2017年06月07日

No.101 出口はあるけど見つけられるか?~創業家 出光興産社長人事に反対~ など2コラム

■出口はあるけど見つけられるか?~創業家 出光興産社長人事に反対~

 2017年6月6日の日経に「統合案停滞 見えぬ出口 創業家、社長人事に反対」という記事がありました。出光興産の社長人事に出光創業家が反対するそうです。昨年の社長の賛成率は52.3%でした。記事を見ますと、昨年に比べて業績も回復しているので「会社側は6割超が賛成に回るとみており、可決に自信を深めている」そうです。

 はっきり言って、どうでもよいことです。社長人事が可決されることなど、普通の会社にとっては当たり前のことですので。出光興産は社長人事の可決に自信を深める前に、昭和シェル石油との経営統合をどうするのか?それに対する自信を深めるにはどうすればよいかを真剣に考える必要があります。もちろん、出光興産は「真剣に考えているよ!でも創業家が納得してくれないとどうしようもないじゃないか!」と言うかもしれません。甘いですね。この6月6日の記事には「創業家が反対を続ける中で昭シェルとの合併や経営統合を実現するには、増資やTOBといった選択肢もある」とわざわざ書いてくれています。ただし、創業家の弁護士は「増資をすれば法的手段に訴える」と指摘しています。法的手段?皆さんご存じのとおり、増資をしたら発行差止請求をする、ということですね。

 では、現状で出光興産が第三者割当増資をしたらどうなるでしょうか?昭和シェル石油との経営統合を可決させるために、反対している創業家の持分を薄めるために友好的な第三者に増資をしたと主張されるでしょう。場合によっては裁判所が発行差止めを認めるかもしれません。そうなると出光興産の作戦は失敗に終わります。

 うーん、有事における第三者割当増資は、古い戦法ですね。昔からある古典的な戦法と言えます。もうちょっとアタマをひねってみましょう。

 特定の第三者の持分を高め、特定の第三者の持分を薄めるから問題になる、という見方ができませんかね?特定の第三者ではなく、不特定多数の第三者を割当先とした増資をしてみてはどうでしょうか?「???なんだそれ???」

 はい、公募増資です。特定の第三者ではなく、不特定多数の人を対象とした公募増資をしましょう!そうすれば、特定の方の持分を引き上げる手法ではないものの、確実に出光創業家の持分を低下させることができます。また、特定の第三者の持分を引き上げるものではないものの、記事にも「業績と株価の回復で、創業家以外の株主の多くは会社側を支持している模様」とあります。一般的には昭シェルとの経営統合を支持する人が多いでしょう。乗り越えなくてはいけないハードルがあるものの、公募増資の資金使途を「昭和シェル株式の取得資金」としてしまえば、資金使途の実在性もありますし、納得性も高いでしょう。また、昭シェル株式の取得資金という資金使途に納得して応募増資に応じてくれる投資家であれば、当然、昭シェルとの経営統合議案も賛成してくれるでしょう。

 「なるほど、過去に公募増資で対抗したケースがあるんですか?」 うーん、私の記憶では「ない」です。公募増資を引き受ける証券会社も二の足を踏むでしょう。「うちでは受けられません」という証券会社もあるでしょう。でも、たぶん、出光興産サイドで公募増資による対抗案は検討されていないと思います。検討の余地はあると思うのですが・・・もちろん、証券会社・弁護士と協議が必要な作戦です。

本件、出口を見つけるためには何をしなければならないか?真剣、かつ、本気で対応することです。創業家は出光による昭和シェルへのTOBを阻止するために、昭和シェルの株式を一部取得するという実力行使に出ました。であれば・・・

 「そちらがその気なら、こちらも本気でいきますよ」という態度で臨むべきです。右の頬を殴られて左の頬を差し出しているようであれば、この勝負には勝てません。「創業家に納得してもらうよう説得する」・・・このような中途半端な情緒的な作戦では甘いです。「創業家にはご退出いただく」という気持ちでやらないと勝てません。

■あわよくば賛成推奨をもらえるかも?と思うから初動を間違う

 昨日お送りしたコラムでも書きましたが、そもそも、日本企業のISS対応は初動が間違っているのではないかと思っています。私が野村證券に在職している際にアクティビスト対応などのコンサルティングを実施しているとき、ISS対応もアドバイスしました。結果として、当時の対応は私も間違っていたのではないかと反省しています。ISSを説得するのではなく、ISSを相手にしないという戦略を取るべきだったのではないか、と。

