2019年10月01日

No.678 脱株主宣言!

遅すぎるくらいです。9月28日(土)の日経8面にあった記事ですが、

「我々の第一の責任は我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、母親、父親をはじめとするすべての顧客に対するものである」

顧客の次は従業員、地域社会へと説明は続くのだが、同社に聞くと利害関係者たちの間にはやはり序列は存在しない。顧客以下の順番は企業の損益計算書を表し、顧客(売上高)を大事にすれば従業員の給与(営業利益)、納税(経常利益)、配当(純利益)とすべてが潤されるのだそうだ。つまり「株主至上」ではない、「利害関係者重視主義」というわけだ。

という部分があります。これ、以前のコラムで私も書きました。損益計算書を見れば明らかなのです。ステークホルダーは誰がエライとか誰が一番だとかではなく、どのステークホルダーの利益も重視しなければならないのです。株主至上にしてしまうと、必ず割を食うステークホルダーが出てきます。そうなると、そのステークホルダーのモチベーションが低下し、企業価値の最大化につながらないのです。だから経営者は誰かの利益至上主義に陥るのではなく、すべてのステークホルダーにバランスよく利益を配分するよう心掛ける必要があるのではないでしょうか?株主の利益のために従業員をリストラするなどもってのほかでしょう。リストラされるかもしれないという恐怖を抱きながら従業員がまともに仕事ができるとは思えないですし、そのような職場環境では中長期的な価値を損なってしまいます。

ただし、繰り返しになりますが、日本の経営者は株主利益を軽視してきたことは事実です。後日のコラムでまとめるつもりですが、なぜ日本の経営者は株主利益を軽視してきたのでしょうか?諸悪の根源は日本の証券会社にあります。皆さん一度は聞いたことあるのではないでしょうか?証券会社の営業マンの「社長!公募増資をしましょう!増資で得た資金は返す必要のないお金です!」というセールストークを・・・。これが諸悪の根源です。

さて、話を変えます。記事の以下の部分も気になるところです。

ある種の衝撃が走った。最上位にいた株主が突如、顧客、取引先、従業員、地域社会の後ろに降格させられたような格好だったからだ。よく読めばそうでもないのだが、顧客などと同列に置かれることになるアクティビスト(物言う株主)などの強硬派は内心穏やかではないだろう。

皆さん、ホッとしませんでしたか?最近、株主至上主義からの決別宣言がらみの記事が非常に多かったですから、皆さんも「アクティビストの攻勢にも歯止めがかかるのではないか?」と思いませんでしたか?別にアクティビストは内心穏やかではないことはないと思いますよ。降格させられたなんて思いもしないでしょう。例えば村上ファンドがこの記事を読んで「チッキショー、悔しい!オレ様たちが最上位であるべきなのに!」って思う訳ありません。彼らは最上位に来るように、経営者が無視できないように、たくさんの株式を市場で買うのです。そして経営者に「オレ様たち株主がステークホルダーの最上位に位置するのだ!」と主張します。そして「配当をだせ!自社株買いをしろ!オマエの会社は身売りすべき会社だ!」と圧力を加えます。

脱株主宣言といった記事が増えても、アクティビストの攻勢は弱まりません。いくら脱株主宣言をしても、一定程度の株式を取得されたら経営に与える影響は現実としてあるからです。横暴な株主に我が物顔をされないためにすることは、このような脱株主宣言と言った世間の風潮に頼ることではありません。そもそも日本の会社は脱株主宣言をするほど、まだ痛い目にはあっていません。ただし痛い目にわざわざあう必要はありません。アクティビストが寄ってこないようにやるべきことをやっておけばよいだけです。

どんな会社でもアクティビストは寄ってくる可能性があります。安定株主比率が高くても、です。現に安定株主比率が高い帝国繊維は株主提案をされています。うちは今業績がよくないから寄ってこないだろう、ではありません。何かをすれば、業績がよくなる訳ではないけど株価があがるかもしれません。アクティビストは貴社という会社に興味がある訳ではないのです。アクティビストの関心は貴社の株価ですから。

脱株主宣言の風潮に安心してしまった会社が、アクティビストの次のターゲットになります。

 

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