2017年04月26日

No.85 ベジさん、またTOB価格を引き上げ

 

富士通

佐々木ベジ

TOB価格の変遷

 

3月17日   3,500円

 

3月29日   4,000円

 

4月5日    5,000円

 

4月21日5,000円のまま

2月3日    2,800円

 

3月21日   3,700円

 

3月31日   4,500円

 

4月12日   5,300円

 

4月25日   5,450円

買付株数の上限

なし(全株取得)

約48%

買付株数の下限

2/3集まらないと不成立

なし

TOB期間

3/17~5/10(35営業日)

2/3~5/12(67営業日)

上場廃止の有無

上場廃止

上場継続

買付に要する資金

37億3,378万円

20億561万円

公開買付代理人

SMBC日興証券

三田証券

あれ?富士通がTOB価格の引き上げを断念したんじゃなかったの?だったらベジさんTOB価格を引き上げる必要ないじゃん?と思った方がいらっしゃるかもしれません。そうです。富士通のTOB価格は5,000円で、これ以上は引き上げないと先日公表しました。富士通はTOB価格を引き上げない理由を以下のように述べています。

「当社は、本公開買付価格の決定に際しては、ソレキアに対するデューデリジェンス及び第三者算定機関による株式算定価値を行ったうえで適正かつ合理的な範囲で決定することを前提としており、佐々木氏によるこれまでの公開買付価格の引上げの経緯及び当社によるソレキアの完全子会社化後の計画を踏まえると、現状の本公開買付価格を超える引上げは投資判断として合理的限界を超えるものと判断いたしました」

 富士通はなぜ5,000円であきらめてしまったのでしょうか?5,000円であきらめたというよりは、当初からおそらくソレキアやアドバイザーとの間で「うちは出したとしても5,000円までですよ」と話し合っていたと思われます。では、なぜ5,000円なのでしょうか?

 それは、おそらく、佐々木ベジ氏が一番最初に出した公開買付届出書に添付されていた残高証明をもとに「5,000円で大丈夫だろう」と思ってしまったのではないでしょうか?佐々木ベジ氏が最初に添付した残高証明では、TOBのために準備した資金は「1,717,010,407円」となっており、この金額を買付予定株数364,700株で割ると、約4,708円となります。もしかして富士通やソレキア、アドバイザーは当初の残高証明を見て「5,000円出せばベジは対抗できないだろう」と考えたのかもしれません。もしそうだとしたら相当甘い読みです。かなり楽観的です。

さて、4月25日に佐々木ベジ氏はTOB価格を5,300円から5,450円に引き上げ、TOB期間を5月12日まで延長することを公表しました。4月23日付で株主に送付した手紙の一部を以下抜粋します(株式掲示板に掲載されていたものです)。

 TOB価格の引上げを検討していたようですね。今回の公開買付届出書の訂正届出書においてもTOB価格を引き上げた理由を「第4回買付条件等変更後、平成29年4月13日から平成29年4月21日までの期間において、市場株価が条件変更後の本公開買付価格(5,300円)を上回って推移していたことから、かかる期間に対象者株式を市場にて取得した対象者の株主の皆様からも、本公開買付けへの応募をいただける公開買付価格を提示する必要があると考えたため」としています。

なお、手紙の最後に佐々木ベジ氏の意気込みが書いてあります(次頁参照)。生まれながらの野心家だそうです。「乗っ取りなどという程度の低いことをする心算とは無縁の世界を生きてきたという自負があります」とも書いています。まあ、この人くらいのお金持ちであれば、ソレキアの株価を釣り上げて売り抜けようとは考えていないのかもしれません。はっきり言って、このレベルのお金持ちからすると、今回のTOBで値段を釣り上げたところで、儲かる金額は億円レベルです。ただし、今回のやり方は乗っ取りと言われてもしょうがないです。しかし、このようなやり方は上場企業であればどの会社にも起こり得るリスクです。今回は皆さんの会社が佐々木ベジ氏のターゲットになってはいませんが、いつでもターゲットになるリスクがあります。佐々木ベジ氏のTOBを見た投資ファンドが同じことをしてくる可能性もあります。「当社がターゲットになったらソレキアと同じことをしてしまなわないか?」を十分考える必要があるのではないかと思います。今回のTOB結果がどうなろうと、富士通とソレキアは実質的に負けです。安いTOB価格のほうに応募してくれ、などと言うのはおかしな話ですから。ソレキアがホワイトナイトによる防衛ではなく、他の防衛手段を取っていれば勝てた戦です。アドバイザーの戦略ミス、ソレキアのCFOの判断ミスとしか言いようがありません。CFOが平時からケーススタディを適切なアドバイザーからインプットしてもらっていれば、今回の防衛アドバイスに対して「大和さん、その手段で本当に勝てますか?富士通が提示するTOB価格には限界があるのではないですか?佐々木ベジ氏は限界がないですよね?」と疑問を呈することができました。ソレキアのケースをご覧になれば、平時から有事を見据えた準備をしておくことの重要性、平時においてアドバイスするアドバイザーの重要性がわかっていただけたと思います。ソレキアのケースはゴールデンウィーク後、特集します。

 なお、富士通が出てきたことは、佐々木ベジ氏にとってこれ以上ない大舞台が設定されたということです。おそらく佐々木ベジ氏はこれを期待していたのではないかと思います。富士通という大企業に対して、佐々木ベジという個人がTOB価格で競り勝った。まさに今佐々木ベジ氏は大舞台で歌舞伎でいうところの「大見得」をきっており、彼だけには「よ!ベジ屋!」という掛け声が聞こえていることでしょう。

 

 

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