2018年04月13日

No.310 GMOインターネット 薄氷「防衛策」が抱える弱点(日経電子版)

GMOインターネット 薄氷「防衛策」が抱える弱点2018/4/12 5:30

 GMOインターネットの熊谷正寿会長兼社長は肝を冷やしただろう。321日に開いた株主総会。議案の1つは株主が提案した買収防衛策の廃止案だったが、GMO経営陣が反対する中で賛成票は45%に達したGMOは熊谷正寿社長が実質的に4割の株を保有する。それを除くと8割近い投資家が「NO」を突きつけた格好だ。それでもGMOが防衛策にこだわる背景には何があるのだろうか。

買収防衛策は総会の普通決議の対象。必要な賛成割合は出席株主の過半数だ。賛成が45%というのは、株主提案に反対するGMO経営陣にとってはまさに薄氷での勝利だ。

株主提案を出したのは香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント・カンパニー。いわゆる「もの言う株主」だ。GMO株を1月時点で6%保有している。オアシス以外にもGMOは海外の機関投資家が全体の3割(1712月)を占める。海外勢はもともと経営陣の保身につながるとして防衛策には批判的。でも今回はGMO株を保有する国内証券会社の幹部が「防衛策の継続はありえない。当然(株主提案に)賛成した」というように、国内勢にも反対票が広がったとみられる。

賛成票が膨らんだ要因の1つが、「スチュワードシップ・コード」だ。機関投資家は改訂を契機に、各議案の個別賛否について開示を求められるようになった。結果的に、内外の大半の機関投資家が廃止に賛成したとみられる。

そもそも2006年からGMOが防衛策を採用する理由にはグループ経営がある。GMOはネットの住所を示す「ドメイン」の販売などを手掛けている本体以外に、ネット通販の構築を支援するGMOペイメントゲートウェイ(GMOPG)やレンタルサーバー大手のGMOクラウドなど、上場子会社を8社抱える。

GMO経営陣は「グループは全体でまとまって動くほか、お互いで助け合っている部分がある」と主張。「敵対的買収によってグループが解体すると、日本のインターネットインフラの大半が停止してしまう可能性すらある」と警告し、防衛策の必要性を訴えてきた。

時価総額をみるとGMOは2136億円で、子会社は最も大きいGMOPG(出資比率52%)の3700億円を筆頭に、GMOフィナンシャルホールディングス(同81%)の860億円など合計5100億円に達する。GMOの持ち分だけを合計しても2900億円になることが、GMO経営陣の敵対的買収への危機感につながっている。

買収防衛策は物言う株主からの株主提案が増えた06年以降、多くの企業が採用した。ただ当時から機関投資家の批判も多く、買収意向を持つ側が対象企業からの質問に答えることを義務付けるといった敵対的買収に伴うルール整備が進んだこともあり、廃止も徐々に増えていった。三井住友信託銀行によると、ピーク時の08年7月時点で570社だった導入企業は昨年7月には28%減の413社まで減少。三井住友信託銀の斉藤誠証券代行コンサルティング部部長は「この減少傾向は今後も続くだろう」と話す。

市場の視線は厳しくなる一方で、17年6月の株主総会では東洋紡の防衛策を更新する会社提案に対して、集まった賛成票はわずか51%、森永製菓55%とぎりぎりの可決が目立った。また防衛策を継続する場合でもアシックスが「取締役会の恣意的な判断を避けるほか、株主の意向を反映させるため」に発動の決定を取締役会から株主総会に変更するなど、投資家の理解を得るための工夫もでてきている。

GMOの11日の終値は1856円と株主総会直前の3月20日と比べ1割以上下落している。GMOは「決議の結果については真摯に受け止め、防衛策の在り方について取締役会で議論していく」とするが、「防衛策の継続によって、買いにくい投資家が増えるのでは」(クレディ・スイス証券の米島慶一氏)との懸念も市場に根強い。

そもそも親子逆転ともいえる現象を招いているのは、GMO経営陣が防衛策継続の理由として掲げるグループ経営の利点を示しきれていないことに理由がある。グループ同士のシナジーに投資家が納得すれば、コングロマリットプレミアムとして中心であるGMOの企業価値は保有するグループ会社の株式価値以上に高まるはずだからだ。来年の総会に向けては大株主の力を借りた防衛策よりも、シナジーの実現と市場との対話という攻めの策が有効なのかもしれない。

