2018年01月09日

No.242 取締役会はいまだに各部門の利害調整の場なのでしょうか?(2018/1/8日経11面)

 昨日の日経11面に私の大好物がそろって写真付で掲載されていました。

「グラスルイスシニアディレクター 女性登用で活性化促す」には「女性の取締役は監査役が1人もいない企業では原則、会長か社長の選任議案に反対するよう投資家に推奨する」 2019年2月の総会からだそうです(全企業ではなく、「TOPIX100」の構成企業が対象だそうです)。女性の登用でなぜ取締役会が活性化すると考えるのかよくわかりません(ついでに言うと、なぜ有価証券報告書の役員の状況で、役員のうちの女性比率を書かなくてはならないのかよくわかりません)。株主は何のために株主総会で議決権を行使するのでしょうか?議決権行使の目的は、究極的には企業の業績及び株価向上のため、と私は考えます。女性の社会進出という点が社会の課題となる中、女性の取締役としての登用はよいことなのかもしれませんが、女性を登用していないからと言って、なぜ株主の企業の会長・社長に反対しろと推奨するのかは疑問です。一議決権行使助言会社の業務の範疇を超えているように思います。議決権行使助言会社が推奨内容の独自性をアピールするために作った基準ではないかと考えます。また、ESGに絡めれば何でもありという安易な考え方が気に入らん、です。

 ISSは「(社外取締役の人数基準の引上げについて)取締役会の意思決定の速度を上げてほしいというのが、その理由だ。経営の大きな方向性を決めるのが取締役会だが、まだ各部門長の利害調整の場と見なす企業は多い。それは社内の理論だ。外部の目を増やして、部分最適から全体最適へと議論の軸を移すべきだ」と言っています。意思決定の速度を上げてほしいのであれば、社内ことがわからない社外取締役を増やさない方がよいでしょう。矛盾しています。それと、取締役会をまだ各部門長の利害調整の場と見なす企業は多いと言っていますが、本当でしょうか?どういうエビデンスをもって「多い」と言っているのでしょうか?何社にインタビューしたのでしょうか?そもそも、ISSの方は日本企業の取締役会に出席したことがあるのでしょうか?日本企業の取締役に就任した経験があるのでしょうか?この記事に書いてある意見は、どこかの経済雑誌や新聞記事の受け売りしか書いていません。データや証拠もなしにこういうことを言う人が信じられません。「(社外取締役はどのような人材がよいかという点について)経営経験者が望ましい。元社長が見つからないなら、元専務などでいい」 乱暴ですね~。元社長が見つからないなら専務でいいじゃん!ということですね。なんといい加減な・・・。それと、日本企業は「元社長」だけにこだわって人材を探している訳ではないと思います。「弁護士や会計士、大学教授などを積極的に選ぶ企業があるが、独立性を確保できればいいというものではない」 そうです。独立性が確保できればいいという問題ではないのです。独立性を確保し、株主のために経営をチェックし、意見することができる人材が望ましいのです。なかなかいないでしょ?

 ISSとグラスルイスは自分たちの仕事のために、日本企業に対していろいろなことを求め過ぎです。日本企業を振り回すための推奨が多すぎます。しかし、振り回される日本企業にも問題があります。ガツンと一言いってやらないとダメです。議決権行使助言会社を創業した人には敬意を表します。なかなかおもしろいビジネスを考えたものだな!と思います。でも、それは議決権行使助言という「ビジネス」です。彼らは日本企業のためを思って推奨するのではなく、自分たちのビジネスを継続・繁栄させるために、日本企業を利用しているに過ぎません。だから、彼らに振り回されないように行動する必要があります。そうするためには、何を考えなくてはならないのでしょうか?私は、企業の情報開示体制であると考えます。今までの延長線上で情報開示を考えてはダメです。ISSとグラスルイスの上を行く情報開示が必要な時代になっています。機関投資家にISSやグラスルイスの助言内容をうのみにさせるのではなく、独自のオリジナリティにあふれる情報開示をすべきではないでしょうか?そうすれば「おもしろい開示をする企業だな。ISSやグラスルイスの助言内容より、この会社が言っていることのほうがもっともだ」と思ってくれるかもしれません。また、戦略的なIRも必要でしょう。機関投資家とのIRミーティングの場で、過年度の業績や今後の見通しの話をするだけでなく、ISSやグラスルイスの助言内容についてどう考えるか?などをディスカッションしてみるのもおもしろいかもしれません。「なぜ企業経営の経験もない助言会社の助言内容を参考にするのか?大塚家具のプロキシーファイトにおける助言内容をどう考えるか?」などを投げかけてみるのもよいのではないでしょうか。

 記事の題に「取締役の多様化要求 米助言会社の狙いは」とありますが、私は彼らの狙いを「助言会社のビジネスを継続させるため。助言会社の存在意義を保つため」であると考えます。女性を取締役に登用しないから会長と社長に反対!ってどう考えてもおかしいでしょ?組織は適材適所が原則ではないでしょうか?

議決権行使助言会社の存在価値は、私はもうないと考えています。ただ、そうは言っても助言会社の存在は無視できませんから、助言会社に対抗するための情報開示体制や開示内容を工夫することが重要であると考えます。

 余談ですが、助言会社の人たちって勘違いしてませんかね。日本の上場会社のえらい人たちが「うちの議案に賛成推奨してください」ってお願いしに来るから「オレたちはえらいんだ!」と・・・。そうではないことを願います。

 

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