2019年04月12日

No.563 任天堂について分析

「このニュースに注目:アップルが任天堂を買収するという噂があるそうです」でお伝えしましたが、米経済紙のバロンズが「アップルは任天堂を買うべき」と言っています。http://news.livedoor.com/article/detail/16285961/

その可能性や噂の真偽などは私の専門ではないので、私の専門分野で分析してみます。

安定株主比率ですが、法人株主3.30%、京都銀行4.90%、野村信託銀行(退職給付信託三菱東京UFJ銀行口)4.21%の合計12.41%です。任天堂の時価総額は約4兆3,000億円ですから、ま、こんなんもんです。というか想像より高いくらいです。株価の推移を見ておきましょう。

2008年頃は70,000円を超えたんですね。時価総額も6兆円くらいあったんですねえ。6兆円だった時価総額が4兆3,000億円になったのだから買いやすくなった!とは言いにくいですねえ。4兆円超えてますから。

なお、安定株主比率的には少しだけ買いやすくなっています。上で任天堂の安定株主比率は12.41%と申し上げましたが、これは下がります。なぜなら、2019年2月22日に任天堂は「株式の売出しに関するお知らせ」にて金融機関が株式を売却することを公表したからです。売出人及び売出株数は以下のとおりです。

上の安定株主比率の算出においては上位株主しか入れていませんので、売出人である三菱UFJ銀行、りそな銀行、滋賀銀行は上記数値には関係しません。京都銀行と野村信託銀行(退職給付信託三菱東京UFJ銀行口)の売出分が影響します。合わせて1,553,800株ですね。発行済株式総数(自己株式を除く)119.943,800株に対する割合は約1.3%です。この分が安定株主比率から減ります(正確には、任天堂は自己株取得もしますので安定株主比率の低下はもう少し緩くなります)。なお野村證券が引き受けて個人投資家に販売するそうです。

任天堂は買収防衛策を導入していませんが、敵対的買収に対しては危機感を持っている会社と私は捉えています。理由は任天堂のコーポレート・ガバナンス報告書に書いてあります。以下の通りです。買収防衛策の有無は「無」ですが、いろいろと書いています。

当社の取締役会は、当社が公開会社としてその株式の自由な売買が認められている以上、当社株式の大量取得を目的とする買付けや買収提案が行われた場合にそれに応じるか否かは、最終的には株主の皆様の判断に委ねられるべきものと考えています。 しかしながら、株式の買付けや買収提案の中には、その目的等から見て対象企業の企業価値・株主共同の利益を損なうおそれのあるものの存在も否定できないところであり、そのような買付けや買収提案は不適切なものであると考えています。現在のところ、当社においては、株式の買付けや買収提案が行われた場合の具体的な取り組みはあらかじめ定めていませんが、このような場合に備えた体制については既に整備しています。また、株主の皆様に対して善管注意義務を負う経営者の当然の責務として、株式の買付けや買収提案に際しては、慎重に当社の企業価値・株主共同の利益への影響を判断し、適切と考えられる措置を講じます。具体的には、社外の専門家も起用して株式の買付けや買収提案の評価及び買付者や買収提案者との交渉を行うほか、当社の企業価値・株主共同の利益を損なうと判断される株式の買付けや買収提案に対しては、具体的な対抗措置の要否及び内容を決定し、実行する体制を整えます。なお、いわゆる「買収防衛策」の導入については、買収行為に係る法制度や判例、関係当局の見解等を踏まえ、今後も検討を継続します。

買収防衛策を導入していないけど、社内体制は整備しているし、提案があったら内容を検討して場合によっては適切な措置を講じるとあります。そしていわゆる「買収防衛策」の導入については法制度や判例などを踏まえて今後も検討を継続する、としています。なぜ任天堂は時価総額が4兆円を超えているのに、このような意識を持っているのでしょうか?同業のカプコンがその答えを書いていると思います。カプコンは一度買収防衛策を総会で否決されましたが、翌年、もう一度総会にかけました。その際のプレスリリースに詳しく書いていますが、買収防衛策をカプコンが必要とした理由を抜粋します。

