがにじみ出ています。中には「流行に乗って」廃止した企業もあると思います。それは論外です。流行に乗って買収防衛策を導入した、は問題ありません。だって、買収防衛策は企業にとってあったほうがよいのですから。もちろん、株主にとってもあったほうがよいのです。流行に乗って廃止ししてしまうより、導入していない企業のほうが全然マシです。廃止した会社は、基本的に2度目の導入はハードルが高いですから。投資ファンドの格好のターゲットになると考えておいたほうがよいと思います。

廃止するくらいなら、初めから導入しなければよかったのではないでしょうか。廃止せざるを得ない事態になったのであれば理解できます。ただし、買収ターゲットになった場合、対応に苦慮する可能性があることは認識しておいたほうがよいです。きっと真面目に検討して「投資家の声に耳を貸そう」と考え「買収防衛策を廃止しよう」とお決めになったのだと思います。まともな買収者であれば問題ないのですが、皆さんが過去気にしていたのは「まともじゃないヤツが来たときにどうしよう」ではなかったでしょうか?

買収防衛策という武器を捨てたのですから、買収防衛策があったとき以上に有事のことを想定してきちんと準備しておくべきでしょう。

~買収防衛策を継続している会社~ 

 先ほどのグラフにある473社です。まだ買収防衛策を継続して導入している会社です。上場会社って2016年12月末時点で3,539社です。全上場会社の約13%が買収防衛策を導入しているということです。ちなみに、監査等委員会設置会社に移行した会社は2016年7月13日時点で637社です。差はありますが、比較しても、まだけっこうな数の会社が導入していると言えます。

買収防衛策を継続している会社にはいろんな理由があると思いますが、まだ安定株主をある程度確保しており、株主総会で買収防衛策が否決されるリスクが低い会社なのでしょう。このまま継続すべきと考えます。しかし、買収防衛策を継続できている会社でも「やっぱり廃止したほうがよいのではないか」と考えている会社もいらっしゃると思います。過去、投資ファンドなどのターゲットになったことのある会社は廃止することは考えないと思いますが、ターゲットになったことはなく「買収防衛策を導入している企業が増えているからうちも導入しておこう」と考えて導入した会社は廃止を考えてしまうと思います。繰り返し申し上げますが、廃止したら再導入することはかなりハードルが高いと考えておいてください。

一度飲んだクスリは、医師が「もう飲まなくていいですよ」と言うまで飲み続ける必要があります。買収防衛策における医師とはアドバイザーのことです。患者の勝手な判断でクスリをやめることにはリスクがあります。

しかし、「そうは言っても外国人株主比率が高くなりすぎて否決されるリスクがある」という状況に陥ってしまった場合、医師であるアドバイザーに相談する必要があります。アドバイザーが「外国人株主比率が高くて否決されてしまうかもしれません。廃止している企業も増えていますので貴社も・・・」などとアドバイスした場合、セカンドオピニオンをもらうことをおすすめします。クスリをやめるのではなく、クスリそのものやクスリの飲み方を変える必要がある、ということです。

 買収防衛策の中身を変えたり、株主総会に買収防衛策をかけるという方法を変えたりすることで対応する必要があります。投資家へのアピールの方法を工夫することで理解を示してくれる可能性だって残っています。また、否決されても可決されるまで株主総会にかけ続ければよいのです。カプコンはそうしました。買収防衛策は必要なんだという信念をもってかけ続けることです。「廃止」は最後の最後の選択肢です。

~まとめ~

 買収防衛策を廃止した会社は、10年前の騒動を忘れてしまった可能性があります。10年前、村上ファンドやスティールパートナーズの投資行動が、毎日の新聞紙面を賑わせました。新聞だけではありません。テレビだって報道していました。「うちも狙われるかもしれない。」「株式を取得されたら大変なことになるぞ!」と思ったことでしょう。

 月日というものは怖いものです。大変だったあの時代を忘れてしまいます。担当している方が変わったということもあるのかもしれません。

「はて?なんでうちは買収防衛策を導入しているんだ?みんな廃止してるじゃないか」と。廃止した「本当の」理由は各社さまざまです。「やばい!外国人株主比率が高すぎて否決されるぞ!」と考えて廃止した会社は「必要だけど否決される可能性が高い。責任問題になるし、何より総会議案が否決されるなんてみっともない!もう廃止しよう!」とやむなく廃止したのだと思います。必要だけれど廃止したのです。

新規導入した会社を見てください。誰かに買われていたり、安定株主が少なくなっていたりと、何かしらリスクが発生しています。皆さん、何かあるとやっぱり買収防衛策を導入するんです。なぜか?訳も分からないままに、どこの誰とも知らない人の傘下企業にはなりたくないからです。少なくとも、買収者がどういう人なのか、買収後にどういう経営をするのか、従業員を切り捨てるようなことはしないのか、などをきちんと確認したいのです。それに、買収防衛策には一定の効果があると認識しているのだと思います。

 だったら、平時から買収防衛策をきちんと導入しておくべきではないでしょうか。また、「うちは買収を防衛するための策を導入しているつもりはない」とはっきり主張すべきなのです。だって、単に時間と情報を確保するための策なのですから。東証が「(買収防衛策)とプレスリリースの表題に入れろ」と言っているから買収防衛策と書いているに過ぎません。

 しかし、そうは言っても「買収防衛策を株主総会にかけたら否決される可能性がある」とお考えるになるでしょう。特に外国人株主比率が高い場合。取締役会決議で導入すれば問題ありませんが、ISSは買収防衛策を株主総会にかけずに導入する場合、経営トップの選任議案に反対推奨するという方針です。「買収防衛策を総会にかけないで、社長選任議案が否決されたら本末転倒」というご意見もあると思います。反対推奨されても、社長選任議案が否決される事態にまではならないと思います。ただし、年々、投資家の議決権行使スタンスは厳しくなっているので、工夫もせずに正面突破するのはかなり怖いと思います。

 ではどういう工夫が必要でしょうか?投資家の懸念を払しょくしつつも、買収防衛策の機能を失わない工夫です。投資家は買収防衛策の何に対して危惧しているのでしょうか?むやみやたらに時間を稼ぎ、買収をなかったことにしてしまうのではないかという危惧だと思います。

 絶対に保身に使わない、と明言しましょう。買収防衛策のプレスとは別に「宣誓書」のようなものも出しましょう。また、投資家を訪問し、買収防衛策のうち保身に使える余地のある部分を説明した上で、保身に使える余地はあるがそもそも交渉ツールとしては

必要な部分であり、保身には絶対に使わないし、社外取締役がきちんと監視する、と社長やCFOの口から伝えましょう。なんなら社外取締役にも同行してもらって「私がちゃんと監視します」と言ってもらいましょう。

 また、「今さら買収防衛策ってかっこ悪くないか?」と感じている方もいらっしゃるでしょう。一般的な買収防衛策のプレスリリースを公表すれば、世間は「なんで今さら?」と思うでしょう。ようはプレスリリースをいかに工夫するかです。「なるほど。この会社は常に買収防衛策の必要性を検討してきて、やっぱり必要だと感じたから導入したんだな」と思ってもらえるような情報発信をすればよいのです。ある意味目立ちますが、私はよい意味で目立つと思います。

 

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