No.272 カール・アイカーンとは
ゼロックス大株主が差し止め提訴 富士フイルムの買収 2018/2/14
【ニューヨーク=稲井創一】富士フイルムホールディングス(HD)の米事務機器大手ゼロックス買収に反対する大株主による買収阻止を目指す動きが続いている。13日、ゼロックス大株主の投資家ダーウィン・ディーソン氏が富士フHDによるゼロックス買収は不正だとして、差し止めを求める訴えをニューヨーク州の裁判所に起こした。
ディーソン氏は訴訟理由として「透明で公正な入札を行うことにより、適切な企業価値を実現することでゼロックス株主にプレミアムをもたらすべきだ」と主張した。
米報道によると、ディーソン氏が問題視しているのはゼロックスと富士フHD側が、株主にとって重要な契約の存在を隠していた点だ。具体的にはゼロックスが敵対的買収を仕掛けられた場合、知的財産や製造権利など重要資産を富士フHD側に譲渡する契約をあらかじめ両社は交わしていたが、株主は17年間知らされていなかったという。
ゼロックスは13日、「ディーソン氏の主張はメリットがない。(富士ゼロックスとの統合は)複数ある選択肢の中から戦略的な検討を経て選んだもので、会社と株主にとって最善の道」と反論した。
ディーソン氏はゼロックスの第3位株主。前日の12日には、別の大株主である著名投資家カール・アイカーン氏との共同声明で、ゼロックスの株主に対し、買収に反対するよう呼び掛けていた。
2018年1月31日、富士フイルムHDは、ゼロックスコーポレーション(米国 NYSE上場)との間で、富士フイルムHDがゼロックス株式の過半となる50.1%を取得すること及び富士フイルムHD子会社である富士ゼロックス株式会社とゼロックスが経営統合することに合意したと公表しました。以下、富士フイルムHDのHPに掲載されているものです。http://www.fujifilmholdings.com/ja/news/2018/0131_01_01.html
カール・アイカーンはこの取引を批判しており、批判のポイントは「買収に当たってキャッシュを一切使わないこと」及び「ゼロックスが既存株主に支払う25億ドルの特別配当」だそうです。上記取引図によると、今回の買収では、富士フイルムHDが持つ75%分の富士ゼロックス株を富士ゼロックスによる自己株取得により現金化したうえで、その資金を使ってゼロックス株式の50.1%を取得します。このため、富士フイルムHDのキャッシュは外部に流出しないため「由緒ある米国の象徴である企業の経営権を1セントも支払うことなく手に入れる」とカール・アイカーンは批判しています。また、ゼロックスの資産を取り崩して特別配当に充てることも問題視しているそうです。
これまた、やっかいな人に睨まれましたね。まあ、もともとカール・アイカーンがゼロックスの大株主であることはわかっていたことですから、こういう事態になることも想定の範囲内ではあるのでしょう。さて、カール・アイカーンとはどんな人なのでしょうか?
カール・アイカーン(Carl Icahn、1936年2月16日 - )は、アメリカ合衆国の投資家。持株会社アイカーン・エンタープライズの創業者。2011年時点で総資産が125億ドルの資産家である。アイカーンは今や、テキサコ、ウエスタンユニオン、バイアコム、サムソナイト、ハーバライフなどに影響力をもっており、原子力開発で有名なKerr-McGee に対しても同様である。
東欧から移民したユダヤ教を信仰するユダヤ系のカントールの父と、学校教師の母のもとにニューヨーク市クイーンズ区に生まれた。ニューヨークのファーロックアウェイ高校を卒業。プリンストン大学で哲学を専攻して卒業。その後、ニューヨーク大学で医学を専攻するも、中退している。1961年、25歳のときドレフュス商会(現メロン財閥)で働きはじめた。1968年、自身のヘッジファンド、のちのアイカーン・エンタープライズとなるIcahn & Co.を設立した。
2015年9月末時点でアイカーンは投資総額約1兆7000億円のファンドを運営し、企業の経営権を取得する「乗っ取屋」として有名である。たとえば1985年にトランス・ワールド航空を買収した。このころ、アイヴァン・ボウスキーやマイケル・ミルケンと並び、ガルフ・アンド・ウェスタンなどの買収をめぐりウォール街市場でのインサイダー取引を疑われていた。
2000年以降、アイカーン・エンタープライズは年平均22%の運用成績を収めている[8]。2004年、マイラン株を買収して議決権を増やし、マイラン名義でKing Pharmaceuticals を買収した。2006年2月、ラザードCEO と作成した343ページに及ぶ企画書にタイムワーナー買収を盛り込んだ。また、2010年6月までブロックバスター (企業) の重役であった。同年7月にメンター・グラフィックスの14%を買収し、2011年2月に買収提案までした。2012年10月31日、ネットフリックスの10%を買収した。2015年11月23日、ゼロックス株の持分7.13%を公開した[9]。こうした例に見られるよう、近年は少数持分を取得した上で経営改革を迫る手法をとるようになった[10]。
2015年にブリヂストンが買収しようとしていた自動車部品などを販売する米ペップボーイズに対して対抗提案を出し、結果的にブリヂストンは買収を断念し、カール・アイカーンの提案が受け入れられました。
世界にはまだまだたくさん、強烈なアクティビストがいます。アクティビストのターゲットになっている日本企業は、ほとんどが時価総額の大きくない企業だと思います。しかし、世界のアクティビストは投資対象としてうま味が少なくなってきた米国企業ではなく、日本企業をターゲットにしてくるのではないかと言われています。現に、もうすでにターゲットになっている企業もあるでしょう。そのような企業は決して時価総額の小さい企業ではなく、例えば、サード・ポイントが目をつけたソニーやセブン&アイ・ホールディングスといった日本の名だたる企業です。
ちなみにカール・アイカーンはプロキシーファイトも辞さない構えのようです。日経によるインタビューに対してカール・アイカーンは「次回のゼロックスの株主総会で、既にディールについて(富士HDによるゼロックス買収に賛成票を)投じないよう株主に働きかける戦いを既に進めている。ゼロックス株主は(富士HDによる買収以外の)選択肢があることを理解しなければならない。実際、我々はゼロックスの株主に対して具体的な策を準備している」「さらにゼロックスに派遣する4人の取締役候補者を選んだ。現時点ではゼロックスの株主総会がいつになるかは不明だ。米国では(取締役の候補者を選ぶ)締め切りがあり、間に合わないと翌年に持ち越しになり、早めに対応した」と回答しています。
最近、株主提案権に関する報道がありましたが、提案できる議案数を1人10個までにしても、普通の企業には何も変わらないでしょう。10個も提案する人はめったにいません。これまでに可決された株主提案は、旧村上ファンドのように大量に株式を保有し実質的にはオーナーのような存在の株主からのものでした。外国人株主比率が高く時価総額の大きい企業であれば、大量の株式を1人の株主が取得するのは困難でしょう。しかし、ISSの言うことになびいてしまう外国人が多い企業であれば、株式をそれほど持っていなくても提案内容次第では可決されてしまうこともあり得ます。そういう時代にどう対処していくかがこれからの各企業に共通する課題になっていくのであろうと考えます。株主至上主義に振れ過ぎた米国では見直しの動きもあるようですが、日本はまだまだです。株式市場に関しては、日本は米国に30年遅れていると思います。「野蛮な来訪者」の世界がこれから日本企業を待っているということかもしれません。