2017年09月29日

No.177 村上ファンドが否定する買収防衛策

買収防衛策を導入する企業は、2000年代に入って相次いだ。私のファンドのようなアクティビストへの対抗策に困ったあげく、「羮に懲りて膾を吹く」感じで「とりあえず何かしなくては」と無理やり導入されたような印象があった。しかし最近では、廃止する企業が増えている。2008年末をピークに約570社が導入していたが、近いうちにその半分程度に減るのではないだろうか。期限の到来とともに、株主総会によらず自主的に取り止める企業が増えるだろう。

 コーポレートガバナンス・コードにおいても、「いわゆる買収防衛策(中略)は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。その導入・運用については、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討し、適正な手続きを確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。」と定めている。そもそも導入されたこと自体が、世界基準からみれば違和感が大きかった。ようやく日本の上場企業も、それに気が付き始めたということだろう。

私の愛読書「生涯投資家」のP204~205に記載されています。これを読みますと、「そうか!買収防衛策、導入しよう!」と思うはずです。だって、村上さんが否定しているということは導入されたらイヤだという気持ちの裏返しということですから。ね?

買収防衛策の導入が相次いだのは、2005年からです。それ以前、日本には買収防衛策はありませんでした。米国のポイズン・ピルを日本でも導入できないか?というご相談が買収防衛策検討の発端でした。また、村上さんが言うとおり、村上ファンドやスティール・パートナーズなどのアクティビスト・ファンドの動きが活発化したことも買収防衛策検討の一つの要因です。「株式を全部買うけど、経営には関与しませんからご心配なく!」といった条件の買収提案をされたら、誰だって不安になります。

村上さんは「そもそも導入されたこと自体が、世界基準からみれば違和感が大きかった。ようやく日本の上場企業も、それに気が付き始めたということだろう。」とおっしゃっていますが、この発言の方こそ違和感があります。「世界基準から見れば・・・」という点ですが、そもそもポイズン・ピルなどの防衛策は米国で考案されたものです。リプトン弁護士が考案しました。他、例えば、ゴールデンパラシュート、ティンパラシュート、スタッガードボード、パックマンディフェンス・・・全部英語ですね。また、黄金株という防衛手法も欧州でとられている防衛策ではないでしょうか(日本では国際石油開発帝石が導入しています)。世界基準で見た場合、何らかの防衛体制を整備しておくことは当たり前ということです。電源開発の株式を10%以上取得しようとしたTCIに対して、日本政府や中止命令を出しましたが、あれにも批判がありました。しかし、米国でも同じようなことがなされています(中国の企業によるユノカル買収に対して議会が反対)。日本だけではなく、米国でもたまにあることです。

ちなみに、最近、フェイスブックが無議決権株式の発行を撤回したというニュースがありました。「米フェイスブックは22日、議決権のない新株の発行計画を撤回すると発表した。議決権の過半を握る創業者で最高経営責任者のマーク・ザッカーバーグ氏の支配力を維持することが狙いだったが、企業統治の観点から問題があるとして一部の株主が提訴していた。」そうです。フェイスブックは2012年に米ナスダックに上場していますが、フェイスブックは普通株(A株)のほか、議決権が10倍のB株を発行しており、B株の大半をザッカーバーグさんが保有しています。米国のほうが企業防衛してるじゃないか!フェイスブックの時価総額は?389,232,398千ドルです。112円で換算すると・・・43兆円!

 なお、日本企業が世界基準に気付いて買収防衛策を廃止した訳ではありません。単に「投資家に反対されて否決されるかもしれないから」です。また、コーポレートガバナンス・コードにおいても買収防衛策について言及されていることに触れていますが、そもそも、コーポレートガバナンス・コードは、買収防衛策のことに限らず、当たり前のことしか書いていません。買収防衛策を導入してはダメなどと書いていませんし、保身に使っちゃダメ、ちゃんと株主に説明しなさいよ、と書いているだけです。

買収防衛策は検討済みという会社の皆さん、もう一度検討してください。いや、毎年検討してください。毎月検討してもよいくらいです。月に一度は資本市場やガバナンス絡みの話題が新聞で取り上げられますから、ぜひ皆さんで議論してみてください。

 買収防衛策についてはすでに検討し導入しないと決めた、とおっしゃる会社がいます。それ、何年前の話ですか?といつも思っていましたし、申し上げたこともあります。だいたい買収防衛策を検討したとおっしゃる会社は、10年前に検討したのです。10年前、スティール・パートナーズや村上ファンドの行動が過激化し、王子製紙が北越製紙に対して敵対的TOBを実施した、あの頃です。買収防衛策を検討したけど導入しなかった会社は、ある程度の時価総額の会社か、ある程度の安定株主比率を確保している会社です。ある程度の時価総額だから、よからぬ輩が買うには規模が大きすぎるから来ないだろうし、外国人株主比率が高いから株主総会で否決されるリスクもあるし。だから「検討はしたけど導入しないと決めた」のです。ある程度の安定株主比率だから、「まあ、導入しなくても大丈夫だろう」と考えたのではないでしょうか。

 10年前、買収防衛策を導入するかどうかを検討した会社はたくさんあります。いや、全上場企業が検討したと言っても過言ではないでしょう。でも、今、もう一度検討したほうがよいです。なぜなら本当に買われるリスクが高まっているからです。エフィッシモなどのリスクに限らず、株式対価のTOBだって税務上の手当てがなされます。ある程度の安定株主比率では守れないこともベジに証明されてしまいました。

私の答えは「当然導入すべし」ですが、会社によっていろいろな事情がありますから、買収防衛策の導入を再度検討したとしても導入しない会社もいらっしゃるでしょう。しかし、買収防衛策の導入をもう一度、継続して検討することが重要なのです。なお、買収防衛策導入済みの会社も一緒です。議論しないと、伝家の宝刀は錆びつきます。

 

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