2017年04月07日

No.77 東芝は対岸の火事ではないなど4コラム

■東芝は対岸の火事ではない

 といっても不正会計の件は対岸の火事です。もってのほかです。私が申し上げたいのは、東芝のように何かことが起きて、出来高が急増してしまうということは対岸の火事ではない、ということです。

 出来高が急増すると何が起きるか?株式を一気に買い増しやすくなるということです。現に東芝はエフィッシモに約8%の株式を取得されました。また、エフィッシモが株式を取得したことが判明した翌日の出来高はどうなったでしょうか?

 2億7,200万株の出来高です。エフィッシモの大量保有報告書がEDINETに登録されたのは3月23日(木)の15:10です。3月23日の出来高に比べると24日の出来高はかなり増えています。もちろん、東芝の出来高は連日多いです。3月14日などは4億株以上の出来高があります。

 会社に何かしらのイベントが発生すれば出来高は急増しますし、そこにアクティビストファンドが登場したとなると、更に出来高は増えます。どんどん出来高が増え、アクティビストファンドが買い増しやすくなるという流れです。もちろん、安定株主比率がある程度高ければ、経営に重要な影響をおよぼすほどの株式を取得することはできません。しかし、そんなに安定株主比率が高くなければ、ある程度の株式を取得されてしまうリスクがあります。

 そういう状況に陥ってしまったときこそ、買収防衛策があるかないかで対応が大きく異なってきます。買収防衛策がないと、一気に株式を買い増されてしまうリスクがあります。買収防衛策があると、20%までの水準でいったん落ち着きます。

 東芝は買収防衛策を廃止した企業です。廃止せざるを得なかったのでしょう。東芝のような状況でない会社は、買収防衛策を継続すべきでしょうし、導入していない会社は導入した方がよいと考えます。

 ■買収提案に反対するときは

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC22H1W_S7A320C1TJC000/

 業界首位の会社が業界2位の会社から買収提案を受けているようです。少し前のことですが、2017年3月23日の日経記事を見ると、アクゾノーベルは「現在および将来の当社の価値を反映していない」と主張して買収提案に反対しています。

 最近のコラムでよく取り上げるソレキアですが、意見表明においてTOB価格には言及していません。でも、海外のケースを見れば一目瞭然です。買収提案とは?株主に対して、株式を高値で買い取りますよ、という提案です。であれば、買収に応じるかどうかは株主が判断することです。株主が買収に応じるか判断するために必要な材料とは?

 アクゾノーベルの言っているとおりです。買収価格は「現在および将来の当社の価値を反映した価格ではない」です。価格が十分かどうか、という反論を主軸にしないと、株主は「いったいこの経営陣は何を考えているのだろうか?」と不信感を抱いてしまいます。株主に対して「この人に買収されたら会社がおかしなことになります!」「シナジーなんかないし、この人はうちの業界のことなんて知らないんですよ!」と言ったところで、株主は「知らんがな。TOB価格が高いから応募するよ」となってしまいます。また、株主にとってとんちんかんな反対意見を言いすぎると、有事において株主からの信頼を経営陣は失ってしまいます。こういうことを言う経営陣は信用できないし、経営をまかせられない、と。

安定株主比率が66.7%以上の会社はそれでもよいのでしょう。でもそんなに安定株主比率が高い会社は少ないです。ウソはよくありませんが、限られた時間の中で「TOB価格は安い。なぜなら・・・」を言えるかどうかがポイントになってきます。だから、常日頃から有事を想定して準備しておくことが重要になってきます。買収防衛策の準備はそのうちの一つに過ぎません。

■DMG森精機の議案が可決

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGD22H42_S7A320C1DTA000/

 以前、コラムでご紹介しましたが、3月の株主総会で財団への自社株の実質譲渡をする議案が可決されました。ISSが「安定株主作りだ」と批判し、反対推奨していた議案です。では、賛成率は何%だったのでしょうか?

 第4号議案です。賛成率は67.02%!この議案、普通決議ではありません。特別決議が必要な議案です。ギリギリですね。危ないところでした。以下は2016年12月末の森精機の株主構成です。

 外国人株主比率が約30%と高いです。普通決議の議案は心配ないけど、特別決議が必要な議案だと、外国人株主が30%いるとけっこう危ないということが言えます。議案内容にもよりけりでしょうが、株主構成次第ではISSの影響力はやはり無視できません。貴社が同じような議案を株主総会に上程するとして、貴社の株主構成で可決できるでしょうか?買収防衛の議論とは一見異なるように見えますが、株主にISSではなく経営陣の主張を支持してもらうという意味では同じことです。

 

 

■ソレキアに対する敵対的TOBの意義

 ソレキアに対する佐々木ベジ氏による敵対的TOBに関して、資金力的にはホワイトナイトである富士通が勝利すると見るのが正しいのでしょうが、TOB価格の合理性という観点から考えると、佐々木ベジ氏が勝利する余地があります。佐々木ベジ氏がTOB価格を引き上げ続ければ、いずれ富士通は自社の株主への説明という観点からは佐々木ベジ氏のTOB価格を上回る価格を提示できなくなる可能性があります。一方、佐々木ベジ氏は個人でTOBを実施していますから、誰かに対する説明責任はありません。ご自身が納得するかどうかの問題です。理屈なくTOB価格を上げ続ける可能性はあります。

 そうなると、ソレキアはホワイトナイトではなく自社で防衛する必要性が出てきます。先日申し上げたとおり、大幅増配を公表して株価が佐々木ベジ氏のTOB価格を上回るようにする方法が考えられます。これで株価がTOB価格を上回れば、皆さんハッピーです。佐々木ベジ氏らも所有するソレキア株式を市場で売却するかもしれません。

 ソレキアに対する敵対的TOBにはどういう意義があったのでしょうか?仮に大幅増配という選択をした場合、結果的には、富士通がホワイトナイトとして登場したこともまるで意味がなかったですし、佐々木ベジ氏のTOBも失敗に終わる可能性があります。ただし、失敗といってもTOBに応募が集まらなかっただけで、佐々木ベジ氏らはソレキア株式の売却益を得ることができれば、ある意味勝利です。

 佐々木ベジ氏のTOBが成立しなかった場合、市場関係者はどう考えるでしょうか?「やっぱり日本で敵対的TOBを成功させることは難しい」と考えるかもしれません。では、実際に敵対的TOBを検討している会社やファンドはどう考えるでしょうか?ファンドは「やっぱり日本企業に敵対的TOBを仕掛けたら、ホワイトナイトが出てくるか、大幅増配をしてくれる。敵対的TOBを実施すれば、ある意味、絶対に成功する」と考えるかもしれません。事業会社は「まともにTOBを仕掛けても失敗する。やっぱり、ソフトブレーンのケースのように市場で一気に買い増すしかない」と考えるかもしれません。

 久しぶりに起きた敵対的TOBですが、それほど話題になっていません。ソレキアの時価総額や企業規模が小さいからでしょうか?佐々木ベジ氏という、ちょっとよくわからない方が実施しているTOBだからでしょうか?いずれにせよ、敵対的TOBが起きました。市場関係者は注目していると思います。ソレキアのケースはぜひ参考にすべきと思いますし、「うちの会社がソレキアのような事態に陥ったらどうする?」という議論も必要であると考えます。

 うちの会社がターゲットにならなくてよかった!ではないです。どの会社も敵対的TOBのターゲットになる可能性があります。日本企業の安定株主神話が崩れていることに気付いた人たちは、容赦なくTOBを仕掛けてきます。

 

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