2016年11月04日

No.16 グループ会社におかしな投資家が言い寄ってきたら・・・など3コラム

■グループ会社におかしな投資家が言い寄ってきたら・・・

 おかしな投資家、などと書くと怒られるかもしれません。例えば、アクティブストファンドなどが上場しているグループ会社(上場子会社など)の株式を取得し、グループ会社に対して面談を求めてきた場合、どうすればよいでしょうか?

 「まあ、アクティビストとはいえ、株主には違いないのだから他の投資家と同様に面談くらいは応じるべきだろう」

 待ってください。まずやるべきことは、「親会社への相談」です。アクティビストファンドが上場子会社等の株式を取得した場合、狙いは上場子会社等ではありません。親会社のほうです。極端な言い方をすると、上場子会社等には経営の意思決定権はありません。もちろん、日々の経営に関する意思決定は上場子会社で行うものの、株式の過半数を取得されている状況ですから、役員人事の決定権は親会社が持っているという意味においての決定権です。アクティビストファンドは十分認識しています。上場子会社に増配要求をしても、上場子会社では実質的に意思決定はできません。親会社の意向を確認しなければなりませんから。

 ですので、アクティビストファンドが上場子会社の株式を取得したということは、親会社を巻き込んだ戦略を考えている、ということです。アクティビストファンドは上場子会社と面談していろいろな情報を聞き出そうとします。特に彼らが重視するのは、親会社との取引です。通常の取引であれば特段問題ないと思いますが、気を付けなければならないのは、資金関係の取引や経営指導料、ブランド料などです。過去あったケースだと、上場子会社が親会社のキャッシュマネジメントシステムを利用しており、資金を預託していました。ただし、その受取利息が銀行と比べてかなり安く設定されていました。そのためアクティビストファンドは「利息が不当に安い」ということを理由に、上場子会社に対して株主代表訴訟を起こしました。

 上場子会社の皆さん、まずは親会社に相談することです。株主だからと言って、必ずしも会わなくてはならないという決まりはありません。かと言って、一応、株主ですからどこかで会う必要は出てきます。その前に、親会社やアドバイザー、弁護士を含めて、想定Q&Aを作成し、アクティビストファンドからの質問に対して的確に回答する準備をしておく必要があります。

 また、親会社の皆さん、上場子会社が勝手にアクティビストファンドと面談などしないよう、普段から徹底しておく必要があります。「うちは上場会社なんだから、そんな指示をされても困る!」と上場子会社から言われるかもしれません。その時は「アクティビストの狙いはそっちじゃなくて、うちのほうんだよ!株主提案されても、お宅は親会社がいるんだから全く問題ないだろ?」と言ってください。実際にアクティビストは上場子会社に増配の株主提案をする一方で、親会社に対して「あなたを含めた全株主にとってメリットのある提案です。でも親会社であるあなたが賛成してくれないと可決できません。どうか賛成してください」という手紙を送ったケースがあります。

■相談役・顧問の「院政」にNO

 2016年10月29日(土)の日経にありましたが、ISSが来年2月に開催される株主総会から、相談役・顧問制度の新設議案に反対推奨するそうです。この記事は少し前にも掲載されていました。「取締役相談役」については取締役としての責任が明確なので反対しないそうです。まあ、すでに相談役・顧問については定款で規定している会社が多いと思いますので、大きな影響はないと思われます。

 しかし、気になるのは、記事中にありますが、「既に設置している場合については「投資家の懸念を伝えることで制度廃止を促していきたい」(石田猛行・日本代表)」という部分です。投資家の懸念とやらを、どのようにして企業に伝えていくというのでしょうか?そもそも投資家が本当に懸念しているのか・・・。あなたが「懸念したほうよいですよ」と投資家に言ってるんじゃないですか?と言いたくなってしまいます。

 私は、最終的にISSは「相談役・顧問制度を設置している会社は、会長・社長の選任議案に反対する」という方針を打ち出してくるのではないかと危惧しています。そもそも、相談役・顧問とはどういう人たちなのでしょうか?一般的には、会長や社長、役員などが退任後に、一定期間、就任する役職だと認識しています。長い期間相談役に就任する方がいらっしゃる一方で、次の就職先が決まるまでの間、顧問などに就任する方がいらっしゃる場合もあります。ISSが懸念しているのは前者の相談役のほうなのでしょう。現職の会長や社長が、先輩である相談役を気づかってしまう。だから、撤退すべき事業であっても、相談役が手掛けた事業だと撤退しにくい、と。でも、本当にそんな理由で事業を撤退しないという判断をするのでしょうか?「オレが手掛けた事業を撤退するとはなにごとぞ!」って。まあ、人によっては言うのかもしれませんが、上場会社のトップをつとめた方がそんなに品性がないとは思えません。

