2017年07月06日

No.124 出光株は買いか?よし、買った!

 出光興産の株価です。公募増資を公表したのが2017年7月3日(月)です。3日の終値は3,260円で、4日(火)の株価は大きく下げ、終値は2,896円でした。5日(水)も前日比2%下げ、終値は2,838円でした。さて、出光興産株は買いでしょうか?マーケッターの観点ではなくインベストメントバンカーの観点からの分析です。

 7月4日(火)の株価下落は想定通りでしょう。発行済株式総数の3割に当たる4,800万株の新株を発行するのですから、ダイリューションを懸念して株価が下がるでしょう。今後はどうなるでしょうか?ダイリューション懸念が株価に織り込まれたとして、次の材料は何でしょうか?おそらく、創業家による発行差止め請求がとおるかどうかです。7月4日(火)に出光創業家は東京地裁に新株発行差止めの仮処分を申し立てました。

 発行差止請求のスケジュールをよく知らないのですが、遅くとも払込み前には裁判所の判断が出るのでしょうし、他のケースを見ると請求されてからだいたい10日くらいで出ています(もし差止めのスケジュールが法律で決まっているのでしたら、どなたかどの条文を見ればよいか教えてください)。来週くらいには判断が出るのかもしれませんね。

 どういう判断になるでしょうか?これによって出光興産の株価も動くでしょう。私は、創業家の差止請求は認められないと読みます。理由は以下のとおりです。

・差止請求が認められるかどうかは、有利発行に該当するか、著しく不公正な場合に該当するか、である。

・まず有利発行については今回の争点にはならない。公募増資価格は市場価格をベースに決定されるから。

・ということは著しく不公正な新株発行かどうか。超低金利下において増資で調達する必要があるのか、創業家が昭和シェルとの経営統合に反対している状況において創業家の持株比率を低下させる目的であることは明らかではないか、などを創業家が主張すると思われる。

・しかし、今回の増資は公募増資であり、出光経営陣に友好的な第三者の持株比率を引き上げることが目的ではない。公募増資に応じる投資家は多種多様で、そもそも出光経営陣を支持するのかどうかは不明であり、公募増資の目的は支配権の維持とは言えない。

・公募増資に応じるということは出光経営陣を支持するということであり、実質的には出光経営陣が主導する経営統合の支持を増やすことが目的と主張するかもしれないが、であれば、出光経営陣が主導する経営統合は株式市場から支持されているということである。

・借入ではなく増資による資金調達を選んだことについては、出光興産の有利子負債は1兆円を超え、自己資本比率も22%程度であり、一定の合理性がある。

・今回の公募増資は創業家の影響力を弱める目的があることは否定できないものの、公募増資による資金調達については一応の合理性が認められると考える。

 ってな感じでしょうか。私は出光経営陣が勝つと予想します。では出光株はどう動くでしょうか?うーん、わかりませんねえ。ソレキアのときと違って確信はありません。

発行差止請求が却下されれば、出光株は上がりそうな気がします。ただ、今回の出光株の下げは大幅なダイリューション懸念によるものです。7月5日(水)も下がりましたが、これが創業家の発行差止請求による影響なのだとしたら、発行差止めが却下されたとしても大して株価は上がらないような気がします。逆に発行差止めが認められれば、ダイリューション懸念がなくなるので株価は大幅に上がるということでしょうか。どっちにしろ買いのような気もしますねえ・・・

 うーん、出光株を買うべきか、買わざるべきか・・・それは妻に相談します。

 さて、出光興産は発行差止請求に対して7月5日(水)に反論を公表しました。

 反論プレスに差止めの申し立てをした株主と持株数が記載されていますが、日章興産27,120,000株、出光昭介1,928,000株、出光正和2,416,000株、出光正道2,416,000株、出光文化福祉財団12,392,400株、出光美術館8,000,000株です。合計すると54,272,400株で、議決権は542,724個です。先日の総会における月岡社長の選任議案に対する反対個数は551,529個でしたので、やはりほとんどが創業家による反対でしたね。出光経営陣は日章興産らの主張は明らかな誤りと主張していますが、まあ、そんなことはありません。支配権維持というのは誤りでしょうが、明らかに創業家の影響力を低下させることが目的でしょう。そういう目的があるものの、全般的には出光経営陣の主張には一定の合理性があるとされて、おそらく発行差止めは認められないと思います。しかし、7月5日(水)の日経記事で気になる点があります。「経営側は増資が実現しても、直ちに昭シェルとの合併実現に向けた株主総会は開かない方針。創業家の説得を続ける考えで、出光幹部は「決定的な対立は避けたい」としている。」だそうです。

あま----い!こんなこと言っていると市場で買い増しされますよ。もしくは公募増資に応募してきたらどうするんですか?「いやいや。いくらお金持ちの創業家とは言え、それはムリだよ。」と考えているのだとしたら、甘すぎます。やるんだったら徹底的にやらないとホントに負けますよ。創業家がいくら持っているか知っているのでしょうか?創業家を支援する金融機関やファンドなどが出てきたらどうするのでしょうか?エフィッシモが買ってきたらどうするのでしょうか?だから私は以前のコラムで「公募増資という抜本的な施策を出光経営陣は取れないだろう」と指摘しました。なぜなら考え方が甘いからです。創業家の説得なんてもうムダですし、ファンドが登場するリスクもあるのに、まだ「創業家との決定的な対立は避けたい」などと言っているからです。出光興産の時価総額は4,630億円です。創業家の持分が26%に下がるとして、33.4%まで持分を高めるには300億円以上必要です。でも、これが創業家ではなくアクティビストファンドだったら?買えるでしょ。エフィッシモが本当に狙ってくる可能性があります。そして「オレたちの賛成がないと、昭シェルと合併できませんねえ」と交渉してきたら?キャスティングボートを握られてしまいます。そういうリスクを考えると、電光石火で昭シェルとの合併を進めなくてはならないのです。創業家の説得などと悠長なことを言っている余裕はないのです。それに創業家の持分が26%程度に下がると言っても、議決権行使率を考えたら安心はできませんよ。創業家は実質1/3の確保を目指して市場で買ってくるかもしれません。※なお、もしかしたら、あまり早急に経営統合のための臨時総会などを開催する予定にしてしまうと「やっぱり創業家の影響度合いを低下させるための増資じゃないか!」と主張される可能性があるため、増資と合併の期間をあけるということであれば理解できます。

 この出光興産による公募増資ですが、川崎汽船や黒田電気もやってみたらいいのに、と思ってしまいます。出光興産の公募増資への差止めが認められないと、アクティビスファンドが「オレたちの投資先も出光と同じことをするんじゃないか?」と考え、攻め方を変化させる可能性がありますので、要注意です。例えばアクティビストファンドとの面談時に「公募増資の予定はありませんね?明言してもらわないと私たちは役員選任議案に反対しますよ」などと脅しをかけて「公募増資をする予定は当面ない」という言質を取りに来る可能性があります。また、海外機関投資家が日本企業による大規模公募増資への懸念を示し「自己株式を消却しろ」とうるさく言ってくるかもしれません。

株主総会が終了したのでそろそろネタが尽きるかと思っていましたが、まだまだ尽きません。

 うーん、やっぱり出光、買おうかなあ。エフィッシモがでばってくる可能性もありますねえ・・・妻に相談したところ許可がおりました。よし、買った!!!

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