2017年01月06日

No.43 うちの安定株主比率は低いから、買収防衛策はムリ?~近鉄と富士フイルム~など2コラム

■うちの安定株主比率は低いから、買収防衛策はムリ?~近鉄と富士フイルム~

 安定株主比率は何%でしょうか?20%?だとしたら、その他の株主構成次第です。以下は2013年3月末の近鉄の株主構成です。近鉄は2006年に買収防衛策を導入し、2016年に廃止しました。2013年6月株主総会における買収防衛策の継続議案に対する賛成率は85.14%です。安定株主比率は何%でしょうか?その他の法人や上位株主に登場する金融機関などを合計した外部から見た安定株主比率は15.93%です。いかがでしょうか?

「お、うちより安定株主比率が低いじゃないか!うちも導入できそうだな?」 

 

いやー、ムリです。以下は2013年3月末の富士フイルムの株主構成です。外部から見た安定株主比率を計算してみましょう。

ちなみに、富士フイルムは過去、買収防衛策を導入していました。しかし、2013年6月の株主総会直前に議案を撤回しました。想像ですが、総会前に賛否がわかってしまったのでしょうか・・・ちなみに、安定株主比率は12.63%です。いかがでしょうか?近鉄と富士フイルムって、安定株主比率がともに10%台と低いのです。でも、近鉄は買収防衛策を導入し高い賛成率で可決し、一方、富士フイルムは事前に撤回しました。この差はどこにあるのでしょうか?

答えは、個人株主比率ですね。近鉄は、安定株主比率は高くないのですが、個人株主比率が高いのです。これ、みなさんご存じだと思いますが、私鉄各社は個人株主比率が高いことで有名です。なぜか?

株主優待ですね。私鉄各社の個人株主は株主優待目的の株主が多いのではないでしょうか。売買しない株主、かつ、議決権行使もしないか白紙で投票するか。だから、安定株主比率が低くても、買収防衛策は通ります。

安定株主比率が低い会社の皆さん、株主構成次第では買収防衛策を通すことは可能ですが、私鉄各社ほど個人株主比率が高いという会社は稀でしょう。まともに株主総会にかけにいっては否決されるだけです。

 でも、なぜ近鉄は買収防衛策を廃止したのでしょうか・・・

■なぜ近鉄は買収防衛策を廃止したのか?

 安定株主比率は低いものの個人株主比率が高く、2013年6月株主総会における買収防衛策の継続議案に対する賛成率が85.14%と高いのに、近鉄は2016年6月で買収防衛策を廃止しました。近鉄の廃止理由は「国内外の機関投資家をはじめとする株主の皆様のご意見や買収防衛策をめぐる近時の動向などを考慮しつつ、慎重に検討を重ねてまいりました。その結果、当社を取り巻く経営環境の変化に加え、金融商品取引法による大規模買付行為に関する規制が浸透し、本対応方針の目的が一定程度担保されていることなどから、本対応方針の当社における必要性が相対的に低下しているものと考え、有効期間が満了する本年6月開催の定時株主総会終結の時をもって、本対応方針を継続しないことといたしました。」としています。

 では、近鉄の2016年3月末の株主構成は2013年6月に比べてどう変化したのでしょうか?

 外部から見た安定株主比率は12.78%です。2013年3月末は15.93%ですので低下しています。一方で個人株主比率は44.83%です。2013年3月末は52.7%でしたので、低下しましたが、まだ相当高いです。この株主構成であれば買収防衛策継続の議案を株主総会にかけたとしても、おそらく可決できたでしょう。それなのになぜ廃止したのでしょうか?

 ここからは私の想像ですが、まずは、なぜ近鉄は買収防衛策を導入したのでしょうか?理由は、あるアクティビストファンドが同業他社を狙ったから、ではないでしょうか?皆さんのご記憶にあると思いますが、そうです、村上ファンドですね。村上ファンドは阪神に目をつけ株式を取得し、結果、阪神と阪急は経営統合をしました。業界がアクティビストファンドのターゲットになったから、近鉄も買収対象になるかもしれないから買収防衛策を導入したのではないでしょうか?もしかしたら、近鉄バッファローズをライブドアが買収しようとしたことも影響しているかもしれませんね。

 村上ファンド出身のエフィッシモの投資が活発化している中で、なぜ近鉄は買収防衛策を廃止してしまったのでしょうか?

ポイントは外国人株主比率であると考えます。2013年3月末の外国人株主比率は9.03%でしたが、2016年3月末では15.3%に上昇しています。かなり増えましたね。なぜ増えたのでしょうか?答えは(想像ですが)、資金調達です。

近鉄は2013年8月21日に「新株式発行及び株式売出しに関するお知らせ」を公表しました。公募増資をしました。おそらく公募増資により国内外の機関投資家の保有割合が増えたのではないでしょうか?そして、その国内外の機関投資家から「買収防衛策には反対」という声が多かった。。。そして2016年6月に期限を迎える買収防衛策を廃止した、ということではないかと考えます。

ただ、国内外の機関投資家が買収防衛策に反対したとしても、この株主構成であれば買収防衛策を通すことはできたと思います。おそらく、いろんなアドバイザーに意見を聞いたのでしょうが、見た目の安定株主比率が相当低い近鉄に対して「貴社は個人株主比率が高いから心配ありません!」と自信を持ってアドバイスできるアドバイザーがいなかったのではないかと思います。

皆さん、票読みを行う際に実質株主判明調査を行う会社に「この議案、大丈夫かな?」と聞くことありませんか?そのときそのアドバイザーは相当堅め、悲観的な票読みをしませんか?アドバイザーの立場上、「大丈夫」とは言い難いからだと思います。しかし、堅め、悲観的な票読みは誰にでもできます。

大切なのは、自社の安定株主の質を見極めることとその他の株主構成をきちんと把握することです。また、買収防衛策を否決された会社、可決できた会社の株主構成と比較分析することも重要です。これは買収防衛策に限ったことではありません。「この議案、ISSが反対するんじゃないかなあ」と思われるきもい議案に共通する課題です。

ちなみに、近鉄本体に直接関係はないかもしれませんが、近鉄の持分法適用会社である近畿車輛の株式をエフィッシモが取得しています。エフィッシモの取得割合は9.07%です。近鉄は近畿車輛の株式を約44%保有していますので、エフィッシモが近畿車輛の過半数を取得するのはかなり難しいでしょう。エフィッシモは近鉄に揺さぶりをかけることも狙っているのでしょう。

いずれにしろ、エフィッシモは近鉄もウォッチしているということです。買収防衛策を廃止してしまって大丈夫なのか心配です。個人株主比率が高いので、けっこう買える可能性があります。時価総額は約8,600億円ですが、今のエフィッシモにとっては投資対象ではないでしょうか。

 

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