2024年04月09日

No.1730 MBOってすごく危険な行為です

以下の記事はタイヨウとMBOをしようとしているローランドDG(以下DG)に関するものです。ご存じの通り、ブラザー工業(以下ブラザー)がカウンターTOBを提案しています。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00304/040800175/?n_cid=nbpnb_mled_pre

条件は以下の通りです。

https://ib-consulting.jp/column/5083/

DGは株主に対してMBOへの応募を推奨しましたが、ブラザーのTOB価格のほうが高いので、応募推奨を取りやめました。なおタイヨウに対して

https://ir.rolanddg.com/ja/ir/news/auto_20240326559817/pdfFile.pdf

特別委員会より本公開買付けにおける買付け等の条件を変更する意向があるか示すようタイヨウ・パシフィック・パートナーズに要請することを決め、2024年3月15日、当該要請を記した書簡を提示したところ、2024年3月22日にタイヨウ・パシフィック・パートナーズから本公開買付価格の変更を含む本公開買付けにおける買付け等の条件の変更については 引き続き検討中である旨の回答があったものの、2024年3月26日時点では、具体的な意向についての回答を受けておりません。

本件、ブラザーからDGは水面下で買収提案を受けている状況だったのに、なんでMBOなんかで対抗しようと思ったのでしょうか?理屈で考えたら負けます。以下、経緯などをまとめた無料コラムです。

https://ib-consulting.jp/column/5085/

MBOはフィナンシャルバイヤーと経営陣が組んで会社を非公開化するものですが、ブラザーによる買収はストラテジックバイヤーによるものです。フィナンシャルバイヤーに比べてストラテジックバイヤーは買収対象会社とのシナジーが見込めますから、フィナンシャルバイヤーよりも理屈の上では高い買収価格を提示することができます。

普通に考えりゃ、ブラザーが水面下で買収提案をしている中、フィナンシャルバイヤーであるタイヨウをホワイトナイトとして頼り、MBOで対抗するなんて失礼ながら愚策ではないでしょうか?「じゃあオマエはどういう対抗策があったんだよ?」と聞かれるかもしれませんが、ありますよ。すみませんが、さすがにこれはコラムではなく顧問契約先向けの特別コラムです。

なお、現状タイヨウがブラザーに勝てないわけではありません。理由は以下の通りです。すみませんが、有料コラムです。有料ばっかりですみません。

https://ib-consulting.jp/column/5087/

ここからは有料コラムは引用しませんのでwww 日経ビジネスの記事では『ブラザー工業が予告したTOBは、ローランドDGの同意を前提にしていない。「同意なき対抗TOBの予告」という意味で、ニデックや第一生命HDの事例の合わせ技』と言っていますが、特段目新しいことではありません。ちなみに誰ももう知らないと思いますが、こういう予告TOBを初めてやったのはスクウェアエニックスです。当時、テクモに対して実施しました。ちょっとした理由があるのですが、前職で知ったことなので内緒にしておきますね。

今市場で起きているこういった敵対的TOBの手法とか有事型買収防衛策って、第一次敵対的TOB時代にすでにやっているんです。本件で注目すべきは手法などではなく「かつてアクティビストのターゲットになっていたブラザーが敵対的TOBを実施した」ということです。ブラザーはかつてスティールパートナーズというアクティビストのターゲットになったことがあります。アクティビストに狙われるということは、財務体質が過度に良好であったり、ガバナンス体制に何かがあったりとか、まあ日本的な会社だったということです。そんな会社が敵対的TOBを実施したということが本件のポイントです。

ちなみにブラザーは日本的な会社ではなく、実際は海外の会社なんですけどね。このあたりをDGやアドバイザーが見誤った可能性があります。詳しくは以下。無料コラムです。会社を見るときは経営トップの経歴なども参考にした方がよいです。

https://ib-consulting.jp/column/5083/

そして記事の以下の部分。

M&A(合併・買収)に詳しい弁護士は「実はMBOには対抗提案を出されやすい潜在的なリスクがある」と指摘する。MBOによる株式の非公開化は、対象となる企業の株価水準が低迷している時に実施するケースが多い。株価が高いと買収資金が膨らみ、非上場化後に返済する借金も多額になり、経営の重荷になるからだ。

