2018年12月21日

No.490 微妙に買い増されていた日本郵船

村上ファンドは2018年12月6日と12日に日本郵船の変更報告書を提出していました。それ以前に変更報告書を提出したのは11月1日で保有割合は5.85%でした。以下、直近までの保有割合の変化です。

レノが株主ではなくなり、南青山不動産が株主になっています。グループ間での株式の移動は税金の関係でしょうか?日本郵船株で村上ファンドは含み損を抱えていましたから、グループの別の会社に株式を売却し損失を出し、利益とぶつけたのでしょうか。なお、11月1日の「このニュースに注目」でお伝えしましたが、少しだけ買い増されています。さすがに日本郵船の時価総額は3,200億円ですから、他の投資先のようにどんどん買い増すことはできないようです。

日本郵船は買収防衛策をかつて導入していた会社ですが、廃止しました。まさか村上ファンドのターゲットになるとは日本郵船は思っていなかったでしょうし、日本郵船以外の誰もが思っていなかったでしょう。村上ファンドの大量保有報告書提出から1年が経ちました。大した保有割合ではありませんが、会社は変更報告書が提出されるたびに「保有割合が増えたのか?」とビクっとなることでしょう。また、日々の出来高が増えれば「また買っているのかなあ」と不安になることでしょう。株主総会時期になれば「株主提案するのかなあ」「村上ファンドは出席するのかなあ」と気になることでしょう。

これがアクティビスト・ファンドに投資された会社の心理状態です。まだ大したことのない保有割合ですから「心配だなあ」程度で、本業への悪影響は出ません。これが10%を超えてきたら、今までは無視していた・断っていた社長への面談要請も「受けなくてはならないのかなあ」と考えるようになるでしょう。なぜなら会社は「村上ファンドを刺激してはいけない」と考えてしまうからです。

日本郵船は、一般的には決して高くはありませんが、時価総額が3,000億円という規模であり、狙われたのが村上ファンドというファンドにしては規模が大きくないファンドだからまだいいのです。しかし、悠長に構えていてよいのかどうかは別です。なぜなら日本郵船の株主構成は以下の通りだからです。

法人株主13.59%-㈱オフィスサポート4.42%-㈱レノ1.79%=7.38%、明治安田生命2.03%、東京海上日動1.71%の合計11.12%が外部から見た安定株主比率です。決して高くはありません。村上ファンドが今年の株主総会で株主提案をしてきたら?議案によっては可決される可能性だってあります。もちろん今の日本企業で株主提案が可決される可能性は低いものの、それなりに高い賛成率を確保できるかもしれません。村上ファンドが株主提案をして負けたとしても、高い賛成率を確保できていたらマスコミは「否決されたものの●%もの高い賛成率を得た」「日本郵船経営陣は株主の意見に耳を貸すべきだ」などと報じるでしょう。そうなると村上ファンドの実質的勝利となってしまいます。黒田電気に対して村上ファンドが村上世彰氏を取締役候補者とする株主提案をした際、ISSは「同氏の過去の追及は政治的な動機に基づいたものである」と村上氏を擁護しているとも捉えられかねないことを言っていたそうです。

https://www.kuroda-electric.co.jp/asset/5248/view

昨年、村上ファンドは日本郵船に株主提案をしませんでした。株主提案権を行使できるのは、総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上の議決権を6カ月前(定款で短縮可)から引き続き有する株主に限られます。もしかしたら昨年村上ファンドは6か月という継続保有要件を満たしていなかったのかもしれません。しかし来年の株主総会においては株主提案権を有しています。今年の株主総会で村上ファンドは発言すらしませんでしたが、来年どうなるかはわかりません。

 

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