2016年10月03日

No.5 IR担当者の苦悩~個人株主を増やせ!と言われても・・・など3コラム

■IR担当者の苦悩~個人株主を増やせ!と言われても・・・~

ある会社のIR担当者の方から「社長が個人株主を増やせと言っている。個人投資家向け説明会をまずはやってみようと思うんだけど」とご相談を受けました。私は「わかりました。ただ、個人投資家向け説明会をやっても個人株主は増えないことをご理解ください。ただ、今社長にそれを言っても怒られるだけですから、徐々にご理解いただきましょう」とお答えしました。

たくさんの企業が個人投資家向けの説明会をやってらっしゃると思います。皆さん、どういう目的でやってらっしゃるでしょうか?「個人株主を増やしたい」からでしょうか?

 だとすると、間違っています。個人投資家向け説明会をいくらやっても、個人株主は増えません。正確に言うと、「増えますけど、微々たるもんです。労力がかかる割には、ほとんど増えません」です。また、個人投資家向け説明会を実施したから増えた、と因果関係を説明するのは困難と思われます。

例えば電鉄各社のように、もともと個人株主がたくさんいるような会社が個人投資家向け説明会をやるのは理解できます。そもそも、たくさんいるのだから、きちんと説明すべきでしょう。

個人投資家向け説明会にだいたい何人くらいいらっしゃいますか?100人くらいでしょうか?仮に100人が説明会にやってきたとして、そのうち、何人が「よし!この会社の株式を買おう!」と思うでしょうか?10人くらい?仮に10人が1,000株づつ買ったとして・・・・

そうなんです。説明会のための資料作成やら会場設営やら、労力がかかる割にはほとんど増えないんですよ。

でも、これって、ほとんどのIR担当者の方はわかっていることではないでしょうか?でも、経営陣から「個人株主を増やせ!」と指示され、「ねえ、〇△証券さん、個人株主増やしたいんだけど、なんか方法ある?」と聞くと、「そうですねえ・・・個人投資家向け説明会やりましょう。うちの会場を無料で使用してください。全国の支店でもやりましょう」という回答が返ってくると思います。

もしくは、「分割しますか?」と回答してくるかもしれません。こっちの回答のほうがいくぶんかマシです。ですが、分割では個人株主の数は増えても率は増えません。重要なのは、数ではありません。むしろ、総務の方からすると「数増えてもらうと困る」という声があがるかもしれません。

そもそも、証券会社の営業マンですら、個人のお客さんに株を買ってもらうのに苦労している訳です。株のプロである証券マンですら買わせるのが難しいのに、IRの方が説明しても、なかなか個人は買ってくれないでしょう。当然のことだと思います。

では、どうするか???皆さんが投資するとして、どういう場面なら株式を買いますか?安かったらですよね?もっと言うと、安くしてくれるんだったら、ではないでしょうか。

■上場子会社の皆さん、親会社の皆さん

 このコラムでは、よくエフィッシモについて書いています。エフィッシモは、昔は上場子会社の株式を取得して、いろいろと経営に関する提案・提言をしていたようです。

 エフィッシモに狙われた会社や狙われそうな会社からよくご相談を受けました。「そもそも親会社がウンと言わなければ何もできないのに、なんで買うんだ?」「無視し続ければいいんでしょ?」とか。おっしゃるとおりです。仮に投資ファンドが大幅増配を提案したところで、親会社が賛同しなければ可決されません。

 何度か親会社と子会社の双方含めたミーティングをしたことがあります。私から一言申し上げたのは、「親会社が賛同しない限り投資ファンドの提案は可決されないことは、彼ら自身がよくわかっています。でも、親会社にも提案がきたらどうしますか?」ということです。つまり、「貴社の上場子会社に対して、増配提案をしています。これは貴社が賛同してくれれば可決されます。この提案は貴社の企業価値・株主価値向上にとっても、よい提案のはずです。ぜひ賛同してください。」と言われたらどうしますか?ということです。また、もっと派手に行動してきたらどうしますか?例えば、「〇〇社の子会社に対して、増配の株主提案をした。〇〇社はこの提案に賛同すべきである。当ファンドは〇〇社の株式も保有している。もし賛同しないのなら、〇〇社の役員選任議案には反対する!」と声高に主張されたらどうしますか?外国人株主も「そうだ!子会社に増配させるべきだ!」と言い始めたら・・・ISSも同調し始めたら・・・