自社で開発したコンテンツ資産の価値は、現在の会計制度において直接貸借対照表に計上されるものではなく、人気タイトルなどのブランド価値の蓄積が、必ずしも順調に当社グループの適正な企業価値に反映されていくわけではないと考えております。大規模買付者によっては、その途上における一時点での差異のみに着目し、中長期的な企業価値の向上を目的としない敵対的買収の危機にさらされる可能性があります。

・また、当社のコンテンツ創出力は、人的資産が活躍できる環境に大きく依存しております。大規模買付者の開発方針によっては、優秀な開発クリエイターをはじめとする従業員が当社の企業風土や開発戦略の変化を懸念して不安感や警戒感を抱き、 反発、離反などにより経営の根幹をなす開発体制が脆弱化し、「ワンコンテンツ・マルチユース戦略」の循環の源をなすコンテンツを生み出す母体が毀損することで、中長期的な企業価値の低下を招く恐れがあります。

・当社は、大規模買付者との間にも中長期的な企業価値の向上を主題とした建設的な対話が可能であると考えており、そのための機会と十分な時間の確保は大規模買付者にとっても有意義なものと捉えています。また、株主の皆様にとっても、大規模買付者の提案に一定のルールを設け、十分な情報の提供と検討の期間を確保し、取締役会が必要な交渉を行うとともに、公正なご判断を仰ぐ仕組みを構築することは、株主共同の利益の向上のためにも必要であると考えます。現在も金融商品取引法によって、濫用的な買収を規制する一定の対応はなされておりますが、公開買付けが開始される前における情報提供と検討時間を法的に確保することおよび市場内での買集め行為を法的に制限することがいずれもできないなど、必ずしも有効に機能しないことが考えられます。

さすがカプコン。ちゃんと書いてますねえ。廃止してしまったのが非常におしい!任天堂だって同じような理由で買収防衛策は必要かもしれないと考えて、継続して検討しているのではないでしょうか?

任天堂は時価総額の非常に大きな会社です。しかし、バロンズの記事にもあるとおり、アップルは多額の現預金を保有しています。ざっとネットで調べる限り現金・現金同等物で約450億ドルあるようです。450億ドル×1ドル111円=約5兆円・・・。https://jp.investing.com/equities/apple-computer-inc-balance-sheet

時価総額が大きいから敵対的買収の対象になりにくいのは事実だと思いますが、敵対的買収の対象にならない、とは言えません。世界にはもっと大きな会社がたくさんあります。伊藤忠がデサントに敵対的TOBを仕掛けて成功したという情報を海外の会社は知っているかもしれません。少なくとも日本にいらっしゃる外資系証券会社は知っています。それを本国と情報共有している可能性は高いでしょう。「日本でも敵対的TOBを仕掛けたら成功するかもしれない。敵対的TOBはビジネスチャンスになるから、それとなくこの情報を顧客に知らせて反応を見てほしい」くらいは言っているでしょう。

なおカプコンがかつて買収防衛策が必要と考えた理由は皆さんの会社にも当てはまるのではないでしょうか?皆さんの考えている事業のアイデア、将来ビジョンなどはすべてB/SやP/Lに反映されているでしょうか?皆さんの事業は人的資産が活躍できる環境に依存しているのではないでしょうか?そして買収提案がなされた場合において、時間と情報を確保することは必要ではないでしょうか?

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

去年は以下のように書いていました。

続きを読む

AZ-COM丸和HDによるC&FロジHDに対する敵対的TOBについて、現状、C&Fロジが丸和に対して質問を2度したところで止まっている状況です。さて、このケースは今後どういう方向へと進んでいくのでしょうか?

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