2017年04月21日

No.81 株主提案の季節

 蝶理に対してストラテジックキャピタルという投資ファンドが株主提案をしたそうです。ストラテジックキャピタルが4月17日にプレスリリースをしています。(http://www.stracap.jp/proposal/2017_chori.html)以前、ストラテジックキャピタルについてはコラムで触れたことがあります。2012年9月に設立されており、代表者は丸木強氏です。1983年から1999年まで野村證券に所属し、1999年にM&Aコンサルティング設立に参画されたそうです。(http://www.fromhc.com/interview2/2016/07/post-16.html

 M&Aコンサルティング?村上ファンドですね。村上さんと丸木さんは高校、大学の同級生です。村上ファンド出身者で設立されたエフィッシモといい、ストラテジックキャピタルといい、積極的に活動しているようです。蝶理に対する株主提案は可決できるでしょうか?以下、蝶理の2016年3月末の株主構成です。

  

法人株主の比率が55.78%と高いですね。というか、東レが51.25%持っています。東レの子会社ですね。ストラテジックキャピタルの株主提案は可決されないでしょう。ストラテジックキャピタルは可決できないにも関わらず、なぜ株主提案をしたのでしょうか?

ストラテジックキャピタルの株主提案の内容は、政策保有株式売却に係る定款変更、剰余金の処分に係る定款変更、剰余金の配当です。ストラテジックキャピタルのプレスを読むとわかりますが、彼らの問題意識は「取引関係の維持・拡大のために保有していると書いているけど、話を聞く限りでは安定株主になるために保有しているんですよね?そんなことのために会社の金を使わないでください!そもそも、なんで取引先の株を持つことで取引が維持・拡大できるんですか?おかしいでしょ?」といったところです。

おっしゃるとおりなんです。確かに、政策保有株式の保有目的に「取引関係の維持・拡大」と書いている会社は多いです。でも、「株を持っていないと取引を維持・拡大できないっておかしくないですか?株主になったら取引という利益が供与されるんですか?ヘンですよね?」は正論なんです。中にはゼネコンのように、施主の株を持っていないと事業に悪影響が出るという業種もあるかもしれませんが・・・

ストラテジックキャピタルの株主提案は可決されません。東レという親会社がいるからです。でも、ストラテジックキャピタルが東レの株主だったらどうなるでしょうか?以下、東レの株主構成です。

 法人株主比率が低く、外国人株主や個人株主比率が高いです。パッと見て安定株主比率が高くないことがわかります。「蝶理の企業価値向上につながる株主提案をしています。当該提案は親会社である東レさんにとってもすばらしい提案であると考えております。ついては蝶理に対する株主提案に賛成してください」という手紙が来たら・・・ゾッとします。また、東レに対して株主提案をしてくることも考えられます。例えば「子会社に対する株主提案については真摯に提案内容を検討したうえで議決権行使をすることに関する定款変更」といった内容を株主提案してきたら?当然、特別決議が必要な議案ですから、安定株主比率が低くても、そうそう可決されることはありません。でも話題にはなります。IRの場で外国人株主から「提案内容をちゃんと検討すべきである」といった意見が述べられるかもしれません。マスコミが取り上げて記事にするかもしれません。「見直される子会社上場」とか「上場企業が株式を保有する意義」とか。

 とここまで書きましたが、ストラテジックキャピタルのホームページを詳しく見てみると、実際に去年は東レに対して手紙を送っているようですね。今年も送るのでしょうか。

http://www.stracap.jp/pdf/201604TORAY.pdf

 本件は親子上場のみならず、日本企業の安定株主対策に対して一石を投じるものでもあります。安定株主だからと言って安易な議決権行使は許さない、と。そもそも、株主の金を使って安定株主対策などあってはならない、と。ストラテジックキャピタルは株主提案が可決されないことは百も承知なのでしょう。

 ちなみに、ストラテジックキャピタルは新日本空調に対しても株主提案を行ったことを4月20日にプレスリリースしました。(http://www.stracap.jp/pdf/teian2017nskpress.pdf

新日本空調はどこかの子会社ではありませんが、株主構成を見ると法人株主比率が42.26%もあります。三井物産や東芝が上位大株主のようです。安定株主比率が高いからと言って安心してはいけないということではないでしょうか。

 ストラテジックキャピタルの創業者は、おそらく、もう十分なお金は持っていらっしゃるでしょう。ですから、たぶん、お金儲けだけが目的ではないような気がします。「日本企業を変えてやろう!」「日本企業の安定株主依存を変えてやろう!」という気持ちでやっているのであれば、安定株主比率が高い方がターゲットになりやすいとも考えられます。

 

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