2019年04月22日

No.570 (無料公開)「出遅れる買収防衛銘柄」を徹底的に論破

2019年4月20日の日経14面の記事「出遅れる買収防衛銘柄」を徹底的に論破します。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43965110Z10C19A4EN1000/

株主還元が資本政策の短期の注目点とすれば、買収防衛策は長年の宿題だ。アイ・アールジャパンによると何らかの防衛策を導入している上場企業は18日時点で384社。08年のピーク、570社からは減ったものの、なお高水準だ。

私は買収防衛策と呼ばれてしまっている事前警告型ルールは、日本の会社全社が導入すべきであると考えます。384社という水準はまだまだ低水準です。最近、日本を代表する総合商社である伊藤忠商事がデサントに敵対的TOBを仕掛けました。あのケースは敵対的TOBと呼ばれていますが、敵対的TOBなどではありません。そもそも伊藤忠商事はTOB開始前にデサントの株式を約30%保有していました。TOBにより保有割合をたったの10%増やしたに過ぎません。敵対的買い増しです。佐々木ベジさんがソレキアに対して実施し、成功させたのが敵対的TOBです。ソレキアの規模は小さいけど、富士通とガチコンでやりあって成功させたダイナミックな敵対的TOBです。このようなダイナミックな敵対的TOBはまだまだ日本で起きていません。これからです。これから日本企業は敵対的TOBのリスクにさらされるのです。誰も経験したことのない敵対的TOBに対処するに当たって、時間と情報は絶対に必要になります。経験したことのない事象に対応するには時間と情報が必要なのですから、買収防衛策はこれからますます必要になってきます。廃止する会社の心境が理解できません。

買収防衛銘柄に対する市場の評価は厳しい。導入企業の株価を合成して指数化すると、17年末比で15%下落とこの間ほぼ横ばいの日経平均に1割以上負けている。「企業価値向上に取り組む姿勢が乏しい企業と受け止められている」(国内機関投資家)ためだ。年初来上昇率も日経平均の11%に対して買収防衛銘柄は7%どまりだ。

買収防衛策の導入が影響しているのかどうかはわかりません。株価形成要因はさまざまであり、買収防衛策を導入していることのみで株価が形成されている訳でありませんので、乱暴な理屈に見えます。

こうした「買収防衛策ディスカウント」は、裏返せば潜在的な投資機会でもある。防衛策廃止で株価が修正される余地があるからだ。実際、19年に廃止を決めた企業のなかには株価の居所が大きく変わった例もある。3月末に6月の総会での撤廃方針を発表したCKDはその後に4割近く上昇。セントラル硝子も発表前まで頭打ちだった株価がその後持ち直した。

CKD(コード6407)の株価を見てみましょう。CKDが買収防衛策廃止を公表したのは2019年3月29日です。

日経平均に比べてもパフォーマンスがいいですね。では株価関連のニュースを調べてみます。

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レーティング情報ゴールドマン・サックス証券:CKD<6407.T>「中立」「買い」、1,100→1,500
CKD<6407.T>、投資有価証券売却益65,300万円を193月期の特別利益に計上すると発表。

410

レーティング情報みずほ証券:CKD<6407.T>「買い」「買い」、2,000→2,200

CKDの株価が4割も上昇したのは、本当に買収防衛策を廃止したことが影響していると言えるでしょうか?そうじゃないでしょう?レーティングの引き上げ、目標株価の引き上げ、投資有価証券の売却が主要因でしょ?

では、セントラル硝子です。セントラル硝子が買収防衛策を廃止したのは2019年3月25日です。

うーん、これってどうなんでしょうか・・・。「セントラル硝子も発表前まで頭打ちだった株価がその後持ち直した」って微妙な表現ですよね?3月25日のセントラル硝子の株価終値は2,495円なのですが、3月26日2,450円、27日2,436円、28日2,430円、29日2,430円です。買収防衛策廃止を公表してからずっと下がっていて、ようやく30日に2,546円と25日の終値を超えました。念のため株価関連のニュースを調べてみましょう。

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セ硝子<4044.T>193月期の連結業績を増額、営業利益は前期比49.0%増の90億円(従来予想は80億円)に
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セントラル硝子が続急落、営業利益予想を増額するも材料出尽くし感

セントラル硝子<4044.T>が続急落。25日引け後に、193月期の連結営業利益予想を増額するも、いったん材料出尽くしの動き。株価は前日比142円安の2,353円まで値を下げている。193月期について、予想売上高は従来の2,300億円(前期比1.0%増)で据え置いたが、営業利益を80億円から90億円(同49.0%増)に引き上げている。「化成品事業」において、リチウムイオン電池用電解液製品の販売が好調に推移したことがその要因。

セントラル硝子<4044.T> 下げ幅拡大。今3月期の業績予想を増額するも、好材料出尽くし。

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セントラル硝子<4044.T>227日の年初来高値2,678円を更新し、上値追いが活発化。前日比142円高の2,693円ザラバ引け。

買収防衛策廃止を公表した翌営業日に株価下落って・・・。どう考えても買収防衛策の廃止が株価に何の影響も与えていないじゃないですか・・・。だから日経は「セントラル硝子も発表前まで頭打ちだった株価がその後持ち直した」などという微妙な表現を使ったのでしょう?

