2017年02月13日

No.56 大塚家具が中期経営計画を取り下げ~議決権行使助言会社の責任は?~

 大塚家具が決算発表をしました。2016年12月期は売上高463億円(前期比▲20.2%)、営業利益▲45億円、経常利益▲43億円、当期純利益▲45億円だそうです。また、2015年2月に策定した中期経営計画を取り下げるそうです。約束していた配当80円/株も40円/株に引き下げました。この中期経営計画は、大塚久美子社長とお父さんがプロキシーファイトを行った際に、「この中期経営計画を達成するんです!株主の皆さん、私を支持してください!」と主張した時に使用したものです。ちなみに、議決権行使助言会社のISSは大塚久美子社長を支持しました。

 プロキシーファイト時、大塚家具は44 回定時株主総会におけるISS 社による社側役員選任議案への成推および株主提案議案への反について」というプレスリリースを出しました(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-3-16-02.pdf)。ISSが出したプレスリリースではありません。ISSが大塚久美子社長を支持した理由を大塚家具が引用する形で出したプレスリリースです。主な内容を抜粋すると、以下のとおりです。

「取締役の構成については、社提案の候補者には、ブランド略の門家、国内外における豊富な経験を有するマーケティング・コンサルティングの門家、トップランクのアナリストとしての経歴を有する小業界のコンサルタント、百貨店事業のエキスパート、社外取締役としての経験を有する金融門家などが含まれていることから、社提案の取締役候補者が株主提案の取締役候補者よりもより充した経験を有するという印象はぬぐいがたいと指摘しています。また、社提案の立社外取締役の比率60%であることにし、株主提案では50%にとどまることのほか、コーポレートガバナンス・コードの中で述べられている多性の促進という観点から、社提案では女性取締役の比率が30%を占めるいっぽう、株主提案ではゼロであることも指摘されています。ISS 社は、結論として、大塚久美子社長が外部環境の化を正しく把握し、その化に対応しうる経営戦略をげ、またその行が可能な社外取締役候補の陣容を擁立していること、これにして、提案株主

の企業価値向上策には、得力のある根が乏しいことから、社提案への成を推しています。社は、ISS 社が、上記のように、社定時株主総会議案に連して、社提案と株主提案を具体的かつ客的な論をもって適切に評分析した上で、社提案の役員選任議案に成を推し、株主提案の全ての議案に反を推したことを踏まえ、株主の皆におかれましても深慮ある議決の行使をお願いしたいと存じます。」

 当時のISSの推奨は、今回の決算や中期経営計画の取り下げにより、まったく的外れであったことが証明されてしまいました。たぶん「いや、お父さんの提案に説得力がなかったことが問題なんです。お父さんが経営していたらどうなっていたかわかりません」と言い訳するかもしれません。だったら「家具屋の経営はわからないから、機関投資家の皆さん、ご自身で判断してください」と賛否の推奨をすべきではなかったということです。

私、特に議決権行使助言会社に恨みがあるわけではありません。しかし、「なんでそんな推奨するの?」と何度か不思議に思ったことがあります。また、私がプロキシーファイトのアドバイスをした会社に対して「いくらなんでもとんちんかんじゃないか?」といった推奨がなされたこともあります。まあ、あまりよい思い出がないことは事実です。

 大塚家具の件において、議決権行使助言会社に何らかの責任があるかというと、彼らの顧客である機関投資家がどう判断するかということだと思います。議決権行使助言会社は公的機関ではありませんので社会的責任があるわけではありません。顧客である機関投資家が「議決権行使助言会社の意見は当てにならん」と思うかどうかです。

 しかし、大塚家具のプロキシーファイトにおけるISSのアドバイスは、ネガティブキャンペーンの材料に使えると思います。どういう風に使いましょうか?貴社に株主提案があったときに、ISSが貴社にネガティブな推奨をするおそれがある場合に使いましょう。

 「ISSはガバナンス関連の議案にアドバイスはできるが、会社の本質的な経営に関する議案にアドバイスする能力はない。大塚家具の中期経営計画の取り下げにより、それが証明された」ということを主張するのです。つまり、貴社に対して株主提案などが実施された場合、ISSが議案に対して賛否の推奨をすることになる訳ですが、まず貴社から牽制球を投げることが考えられます。これ、重要です。やったことのある会社はないと思います。ISSの賛否推奨が出る前にやることに意味があります。

「ISSは経営・株主還元に関しては素人です。大塚家具のプロキシーファイトにおける賛否推奨におけるアドバイス内容を見てください。大塚家具の決算と中期経営計画の取り下げを見てください。ISSの推奨は間違っていたということです。我々は当社の議案と株主提案に関して、ISSが株主に対して賛否の推奨をしないことを要請します。」という趣旨のプレスリリースを打ちます。もちろん、これはISSにケンカを売ることになるので、貴社の株主構成などを慎重に分析した上で対応する必要があります。

株主提案で実質的に問題になりそうなのは配当や自社株買いなどの株主還元だと思いますが、大塚家具は配当も引き下げました。これは、多けりゃいいというもんではない、ということのサポート材料になると考えられます。経営の先行きを見通せないISSに配当に関する推奨ができるはずがない、経営陣の主張を支持してください、ということを訴えるための材料になります。

 今まで日本企業は反対される可能性がある議案がある場合は、ISSを訪問し「どうかうちの議案に賛成推奨してください」とお願いしてきたケースがありました。「ISS詣で」と私は呼んでいました。これ、やめましょう。そもそも賛否推奨がISSにできないレベルの議案については「口を出すんじゃない!そんな実力ないんだから!」とはっきり主張しておくべきではないかと考えます。冷静に考えたら、ISSが、経営の根幹に関わる議案や配当議案に適切な分析・推奨ができないのは当たり前なんです(少なくともISSジャパンは)。だって、議案分析している人って誰ですか?その業界の専門家ですか?セクターごとに分析する人がいますか?ということです。ISSジャパンにそれほど社員はいないでしょう?

 ISSもビジネスでやってます。ISSのビジネスを否定するつもりはありませんが、ISSのビジネスの犠牲になる必要はありません。「お宅らはガバナンス議案に対する賛否推奨はできても、経営の根幹に関わる賛否推奨はできないはずだ。できないことをやろうとするんじゃない!」です。でもISSは賛否推奨をします。それが彼らの仕事ですから、会社側が「できないんだからするんじゃない」と言っても引き下がらないでしょう。

貴社の株主がこれに対して「なるほど。ISSの推奨内容をうのみにするのではなく、ちゃんと会社の言うことを分析しよう」と思ってくれるかどうかです。それには、普段からの株主に対する情報発信のスタンスも問われます。株主との信頼関係を構築するために、普段から体制を整備することが重要です。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

東芝の株主総会議案に対して、ISSは会社提案には賛成、株主提案には反対を推奨しました。しかし、車谷CEOの賛成率は57.96%しかなく、株主提案の賛成率は43.43%もありました。機関投資家はISSの推奨内容にあまり従っていないということで ...

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