2017年11月30日

No.219 これは最悪の買収防衛策です

 11月27日に東洋証券が「当社の財務および事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針の決定に関するお知らせ」というプレスリリースを公表しました。

http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1536177

買収防衛策に詳しい方はお気づきかと思いますが、これはいわゆる買収防衛策ではありません。買収防衛策の導入・更新におけるプレスリリースのタイトルには「(買収防衛策)」と記載しなくてはなりません。東証の指導です。東洋証券のプレスリリースには(買収防衛策)と記載されていません。買収防衛策と同じようなタイトルなのに、なぜ(買収防衛策)と記載しなくてもよいのでしょうか?

 答えは簡単です。東洋証券が導入した施策は、ルールを破った場合などでも買収防衛策を発動しないという仕組みなのです。東洋証券が公表したルールの内容を簡単に見てみましょう。

 ここにあるとおり、時間と情報を確保するためのルールを制定したのですが、最後に「なお、大量買付ルールは、大量買付者等の株式持分を希釈化するために株式や新株予約権の割当てを行ういわゆる買収防衛策ではございません」とあります。簡単に言えば、買収者がルールを破った場合の対抗策のない施策、ということです。発動なしの買収防衛策です。「なんでそんな施策を導入するの?普通の買収防衛策にすればいいじゃない」と思われるかもしれません。このような、発動のないルールを導入する企業がかつては何社かありました。例えば、ダイキンなどです。たぶんですが、外国人株主比率が高く、買収防衛策を導入すると株主総会で反対される可能性があることから、発動のないルールを導入したのではないかと思われます。東洋証券の株主構成を見てみましょう。

 外部から見た安定株主比率は、法人株主17.24%、住友生命6.23%、広島銀行3.57%、水戸証券3.54%、東京海上1.48%、東洋証券従業員持株会1.31%の合計33.37%です。ただし、筆頭株主が安定株主なのかどうかわかりませんので、もしかしたら、33.37%-日本電子計算7.85%=25.52%なのかもしれません。ちなみに、筆頭株主である日本電子計算は保有する東洋証券の株式を野村総合研究所に譲渡したようです。このあたりの行動が、東洋証券がこの施策を導入した背景なのでしょうか?詳細はよくわかりません。もしかしたら、「大量に買われると困る。でも買収防衛策を導入すると総会で反対されるし、刺激してしまう。だったら、発動のない施策を導入してはどうか?」と考えたのでしょうか。

 この施策ですが、基本的に欠陥のある施策だとご認識ください。同様の施策を導入した結果、実質的にエフィッシモに買収された会社があります。ダイワボウ情報システムです。

以下の株主構成を見てください。今は大和紡績の子会社ですが、2008年までは上場していました。

 安定株主比率は、法人株主の28.98%です。エフィッシモはダイワボウ情報システムの株式を買い付けはじめ、2007年8月20日に大量保有報告書を提出しました。その後、どんどん買い進みます。エフィッシモの保有比率の推移は以下のとおりです。

 2007年8月20日に大量保有報告書を提出して以降、およそ3か月後には保有割合が20%を超えました。そして、保有割合が25%に到達してしまいました。つまり、資本上位会社である大和紡績の保有割合を超えた、ということです。そして、買い増しは止まりません。ダイワボウ情報システムはエフィッシモに買われている途中で、東洋証券と同じ発動のないルールを導入し、エフィッシモに情報提供と時間の確保を要請しましたが、エフィッシモは当初従って情報提供をしたものの、途中でルールに従わず買い増しを進めました。結果、エフィッシモの持分は30%を超え、そして、とうとう40%を超えてしまいました。この時点で「勝負あり!」です。これだけ買われてしまうと、もうどうしようもありません。ダイワボウ情報システムとしては資本上位会社を頼るしかなくなります。2008年9月9日、最終的にダイワボウ情報システム株式の24.11%を保有する大和紡績がTOBによりダイワボウ情報システムを完全子会社化すると発表しました。TOB価格は2,400円。エフィッシモは保有するダイワボウ情報システム株式のすべてをTOBに応募しました。エフィッシモの取得単価は変更報告書に記載のデータから計算すると1株当たり1,559円で、約199億円の売却代金で約70億円の売却益を得たと推定されます。

 このように東洋証券が導入した施策は、かつてダイワボウ情報システムが導入した施策であり、エフィッシモが「役に立たない」と証明した施策です。どういう意図で東洋証券がこの施策を導入したのかはわかりません。ただし、このような施策には意味がないということは明らかです。

同じようなことは買収防衛策を導入している企業でも発生する可能性はあります。例えば、本コラムでも指摘していますが、情報提供のやり取りに上限を設定しているケースです。情報提供を買収者に求めるが、やり取りに要する期間は60日に制限する、といった内容です。これだと買収者は「60日経てば終わるんでしょ?適当に回答しとけよ」って思うでしょうね。上限を設定してしまった会社は元に戻したほうがよいと思います。「元に戻したら投資家に反対されるでしょ?」とお考えになるかもしれませんが、じゃあよからぬ買収者に買収されてもいいんですか?という話です。これを突き詰めていくと「いや、もういいよ。波風たたすのも面倒だし。まあ、買収されることもないだろ?」と安易な結論に達します。ダメですよ~、だろう運転は!そうやって「大丈夫だろう」と安易に考えて実質的に買収されたり、株主提案が可決されたりした会社はいくらでもありますよ。大変なのはわかりますが、今行動を起こさないと後でもっと大変な目にあいます。東洋証券のようなお茶を濁した施策で手を打つと痛い目をみます。

 うちには買収提案なんて来ないだろう、という考え方が一番ダメです。買われた会社もそう思っていたはずですから。そう思っている会社が狙われるのです。

 

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