2017年01月16日

No.47 買収防衛策を絶対に廃止しない会社 など2コラム

■買収防衛策を絶対に廃止しない会社

 アクティビストファンドのターゲットになった会社、ではありません。アクティビストファンドのターゲットになった会社でも廃止した会社はあります。「なぜ廃止したんだろう?」と思いました。よく考えると、アクティビストファンドのターゲットにはなったものの、株主提案をされた訳ではなく、買収提案された訳でもありません。ある程度の株式を取得され、経営に対して注文を付けられたものの、実際に株主提案やTOBをされた訳ではないのです。

 アクティビストファンドに株式を取得され経営に意見されると、確かに対応するのは大変です。面談を要求されたり、突然、経営改善に関するレターが届いたり。それに対応するために準備をしますし、アクティビストファンドの主張に対する反論も考えなくてはなりません。ですので、アドバイザーを雇っていろいろと検討します。平時に比べたら当然面倒ですし、作業も多くなります。

 でも、株主提案されたり、TOBをされたりした訳ではありません。更に言うと、株主提案くらいであればどうってことはありません。もちろん、大変ですよ。プロキシーファイトにまで発展したら、そりゃ大変です。でも、株主提案って、日本ではほとんど可決されたことはないんです。基本的には会社側の議案が支持されます。少なくなったと言っても安定株主がいますし、個人株主は基本的に議決権行使をしないか、しても白紙投票ですから。

 本当に大変な状況とは、経営に注文をつけられることでも、株主提案をされることでもありません。一番大変なのは、「会社が乗っ取られるかもしれない」という状況になってしまうことです。つまり、敵対的TOBを仕掛けられることです。

 皆さん、敵対的TOBを仕掛けられたことありますか?「あるよ」という会社もいらっしゃると思いますが、ほとんどの会社は「ない」です。これは私の感覚ですが、敵対的TOBを仕掛けられた会社は、絶対に買収防衛策を廃止しません(と思います)。なぜか?

 あの苦しさは、味わったことのある方にしかわかりません。結果次第では会社が乗っ取られるかもしれないリスク。経営陣が交代になるリスク、従業員がリストラされてしまうかもしれないリスク、会社をバラバラにされるかもしれないリスク。いろいろなリスクを感じながら対応しなくてはなりません。

 もう10年前になりますが、スティールパートナーズに敵対的TOBを仕掛けられたブルドックソース。有事導入型の買収防衛策を発動しました。買収防衛策の発動に関しては賛否両論あります。私は「賛」の方の意見です。

「君、関与したからでしょ?」

まあ、そうです。ただし、それが理由ではありません。このコラムは不特定の方にお送りしている訳ではないので、本音で書きますが、「皆さん、本当にスティールパートナーズに支配されたいですか?」です。更に言うと「皆さん、アクティビストファンドにあれやこれやと文句をつけられ、本業に集中できない状況が続いてもいいんですか?」です。

ブルドックソースは現在買収防衛策を継続しています。当然です。TOBを突然仕掛けられたときのリスクを体験しているからです。買収防衛策があれば、少なくとも落ち着いて対応する時間を確保することはできます。

「TOB価格が株主にとって魅力的なものであれば、経営陣はTOBに賛同すべきではないか」とおっしゃる方がいます。そりゃあ、教科書的にはそうです。ただし、実戦ではそんなことだけを言ってられません。

「買収防衛策は時代遅れ」と言っている方。たぶん、実戦経験がない方だと思います。実戦を経験すると、買収防衛策がないとかなりしんどい、と思うはずです。だから、TOBを仕掛けられたことのある会社、本当に買収の危機を体験した会社は買収防衛策を廃止しません。

なお、当時の担当役員が退任してしまったり、担当者が転勤・退職してしまったりして、当時を知る人がいなくなって買収防衛策を廃止してしまうこともあるかと思います。買収防衛策や企業価値向上について継続して議論し、当時のことを組織に根付かせていくことが重要です。

 ブルドックソースに対するTOBから10年経つので、ふと思い出して書いてみました。

ご希望される会社様にはケーススタディを使ってご説明します。もちろん公表されている事実の範囲内です。ご遠慮なくお申し付けください。

■日本で敵対的TOBは本格化しますか?というご質問

 「そうは言っても、敵対的TOBが本格化するとは思えないんだけどなあ」

 お気持ち、わかります。持ち合い解消が進み、安定株主比率が低下しても本当に敵対的TOBが本格化するとは思えないですよね。

 2006年には事業会社による事業会社に対する本格的なTOBが起きました。王子製紙による北越製紙に対するTOBです。2007年にはブルドックソースに対するスティールパートナーズによるTOBが起きました。ちょうど10年経ちます。

 本コラムで言及しましたが、スカラという会社がソフトブレーンの株式をわずか数日で45%を取得しました。株主提案もしています。結果的には敵対的買収であったと思われます。しかし、このケースをもって「日本でも敵対的TOBが本格化しますよ!」と申し上げるつもりはありません。あまり注目されていませんので(ただ、このケースはきちんとウォッチしておいた方がよいと思います)。

 でもなぜ、安定株主比率が低下していく中で、私も含めてですが、皆さん「敵対的TOBは本格化するとは思えない」と思っているのでしょうか?

 たぶん、敵対的TOB=乗っ取り、というイメージが日本人には強くあり、どうしても敵対的TOBに踏み切る会社が日本には少ないのだと思います。企業イメージ・ブランドが低下するから、敵対的TOBに踏み切る会社は少ないだろう、だから日本で敵対的TOBが本格化することはないだろう、という感じでしょうか。

 ただ、これは日本企業による日本企業に対する敵対的TOBが本格化することはまだない、というだけであり、投資ファンドは違いますね。また、事業会社による敵対的TOBも規模が小さい場合はあり得ると思います。TOBではありませんが、ソフトブレーンのケースです。おそらくTOBという形式を取るのではなく市場で株式を取得する方法を取ると思います。

 自社の規模、時価総額により敵対的TOB・買収のターゲットになるかどうか異なります。規模が小さい場合はターゲットになりやすいです。では、規模が大きければ安心かと言うと、そういう訳ではありません。海外では敵対的買収はいつでも起きています。

また、日本企業が米国の企業に対して敵対的TOBを実施したことがあります。2010年にアステラスが米国のOSIファーマシューティカルに対して実施しました。ですから、日本企業に対して実施されても文句は言えません。

海外企業はもしかしたら「日本企業は持ち合いで安定株主を確保しているから敵対的買収はムリ」とまだ思っているのかもしれませんね。安定株主神話が崩れてしまったことに気づいていないだけかもしれません。

「お、日本企業って安定株主がたくさんいる訳じゃないんだ!これなら買えるじゃないか!」と気付かれてしまったら買われます。

 

 

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