ただ株価水準が低迷しているということは、他社も買収を仕掛けやすい状況に他ならない。ローランドDGは、ブラザーに買収されれば「相応のディスシナジー(マイナス効果)の発生が想定される」と懸念を表明している。しかし、MBOという形で自社が買収されることを許容したからには、他社からの買収提案を門前払いできない。ブラザーのように買い付け価格が高い提案なら、なおさら反論する難度は跳ね上がる。タイヨウを対象とせず、ブラザーだけを排除するような買収防衛策を導入することも正当化しづらい。

おっしゃるとおりDGはMBOの実施を公表しましたから、会社を「オンセール」の状態にしてしまいました。だからブラザーが「オレたちも提案してたじゃん!オレたちも正式にTOBを予告しますわ!」ってなっちゃうんですよ。そしてTOB価格の高いほうに軍配があがることになってしまいます。

DGはそもそも何をやりたかったのでしょうか?もっと広く言うと、MBOをした会社は何をしたかったのでしょうか?おそらくですが、アクティビストが跋扈し、事業会社からも敵対的買収を仕掛けられるかもしれない厳しい世の中で、もう上場していることがイヤになり、金融機関(証券会社かな)の営業にのっかり「よし、MBOをして非公開化しよう」と考えたのでしょう。

その理由は、敵対的買収対策であり、アクティビスト対策であり、企業防衛だったのでしょう。しかし冷静に考えてみてほしいのですが、MBOの場合、フィナンシャルバイヤーが議決権の過半数を取るのでは?それってフィナンシャルバイヤーに買収されたということなんですよ。フィナンシャルバイヤーが経営陣のことを気に入らないと考えれば、いつでもクビにされます。MBOをしたけど経営者がクビになった事例、ありますよ。

さきほど申し上げた通り、理屈の上ではMBOってのはフィナンシャルバイヤーによる買収であり、対象会社のスタンドアローンの価値をもとに買収価格を決めます。一方でストラテジックバイヤーによる買収者は対象会社とストラテジックバイヤーのシナジー効果を買収価格に織り込むことができます。だから買収価格ではストラテジックバイヤーのほうが上を指せます(理屈の上では)。

MBOってのはそもそもフィナンシャルバイヤーに買収される行為だし、会社をオンセール状態にするし、そこにストラテジックバイヤーが登場したら非常に危険ということです。全然、企業防衛になっていないんですよ。そこをMBOをやった上場会社はちゃんと検討したのか?金融機関はそのリスクを精緻に説明したのか?と私はいつも疑問に思っています。

何のためのMBOなのか?金融機関の手数料稼ぎじゃないのか?

MBOが潜在的に抱えるリスクが現実のものとなり、ブームを一気に冷やすのか。ローランドDGを巡る買収合戦の結果は、今後の株式市場にとっても節目になるだろう。

こんなことは前から分かっていたことです。2003年にスティールパートナーズがユシロ化学工業とソトーに同時敵対的TOBを実施した時点でわかっていたことです。もしこんなことも知らない金融機関がいるなら猛省すべきだし、わかった上でMBOを上場会社に提案しているなら質が悪すぎる。

https://ib-consulting.jp/column/4738/

上場会社の皆さん。敵対的買収時代を迎えるにあたって注意すべきは、みなさんの会社にとって誰が敵で誰が味方なのか?を見極めることです。私は少なくともMBOを提案してくる金融機関を信用すべきではないと考えます。MBOは買収防衛、企業防衛にならないのですから、そういう提案をしてくる先は要注意なのです。

そしてなぜこういった金融機関によるMBO営業が成功し、対抗TOBなどが出て会社が窮地に立たされるかと言うと、大変失礼な言い方ですみませんが、上場会社の皆さんが敵対的TOBや株主提案、企業防衛全般に関して「無知」だからです。言い方が悪くてすみません。金融機関は皆さんの無知につけこんでMBOをさせようとします。

「いや、そんな金融機関ばかりじゃないでしょう?」というご意見もあるかもしれませんが、少なくともMBOを正式に提案してくる金融機関は悪質だと私は考えています。MBOなんて買収されることだとわかっていながら提案するのですから。まあ、わからずに提案している金融機関もいっぱいいるでしょうけどね。

上場会社のみなさんがやるべきことは?常日頃からの準備です。簡単に言えば「企業防衛についてアンテナを高くして勉強しておくこと」「有事にならないよう平時のうちからやるべきことをやっておくこと」です。

そんなサポートをするのが当社です。

 

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