2016年11月30日

No.26 社長!貴社の買収防衛策を説明できますか? など2コラム

■社長!貴社の買収防衛策を説明できますか?

 「貴社が導入している買収防衛策の概要を簡単に説明してもらえませんか?」と質問されたら、簡単に説明できますでしょうか?さらに、

「買収防衛策が発動されたら、どういう影響が出るのでしょうか?」と質問されたらどうでしょうか?

 株主総会の想定Q&Aを準備していらっしゃる会社が多いと思いますから、株主総会ではご説明できると思います。しかし、想定していなかった場面で突然質問されたら?例えば、普段のIRの場面で機関投資家から質問されたら?「え?なんで突然買収防衛策?」と戸惑ってしまいませんか?となりに座っているCFOに「買収防衛策、説明して!」と頼んでしまいませんか?

 私は、買収防衛策の検討・整備はCFOの仕事、ではないと思っています。もちろん、買収防衛策の実務を取り仕切るのは、CFOを中心とした経営企画部や総務部が中心になります。ただし、社長がきちんと誰よりも理解していないと絶対にダメです。特に、「わが社はなぜ買収防衛策を導入しているのか」を。表面的な理由は事務局が作成すればよい話です。でも、本質的な理由は社長がきっちりと把握しておくべきです。

 「簡単だよ。昔、投資ファンドに買われたから。その時に念のため導入したんだよ」

 残念ながら、それは答えになっていません。投資ファンドに一定割合の株式を取得されたことがあり、「これ以上取得されると、経営に重大な影響をおよぼす」から導入したのではなく、重要なポイントは「なぜ投資ファンドに一定割合の株式を取得されたのか」です。その点を理解していないと、また買われます。

 無借金経営で株価が割安だった、再編が期待される業界であった、過去買収提案をされたことがあった、買い集めやす株主構成だった、ガバナンスが弱そうに見えた、などなど。会社によって理由は様々ですが、なぜ貴社がターゲットになったのかを認識する必要があります。

 買収防衛策はあくまで「有事の備え」であって、本質的な買収リスクの解決にはなりません。買収防衛策を導入し有事に備えつつ、「わが社の本質的な買収リスクは何か?」と常に考え、その解消に努めていく必要があります。もちろん、すべて解消することは不可能ですが、継続して考えることが重要です。無借金経営で株価が割安な状態であれば、「株主還元を強化する必要はないのか」。業界再編が期待されているのであれば、「わが社が主導して再編の主役になる必要はないのか」などです。

 買収防衛策の本質を理解しておくことも重要ですが、買収防衛策の形式も理解しておく必要があります。社長、買収防衛策のプレスリリースをきちんと読んだこと、ありますか?意外と正確に読んだことなくないですか?買収防衛策のプレスリリースは非常に難解な言葉で書かれていますので読み難いですが、一度、時間をかけて読んでみてください。

「実は流行りに乗って導入した。やめられないから導入し続けている」という会社もあるでしょう。でも、本当に必要な理由を考える時期にきています。

■もうはまだなり まだはもうなり

「もう底だと思えるようなときは、まだ下値があるのではないかと一応考えてみなさい。反対に、まだ下がるのではないかと思うときは、もうこのへんが底かもしれないと反省してみてはどうか」

日本証券業協会の「相場格言集」より。

これは、投資ファンドに株式を取得された際にも言えることではないかと考えています。もう10%も取得されてしまった!確かに、10%も株式を取得されると驚きます。主要株主に該当してしまいます。でも、よく考えてみると、「10%取得されたからと言って、何かできるんだっけ?」ということです。まだ10%です。安定株主比率がそこそこ高ければ「まだ10%でしょ」と考えることができます。

一方、「まだ10%程度でしょ。何かできるわけでもないし」と単純に考えてしまうのも危険です。10%も取得したということは、何かしらの施策を投資ファンドも検討しているということです。うちの時価総額を考えたら、これ以上は買ってこないだろ?と考えていませんか。貴社の時価総額×10%の資金を投下してきたのです。時価総額5000億円の会社であれば、500億円の資金を投下したということです。何も考えていない訳ないですよね?追加投資も選択肢にあるはずです。

貴社が500億円の設備投資をする際、社内でどういう検討をしますか?なんとなく儲かりそうだから投資を決める、なんてことはないですよね。関係各部署が協議し、何度も議論を重ねた上で、取締役会で決定しますよね?投資ファンドだって同じです。保有比率も重要ですが、「投資ファンドはうちにいったいいくらの投資をしているのか」という絶対額の議論も重要です。

もう、なのか、まだ、なのか。それは、登場した投資ファンドの性質によりけりですし、貴社の株主構成や財務体質にもです。よくいる機関投資家でも10%以上保有することはあります。しかし、それが、エフィッシモのような投資家だったら?20%以上を視野に入れている可能性があると考えて事前準備をしておいたほうがよいでしょう。

また、貴社の財務体質が良好な場合は?株主還元強化を求める株主提案が行われることも視野に入れた事前準備をしておいたほうがよいでしょう。

「まだ大量保有報告書が提出されたばかりだから、まだ大丈夫でしょ?」

それも、提出者と貴社の財務体質などによりけりです。5%を超えて貴社株式を取得したということは、取得したことが公になっても構わないという意思表示とも捉えられます。提出者がどういう性質の人たちなのか?よく見極めたうえで、今後の対策を考えたほうがよいと思います。

ちなみに、先日も申し上げましたが、グループ会社の株式を投資ファンドが取得した場合も同じです。「まだ大量保有が出たばかりだろ?」 いえ、投資ファンドの投資スタンス次第で、「もう大量保有が出てしまった。これから買い増してくるリスクがある」と考えて、しっかりと協議して事前準備をしておくことが重要です。

 

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