No.181 アドバイザーとクライアントの信頼関係
ちょっと気になる記事がありました。
大塚家具元会長に支払い命令 長女との対立めぐる委託料 2017/9/29 朝日新聞デジタル
創業者と長女が対立していた大塚家具の2015年の株主総会をめぐり、創業者の元会長から委任状の確保を依頼されたコンサル会社が契約料約9700万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁(市川多美子裁判長)は29日、請求通りの支払いを元会長に命じた。
判決によると、元会長の大塚勝久氏は15年1月、自らに代わって社長に就任した長女久美子氏を解任する株主提案を検討。その後、コンサル会社と打ち合わせを繰り返し、同3月に委託料を9千万円とする契約を結んだ。契約の是非が争点となったが、判決はコンサル会社側の証言の信用性を認め、契約を否定する元会長側の訴えを退けた。(山本亮介)
こんな訴訟があったのですね。大塚家具のお父さんと久美子さんの壮絶な親子ゲンカにおいて、お父さんがプロキシーファイト対応のためにコンサル会社を雇っていたようです。そのコンサル会社と契約を結んだものの、お父さんがコンサル会社にお金を支払わなかったということですね。
恥ずかしいですね。「金を払わんと言ったお父さんが恥ずかしい」のは当然です。契約したのですから、きちんと払うのが当たり前です。しかし、コンサルタントという立場で申し上げれば「クライアントから金を払わんと言われたコンサル会社も恥ずかしい」のです。お父さんが「金を払わん!」となってしまった背景は何でしょうか?
「お前ら、プロキシーファイトに勝てると言ったのに負けたやないかー!」と怒ったのかもしれません。ま、これはまずないでしょう。コンサル会社もプロのはしくれでしょうから「プロキシーファイトに勝てます!」とは言わないはずです。そもそもあの株主構成で株主提案サイドが勝つのは至難の業です。もう1つは、コンサル会社のアドバイス内容に満足できなかったから、です。これはよくあることです。よくあることなので、こういったコンサルティングはアドバイザーとクライアントの信頼関係が重要であると私は思っています。サービス内容に不満を感じているのではないかと思ったら、早めに察知し、早急にサービス内容を見直し、クライアントの満足度を高めることに注力しなければなりません。そうしないと「こんなに高いカネを払ったのに!」と思われてしまい、未来永劫、その会社から相談されることはなくなるからです。
当然、契約を締結した以上、お父さんはコンサル会社にフィーを支払わなくてはなりません。当たり前です。しかし、払いたくないという気持ちにしてしまったコンサル会社には相当問題があります。本来なら「プロキシーファイトには負けたけど、よくやってくれたね」と言わせなければなりません。
そもそも、こんなのプロキシーファイトじゃなくて、単なる親子ゲンカです。仮に証券会社で有事案件の責任者を私がまだやっていたとして、大塚家具の担当部門が「鈴木さんのチームで対応してもらえませんか?」と言ってきたら、「断る!こんなのは会社として契約して対応する案件ではない!担当部長と担当者がお父さんと久美子さんをなだめて、諌めてこい!」と言います。こんな親子ゲンカ、お金をもらって対応するようなものではありません。「フィーは頂かずに主幹事として対応します」というスタンスを取ります。
「じゃあ、㈱IBコンサルティングとしてならどうする?」 たとえ目の前に9700万円の契約料を積まれたとしても、よだれをまず拭って、歯を食いしばってお断りします。うちは親子ゲンカでお金儲けしようとは思いませんし、対応したらうちのブランド価値が低下します。親子ゲンカに大義はありませんから。
おそらくコンサル会社も一所懸命対応はしたのでしょう。しかし、お父さんは相当感情的になっていたでしょうし、冷静な分析をしたところで耳を貸さなかったかもしれません。コンサル会社の仕事もどれだけお父さんに伝わっていたかもわかりません。しかし、あれだけ部下を引き連れて、しかも、娘の育て方を間違った!っていう会見をさせちゃうコンサル会社はいかがなものか、と。ああいう会見をさせてしまうということは、コンサル会社がお父さんをハンドリングできていない証拠です。当時、皆さんも「あの会見はないよな~」と思ったのではないでしょうか?もしかしたらコンサル会社のアドバイスであの会見を行ったのかもしれません。だとしたら「オマエらの言うとおりにやったのに、世間から批判されたやないか!あんなアドバイスに9700万も払えるか!」って言われるのも、まあ納得ですわな。暴れ馬をハンドリングできる自信がないなら、契約するのをやめておくべきでしたね。そもそも親子ゲンカなんて犬も食べません。
ただ、私だったらあの親子ゲンカに対して、もしお父さんに依頼されていたら・・・
「お父さん、今回のプロキシーファイトは必ず負けます。それは覚悟してください。ただし、お父さんが2年後でもよいから大塚家具の経営をもう一度やりたいんだ、とおっしゃるなら協力します。なぜなら、久美子さんが社長をやっている大塚家具は早晩、経営状態が悪化します。今回のプロキシーファイトでは、ISSや外国人投資家は久美子さんを支持しますが、2年後は必ずお父さんを支持します。私の言うことを信じてすべてを託してくださるならご協力します」とまずは伝えますね。その上で「言うこと聞かなかったら、いつでも私は降ります。でも信じてくれれば必ず2年後に勝たせます」とクギを刺します。そして「アンタにまかせる!」と言わせます。
プロのはしくれは勝てると言いませんが、プロの中のプロは勝てると言います(笑)。
ま、今となっては「たられば」ですけどね。