 そもそも、ISSに賛成推奨してもらおう、という発想自体を改めるべきではないでしょうか?そもそも、ISSってなんや?です。特に権威があるわけでもないですし、国が認めた機関でもありません。にもかかわらず、きもい議案があると皆さんISS詣でをします。そうすることによって、ISSはつけあがります。「オレたちの賛成推奨がないと否決されるんだろ?」と。また「日本企業は間違っている。オレたちが日本企業を変えてやる!」などと勘違いします。

 ISSとは・・・米国の営利目的の会社です。議決権行使の助言はあくまでビジネスでやっていることです。聖人君子が各企業の議案を精査しているわけではありません。米国ISSの人員構成はわかりませんが、少なくとも日本のISSは人員も少ないはずです。ましてやセクターごとの専門家などいません。家具屋の専門家ではない人物が家具屋の経営にいちゃもんをつけています。これ、いちゃもん以外のなにものでもありません。業績が大幅に悪化した大塚家具のプロキシーファイトに対して、過去、とんちんかんな推奨をしたのですから「家具屋の経営を知らないから、こんなお粗末な推奨になったんですよ」と言われたら、ISSはぐうの音もでないはずです。

 増配に関してもです。配当可能利益から考えると、大幅な増配が可能な企業であっても、日々の経営を考えると「できない」こともあります。ましてや「配当可能利益上はできるけど、そこまで現金はない」状態だったとしたら、大幅増配に対応するために借入をする必要があります。もし大幅増配の株主提案が可決されたとして、銀行は貸してくれるでしょうか?そこまで経営の実情を考えた上で推奨しているでしょうか?大いに疑問です。

 ISSの方の経歴を見ると、アナリストなどをやっていた訳ではないようです。詳細な財務分析などできるのでしょうか?セクターごとに業界分析などできるのでしょうか?日本の代表者以外の人員構成はどうなっているのでしょうか?ISSジャパンの社員は100人くらいいるのでしょうか?いませんよね?10人いましたっけ?

 そもそもガバナンス以外の問題に口出しできるレベルの知識と経験を有しているとは到底思えないのですが、にもかかわらず、皆さんISSの推奨を欲しがります。これはしょうがないことではありますが、やはりマインドや作戦を変えていく必要があるでしょう。

 きもい議案を通す場合、ISSの賛成推奨をもらいに行くのではなく、ISSと戦う覚悟をもって対応すべきと考えます。徹底的にISSのネガティブキャンペーンを行うのです。「そんなことしたらISSに反対されてしまい、議案が否決されてしまう」 どっちにしたって反対推奨されるのですから、毅然とした態度できっちりとケンカを売りましょう。

 過去のISSの推奨に関するミスを取り上げます。一番わかりやすいケースは大塚家具でしょう。また、黒田電気への推奨なども活用できます。ISSは非常識であるということを徹底的に投資家に刷り込みます。たぶんですが、日経も好意的に取り上げてくれるのではないでしょうか?日経はけっこうISSに批判的な意見を大機小機などで取り上げています。また、ISSの議案分析をする人材についても批判しますし、質問も公に投げかけます。「配当について正確に財務分析できる人材がいるのか?」「セクターごとの人材配置状況は?」「●●セクターの経営に関する知見は?」といった具合に。ISSの専門性のなさを白日の下にさらします。何の付加価値もないアドバイスしかしていないと最終的には断罪します。

 最後に余談ですが、ISSは社外取締役の独立性に関して「会社の主幹事証券において、勤務経験がある」人は独立性がないと判断するそうです。なぜ?そもそも主幹事とは?四季報に掲載されているもの?四季報の情報で判断するの?いろいろと疑問です。ちなみに、私が仮に野村主幹事の会社の社外取締役に就任したとして、主幹事である野村證券を忖度するか?一切いたしません。「鈴木さん、野村證券からリキャップCBを提案されているんだけど」と社長・CFOから相談されたら、「なぜリキャップSBじゃないのかを理論的にきっちりと説明しろ、手数料稼ぎじゃないのか?と言ってください。」とアドバイスします。

 

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