買収防衛策と株価に関連性はあるか?例えば、村上ファンドが大量保有報告書を提出した会社が買収防衛策を導入したとしましょう。おそらく株価は下がります。村上ファンドがこれからドンドン株を買っていくと思って市場は期待していたのですから、買収防衛策を導入したら株価が下がるでしょうね。でも、突然、ある会社が買収防衛策を導入したとしましょう。市場は「なぜあの会社が買収防衛策を?もしかして買収ターゲットになっているのではないか?」と捉えて株価が上がることもあるでしょう。

では次に買収防衛策導入企業と導入していない同業、日経平均を比較してみましょう。

8802青色が三菱地所、8801赤色が三井不動産、8830緑色が住友不動産です。8802三菱地所と8830住友不動産は買収防衛策を導入しています。さて、日経平均や同業と比べて一番株価が伸びているのは?買収防衛策を導入している8830住友不動産じゃないですか?それに8802三菱地所だって日経平均を上回っている時期もありますよね?これって買収防衛策の有無で説明できますか?できないでしょ?買収防衛策を導入しることが株価に悪影響を与えるのであれば、いつでも買収防衛策導入企業の株価はパフォーマンスが悪くないとダメでしょ?なぜ買収防衛策導入企業である住友不動産のパフォーマンスが一番よくなるのでしょうか?

買収防衛策導入企業は企業価値向上に取り組む姿勢が乏しい企業と受け止められている」のだそうです。これ言った投資家って誰ですか?本当に薄っぺらい考え方ですねえ。買収防衛策のプレスリリースを読んだことがないのですかね?ちゃーんと企業価値向上の取組みを書いていますよ。

一昨日土曜日に「このニュースに注目」を連投しましたので、大方書いてはいますが、改めて書きます。買収防衛策とは買収防衛策ではありません。20%以上の株式を取得する場合に情報と時間をください、と言っているルールに過ぎません。日本の会社が導入している事前警告型ルールでは買収提案から防衛することはできないのです。だって、時間とルールをくれとしか言っていないのですから。「発動できるじゃないか!」 ルール上はできます。しかしルールを破った場合は発動できますが、発動されるとわかってルールを破るバカがいますか?基本的にルールを守りさえすれば日本の買収防衛策は現実的に発動できません。「今まで買収防衛策導入企業に提案された買収はことごとく実現されなかった!だから日本の経営者は買収防衛策でむやみに時間をかせいで買収提案をなかったことにするつもりだ!」 はいはい。買収防衛策があったから買収提案が実現されなかった?違います。提案した買収者に気合と根性が足りかなったから買収提案が実現されなかったのです。これまでの日本で起きた買収防衛策導入企業に対する買収提案で、対象会社が買収するな!と言った例はないはずです。正確には「買収されたくない」という雰囲気は全開でかもしだしてはいたものの、買収するなとは明確には言っていません。いずれの買収提案も買収者サイドが撤回したのです(主な例に限ります。細かい例を探せばあるかもしれませんが)。そもそも敵対的なTOB提案に対して、たったの60~90日間くらいで答えが出せるはずがありません。友好的なM&A案件であってもそのくらいの短い時間で終了する案件などないでしょ?1~2年くらいかかって当たり前なのです。にもかかわらずその程度の時間すら待てなかった買収者サイドに問題があるのです。独立して経営している上場会社を資本の論理で打ち負かしたいのであれば、打ち負かす方法はあるのにその知恵もなく「対象会社とはうまくやっていけるとは思えないから買収提案は撤回する!対象会社が悪いんだ!」と言って一度提案した買収を数か月で撤回するなど、買収者サイドに問題があるのです。たったの数か月で結論など出る訳ないでしょ?経営者は株主だけのことを考えて経営しているのではありません。提案された株価が高いものであれば受け入れるべきという乱暴なことを言う人がいますが、会社は株主だけで構成されているものではありません。買収提案の内容が従業員や取引先にとって不利なものであれば経営者は受け入れられません。

私はこの買収防衛策悪玉論や株主絶対至上主義は遅かれ早かれ修正されていくと考えます。株主は確かに資本の出し手であり重要視されるべきステークホルダーではありますが、上場会社の株主はその経営者がイヤなら株を売ればいいんです。未上場会社の株主と上場会社の株主は負っているリスクがまったく違います。にもかかわらず上場会社の株主はあたかも自分たちが過大なリスクを負っているかのように上場会社の経営者を攻めます。いつでも株なんて売るくせに。

株主は株を売ったら貴社とは「はい、さようなら」です。しかし経営者の皆さんや従業員の皆さんは違います。会社が誰かの傘下になった場合、その誰かとほぼ未来永劫一緒になって働かなくてはなりません。だからこそ、買収防衛策と呼ばれる事前警告型ルールは経営者や従業員にとってこそ必要な施策なのです。

私はこれから買収防衛策導入企業は増えていくだろうと確信しています。

 

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