 上場子会社は安心なのです。親会社がいるからです。でも、親会社の皆さん、貴社の安定株主比率はどうですか?外国人株主比率は高くないですか?時価総額はどうですか?投資ファンドに買われるリスクはありませんか?ということなんです。

 投資ファンドは、上場子会社をどうにかしようとして行動しているのではありません。安定株主比率の低い親会社に揺さぶりをかけるのが目的であると思います。

 私は、子会社上場を批判するつもりはありません。ただ、方向性や目的がない状態で、上場子会社になっている状態をそのままにしておくのはどうなんだろうか?と思っています。つまり、「いずれは100%化するつもりである」「いずれは売却するつもりである」という長期的な視点があった上での「過渡期」の状態であれば問題ないと考えています。

 話は変わりますが、上場子会社の皆さんがよくおっしゃるのは「うちは出来高が少ないから、投資ファンドが買ったとしても大量保有報告書が提出されるレベルまで買うのは、すごく時間がかかると思うし、現実的には難しいと思うよ」ということです。いや、簡単です。大量保有を出すレベルまで買わなくても、「僕たち、〇△社の1%持っています」と公表してしまえばよいのです。

 ちなみに、そういう投資ファンド、実際にいますよ。

■グラウカス???

「Glaucus Research Group California, LLCという名前は、小さいながらも力強い海洋生物グラウカス・アトランティカス(アオミノウミウシとして知られる)にちなんで名付けられています。グラウカスは、自身より大きく、より強力な毒をもつカツオノエボシ(クラゲのような生物)を食べてしまいます。また、グラウカスは獲物が持つ毒に対して耐性を持っており、この毒を蓄積して捕食者に対して放出することができます。」(グラウカス社のHPより抜粋)

だそうです。7月末に伊藤忠商事のレポートを公表。グラウカスは伊藤忠商事株式を空売りしているとレポートには記載されています。このような投資家も日本株に目をつけてきているんですね。グラウカス以外に、「シトロンリサーチ」という会社も、サイバーダイン社の株価に対する見解を公表し、サイバーダイン社の株が下落したようです。

グラウカスに関しては、日本取引所のCEOが「空売りしてから公表するのは倫理的に疑問がある」とコメントしたそうです。倫理的に疑問?なぜ?このコメントには違和感があります。「うちは空売りしてますよ。株価が下がったら儲かる投資をしてますよ。このレポートを投資判断の材料にしないでくださいね」とグラウカスは言っています。

なにか問題でしょうか?逆だとどうなんでしょうか?あるアクティビストファンドが、「うちは●●㈱の株式を保有している。この会社の株価は安すぎる!もっと自社株買いもできるはずだ!配当も出せ!」と言って、株価が上がったとしたら・・・空売りしているのか、買っているのか、の違いだけではないでしょうか。もしくは、アナリストが「売り推奨」しただけ、と同じレベルのように思います。

伊藤忠さんは反論のプレスを公表しました。でも、グラウカスって、空売りしているんですよね?じゃあ、株主でもなんでもないわけですね!株主でもなんでもない人が、「この会社の会計処理はおかしい!間違っている!」ってネットで大騒ぎしているんですよね。で、それにあわてふためいた株主が株を売っちゃって、伊藤忠さんの株価が下がっちゃったんですよね。

日本では初めてのケースですから、非常に対応が難しかったと思います。私も「何かしらの反論をしておくべき」と考えたかもしれません。ただ、少し落ち着いて考えてみると、株主でもなんでもない人が、勝手にネットで大騒ぎしてるだけ、とも捉えられませんか?。株主でもなんでもない人たちの大騒ぎなので、無視することも一つの手段ではなかったかと。ただ、もしかしたら取引所から「マーケットが混乱してるから、会社として何らかのコメントを出してくれ!」って言われたのかもしれません。そうであれば、何もコメントしないというはちょっと難しいのでしょう。

ただ、「インターネット上で当社の会計処理に関するコメントが掲載されていますが、当社としてのコメントは何らございません。本件に関して当社からコメントを出す予定はありません。」と「相手にしません」という冷たいプレスを出すことも戦略の一つではないかと思います。

 

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