 東芝の会計不祥事については、東芝独自の問題であって、相談役・顧問が存在したことと直接的な影響があったのでしょうか。相談役や顧問が院政をふるった?本当にそうでしょうか。1つの例をもって、すべてダメ、というのは非常に簡単なことです。また、少々乱暴な意見ですが、会計不祥事などは数年に一度は起こる事件です。東芝のケースをもって、相談役・顧問制度があったせいだ、としてしまうのは乱暴です。先輩である相談役に「ちょっとあの件、●●さんに意見を聞きたいなあ」と思う経営者もいらっしゃると思います。一方で、相談役や顧問制度を廃止したと思っていらっしゃる経営者にとっては、今回のISSのスタンスを活用することができますね。

 相談役や顧問制度を廃止すると、おそらく、会長の在任期間が長期化することにならないかと思います。そして次にISSは「在任●年以上の会長には反対する」とならないか不安です。このコラムでいくら「ISSはおかしい!」と主張しても、敵いません。彼らは機関投資家をクライアントとし、ほぼ寡占化状態です。ISSにどう対抗していくか?おかしなレコメンデーションに対して、どう反論するか? まだ答えが出ませんが、よく考えて日本企業にとってプラスになるやり方を見つけたいと思います。

■そもそも「買収防衛策」じゃない!

誰が買収防衛策って名前をつけたんでしょうか?今、日本の企業が導入しているのは、会社によって名称は様々ですが、「当社株式の大規模買付行為に対する対応策」です。誰も、買収防衛策、などとは言っていません。ただ、プレスリリースのタイトルに「(買収防衛策)」と入っているんです。なぜか?

会社が好き好んで(買収防衛策)なんて書いているわけじゃありません。取引所の要請なんです。「買収防衛策の導入にかかる開示の表題には、「買収防衛策」という文字を必ず入れてください。」と取引所は指導しています。

会社が自発的に「(買収防衛策)」なんて文字を入れたわけではなく、取引所が「入れなさい」と言っているから入れているんです。

ですから、日本企業は買収防衛策を入れているのではなく、「買収提案があった場合の対応策・独自ルール」を設定しているに過ぎないのです。ただし、経営者の中には本当に買収を防衛できる施策と考えている方がいらっしゃるかもしれません。

日本企業が導入している、いわゆる「買収防衛策」は基本的には「当社株式の20%以上を取得する場合は、当社が独自に設定してルールに則り、買収提案の内容について十分検討するための情報を提供してもらいます。また、提供してもらった情報を十分検討するための時間をいただきます。検討している過程において、追加情報が必要と判断した場合は、追加で情報提供を要請します。検討する期間は、買収提案の内容によりけりですが、60日~90日くらいです。場合によって検討期間を延長することがあります。ルールを破った場合や提案内容が企業価値・株主価値の向上に資さない場合は新株予約権を発行し、買収者の持分を希薄化する可能性があります。」というものです。まずは取締役会決議で導入を公表し(公表時点で買収防衛策の効力は発生します)、その後、株主総会に議案としてはかり、賛成を得た上であらためて導入している企業が多いです。だいたい、総会決議後、3年間有効としています。

一度、どこの企業のものでもよいので、買収防衛策のプレスリリースを読んでみてください。どんな難解な小説よりも読み難いと思います。法律上の抜け漏れがないよう、弁護士がきちんと書いているので、個人株主が読んでも何が何やらわからん、という内容です。ただ、きちんと読めば、「ルールを決めているだけで、買収提案を排除するものではない」ということが理解できると思います。そもそも、株主にとってもメリットがあるはずなのです。だって、ルールを使って買収者と交渉して買収価格を引き上げることだって可能なツールなのですから。

にもかかわらず、なぜ株主が反対するのか?それは「日本の経営者は買収防衛策を使って、どこまでも防衛しようと考えているに違いない」と思われているからではないでしょうか?そう思われないためにも、教科書的になってしまいますが、株主からみたコーポレートガバナンスがしっかりしているかが重要になってきます。

 

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