2016年10月28日

No.14 その昔、いちごアセットというファンド など2コラム

■その昔、いちごアセットというファンド
一昔前、いちごアセットという投資ファンドの名前をよく耳にしました。名前が珍しいことや、「モノ聞くファンド」というスタンスを表明していたことなどで有名になりました。
世間では「モノ言うファンド」が一世を風靡していたところ、「モノ聞くファンド」というのは珍しかったのでしょう。しかし、彼らは単にモノを聞いてくれるだけではありませんでした。彼らが投資していた企業である東京鋼鐵が大阪製鉄との経営統合を公表したところ、統合比率が東京鋼鐵にとって不利であることを理由にプロキシーファイトを仕掛け、統合議案を否決しました。2007年のことです。当時では、経営陣同士が合意したM&Aが初めて否決されたケースでした。以来、いちごアセットは「結局、モノ言うファンドと変わらず、アクティビストじゃないか」と見られてしまいました。表立ってアクティビスト的な行動をしたのは東京鋼鐵に対してだけだったと記憶しています。いちごアセットは東京鋼鐵の株式を24.71%まで取得しましたが、2015年7月にいちごアセットは保有する東京鋼鐵株式を第三者に市場外で売却してExitしたようです。なお、大阪製鉄は2016年に東京鋼鐵に対してTOBを実施し、子会社化しました(東京鋼鐵は上場廃止)。
本日の日経14面の下の方に小さな記事が掲載されています。「大阪製鉄の株式5%取得 エフィッシモ」です。10月27日に大量保有報告書を提出した模様です。今回の投資目的は「純投資」ではなく「投資および状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」としています。ちなみに、エフィッシモは大阪製鉄と同業の電炉会社である東京鐵鋼の株式も7.28%取得しています。東京鐵鋼への投資目的は純投資となっています。最近大量保有を提出した企業に対する投資目的は「純投資」が多かったため、今回の大阪製鉄への投資は何らかの狙いがあるのかもしれません。
いずれにしても、過去、投資ファンドに狙われた企業にとっては、あまり心地の良い記事ではありません。一難去ったと思ったらまた一難・・・
「大阪製鉄と東京鋼鐵は経営統合をした。ということは、電炉業界では更なる統合が進んでも不思議はない」と思ったか、「我々が主導して電炉の再編を進めてやる」と思ったか・・・。ちなみに、大阪製鉄の筆頭株主は新日鐵住金で約60%保有しています。当然、大阪製鉄はエフィッシモに支配されることはないでしょう。大阪製鉄も上場子会社ということです。最近エフィッシモは上場子会社をあまり取得していませんでしたが、どうやらまだ狙っているのかもしれません。

■なぜ買収防衛策導入企業が減っているのか?
~買収防衛策を廃止 経営に規律(2016/5/15付日経)~
2016年5月25日付の日経記事です。廃止した企業が多いのは、おそらくコーポレートガバナンス改革により、「買収防衛策は経営者の保身ではないか?」という意見が出てきた影響が大きいと思われます。また、記事にもありますが、2000年代はスティールパートナーズをはじめとした投資ファンドによる株式取得や敵対的買収が起きました。事業会社による敵対的買収も起きました。でも、今は起きていません。当時、買収防衛策は流行りました。私自身、買収防衛策導入コンサル、マニュアル策定など何百社という会社にアドバイスしました。ただ、2010年以降、そのようなご相談は少なくなったのは事実です。言い方が悪いかもしれませんが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないかと感じています。買収防衛策を廃止するのは各社のご判断なので、批判するつもりはありません。
しかし、現在の日本のマーケットはどうでしょうか?スティールパートナーズ騒動から10年近く経ちます。エフィッシモなどのアクティビストによる投資が活発化している気がします。「純投資」と言いつつ企業の株式を40%近く取得しています。「本当に純投資?」と疑いたくなるような投資スタンスです。
「わが社は買収防衛策を導入しないと決めている」 なるほど。どういう理由でしょうか?「うちの会社の規模は大きいし、おかしな投資ファンドなどが買ってくることはないだろう。買ってくるとしたらまともな事業会社である。だとすれば、正々堂々とTOBをかけてもらい、株主が応募するかどうかで勝負を決めればよい」 正論です。ただ、1点気になりますのは、「最短で30営業日で勝負が決まりますけど大丈夫ですか?」ということです。米国でオラクルがピープルソフトという会社に敵対的TOBを仕掛けたところ、成立するまでに1年ほどかかりました(詳しい経緯をお知りになりたい方は「敵対的M&A防衛マニュアル」(中央経済社)にケーススタディを書いています。アマゾンでまだ買うことができるようです。なお私に印税は落ちません)。日本ではそうはなりません。最短で30営業日です。1か月半で会社の命運がきまることになります。
記事中に「社外取締役からも買収防衛策の廃止を求められていた」とあります。その社外取締役の方、どういう理由で廃止を求めたのでしょうか?30営業日で敵対的TOBを仕掛けられたとき、その社外取締役の方は取締役会においてTOBに賛成なのか反対なのか意見を述べることになります。本当に30営業日で判断できますか?何十年にもわたって独立して経営してきた企業の命運をたった1か月半で???
2000年代は「敵対的買収!買収防衛策導入だ!」と流行し、現在は「コーポレートガバナンス改革!買収防衛策廃止だ!」と流行しているような気がしてなりません。廃止した会社はちゃんと検討したうえで廃止した会社があるのはよくわかります。ただ、廃止した会社は、もしかしたら、「廃止しても大丈夫」な会社なのかもしれません。流行にながされないほうがよい会社もあります。また、あらためて新規導入する必要がある会社もあると思います。
買収防衛策を導入すること=経営者の保身、ではないです。導入した買収防衛策を濫用的に使用すること=経営者の保身、です。例えば、敵対的買収を仕掛けられたが、買収防衛策に則って経営陣が情報を集め、きちんと検討・交渉した結果、買収価格を引き上げることができた!これって、保身でしょうか?買収防衛策を導入していたおかげで、買収者の言い値ではなく、当初の買収価格から引き上げることができたのです。
別の機会に書きますが、そもそも日本の会社が導入しているのは「買収防衛策」ではありません。

 

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