 

気になるところは赤字にしました。GMOインターネットに対する株主提案の結果についての分析はコラムNo.303をご覧ください。たぶんですが、株主提案への賛成票はほとんどが外国人株主ではないかと考えます。

あとこの記事ですが、ちょっと誤解しているような気がします。オアシスによるGMOインターネットに対する株主提案ですが「第5号議案 当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)廃止の件」となっており、内容は「2006年3月13日開催の当社取締役会において導入され、毎年取締役の全員により継続することが決定されている当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)を廃止し、継続しないこととします。」となっています。そして、「第6号議案 定款一部変更の件(買収防衛策の導入方法)」とあり、主な内容は買収防衛策の導入及び継続に関しては株主総会の普通決議によって決めること、というものです。オアシスは「今、取締役会決議で導入している買収防衛策を廃止しろ。仮に継続するなら株主総会にかけろ」と言っているのです。ちなみに、第6号議案の賛成率は44%です。記事は投資家が買収防衛策にNoを突き付けたというトーンで書いてあるように思いますが、オアシスは今の買収防衛策を廃止しろ、導入するなら株主総会に諮れ、と言っています。まあ、当然、買収防衛策にNoと言っているのと同じかもしれませんが、正確には違います。

また、記事には「買収防衛策は普通決議の対象」とあります。これは間違っています。買収防衛策を導入する会社はほとんどが株主総会にかけて普通決議をとる会社が多いですが、まれに取締役会決議で導入しているケースもあります(エーザイなど)。そもそもの事前警告型ルールは取締役会決議での導入を基本観としていたように思います。また、そもそも買収防衛策は法令・定款に則った議案ではありません(法令・定款に則った議案にするために定款変更している会社はけっこうあります)。

 「買収意向を持つ側が対象企業からの質問に答えることを義務付けるといった敵対的買収に伴うルール整備が進んだこともあり、廃止も徐々に増えていった」 つまり「TOBルールが改正されたから廃止する企業も増えた」と言いたいのでしょうね。はい、間違い!安定株主比率の低下や国内機関投資家まで反対にまわることが増えたことにより買収防衛策継続議案が否決される可能性が高まった、というのが本当の廃止理由です。

 「東洋紡の防衛策を更新する会社提案に対して、集まった賛成票はわずか51%、森永製菓は55%とぎりぎりの可決が目立った。」 だからなんだ?わずか51%?じゃあ「集まった反対票はわずか49%」とも言えませんかね?これだけ買収防衛策に対する風当たりが強いのにわずか49%の反対票しかありません。これだけ風当たりが強いのに、半数以上の株主が賛成しています!とも言えます。株主が多様化してしまった現在において、特に株主の間で議論が分かれる議案で高い賛成率を取るなど土台無理な話です。「賛成率が低いからもうやめようか」って発想になるのはおかしいです。買収防衛策の導入・継続議案なんて賛成率が低くて当たり前の議案ですし、50%超えればOKなんですから。仮に否決されても、翌年またかければいいのですし、もし翌年までの間にアクティビストに大量保有報告書など提出されたら、即導入して、「次の株主総会にかけるよ」としてしまえばよいのです。なお、もう株主総会議案が否決されることは当たり前と思っていただいてよいと思います。昔のシャンシャン総会の時代は終わったのですから。否決されても何も恥ずかしいことはありません。

「来年の総会に向けては大株主の力を借りた防衛策よりも、シナジーの実現と市場との対話という攻めの策が有効なのかもしれない。」 何かというと対話!対話!と・・・。何回買収防衛策じゃないと言えばわかってくれるのでしょうか。たぶんわかってくれません。だから企業価値を高めるために、持ち合いを真剣に考える必要があると思います。理由をちゃんと開示できる持ち合いを、ですね。会社にとってちゃんとした理由があれば持ち合いすることに問題などありません。株主にとっては納得できない理由でも、会社は株主だけのものではありませんから。

 

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