2016年10月07日

No.8 これぞ正しい持ち合いですなど3コラム

■これぞ正しい持ち合いです

 セブン&アイH20リテイリングと資本業務提携 株57億円持ち合い(2016/10/6 日経QUICKニュース)

 これが正しい持ち合いです。もちろん両社ともいわゆる「持ち合い」をしている訳ではないと思います。

これでも「持ち合いはすべきではない!」という株主がいるのであれば、正々堂々と無視してください。

 「業務提携だけすればいいじゃないか?資本まで持ち合う必要があるのか」という株主がいるかもしれません。いやいや。資本を持つからこそ意味があるんです。お互いが株式を持つことにより資金負担も発生するし、資金負担が発生するからこそ、業務提携をより意味のあるものにしようと行動する訳ですから。それに、お互いが株主になることで、相互に経営を監視する意味もあると思います。

 持ち合い解消が声高に主張されている今の世の中でありますが、このように意味のある持ち合いはぜひすべきです。

 意味のない持ち合いは、中長期的に解消されて然るべきです。ただ、私は、時間をかけてゆっくりと解消していったほうがよいと考えます。なぜなら、急激に解消すると、それこそ目的のよくわからない投資ファンドの餌食になる可能性があるからです。

 意味のない持ち合い解消を検討する中で、意味のある持ち合いを検討すべきと思います。実はそれが長い目で見たときに、貴社の企業価値・株主価値の向上につながっていくことかもしれません。

持ち合いを検討する意味のある企業=もしかしたら一緒になってもよい企業、かもしれません。

■さが美争奪戦が問う

 2016年10月6日の日経に出ていた記事です。記事中に「対抗的買収者が現れた主なM&A事例」というのがあります。あれ、この記事の参考事例として掲載するのは、ちょっとズレていると思います。オリジン東秀に対するドンキホーテによるTOBや明星食品に対するスティールパートナーズによるTOBなどは、すべて敵対的買収に対するホワイトナイトのケースです。

 一番しっくりくるケースは、2005年に実施された日清紡による新日本無線に対するTOBにカウンターTOBを仕掛けた村上ファンドのケースだと思います。新日本無線は日本無線の子会社でした。日清紡は新日本無線の株式を1株当たり840円で買い付けると公表。一方、村上ファンドは1株当たり900円でのカウンターTOBを実施。その後、日清紡は買付価格を880円に引き上げましたが、村上ファンドの買付価格よりも低いです。また、村上ファンドは買付価格を950円に引き上げました。価格だけ考えると、当然、日本無線は村上ファンドのTOBに応募した方がもうかるわけです。ただ、最終的に日本無線は日清紡のTOBに応募しました。日本無線の株主からすると「なんで買付価格の高い方に応募しないんだ!」ということです。株主代表訴訟のリスクすら負うことになります。

 このようなケースは、今後も発生すると思います。グループ企業の株式を売りたい。買いたいという会社が出てきたので水面下で交渉し、内諾を得た。そしてTOBを実施したところ、投資ファンドが「うちはもっと高い値段で買いますよ」とカウンターTOBを実施してきた。さあ、どうしますか?グループ会社の役員は「わけのわからんファンドなんかにうちの株式を売らないでくれ」とお願いしてきます。でも、貴社の外国人株主は「当然高い方に売るんだろうな?」と迫ります。

 困った状況です。買い手企業に「TOB価格を上げてくれないと困る」と言っても、「うちはこれ以上の価格はムリ。それに、引き上げ合戦になってしまう」と断られるかもしれません。

 村上ファンドなどは「過去の人」と思いがちですが、実は世の中、敵対的買収が日本で起きた2008年前後と変わっていません。村上ファンドも名前を変えただけで、まだいます。

■買収防衛策は時間と情報しか確保できない?

 極論は、そうです。日本企業が導入している買収防衛策は「事前警告型」と呼ばれています。事前に、「当社の株式を20%以上取得する場合は、事前に買収提案に関する詳細な情報を提供してください。当社からも追加で情報提供を要請します。そのうえで、買収提案を検討する時間をいただきます。最後に検討した結果を通知します」というルールを公表します。多くの会社は買収防衛策を株主総会決議で承認を取っています。

 情報と時間しか確保できないなら、あんまり意味はないか、と考える方も多いのではないでしょうか。ただ、有事においては時間の確保は非常に重要です。

2008年9月に日本電産が東洋電機製造に買収提案をしました。偶然ですが、東洋電機製造は2008年8月の株主総会において買収防衛策を導入していました。ですので、日本電産は買収防衛策のルールに則って買収提案をしました。買付価格は1株あたり635円です。2008年9月12日の東洋電機製造の株価終値は305円でしたので、約108.2%のプレミアムを付加した価格です。ほぼ倍の値段です。

東洋電機製造は日本電産に対して、いろいろな質問をしました。買収防衛策のルールに則ってです。結論を申し上げると、日本電産は2008年12月に買収提案を撤回しました。もともと日本電産は買収提案の有効期限を12月15日までとしていたことやその他さまざまな理由があったようです。ちなみに、2008年12月19日に日本電産は業績予想を下方修正しました。売上高8,000億円→6,300億円、営業利益900億円→550億円、当期純利益580億円→280億円です。また、予定していた富士電機ホールディングスとの資本提携の見送りも公表しました。さらに、「2009年1月10日日本電産は国内のグループで1万人いる一般社員の賃金を2月から最大5%削減する方針を明らかにした。役員報酬の減額幅も最大5割カットに拡大。永守社長は「危機感を共有して不況に立ち向かう。赤字転落を避け、雇用を維持する」と話している」という新聞報道もありました。

日本電産、けっこう業績も厳しく、社員の賃金カットまでしなくてはならなくなった。何が起きたのでしょうか?2008年です。リーマンショックですね。

東洋電機製造を買おうとしたものの、リーマンショックが起き、それどころではなくなった、ということではないでしょうか。あくまで私の想像です。また、東洋電機製造がむやみやたらに時間を稼いだという訳ではありませんが、時間と情報を確保している間にリーマンショックが起き、買収提案が撤回された。

東洋電機製造にとって、リーマンショックはある意味神風です。

最後に、東洋電機製造の株価ですが、2009年に入って中国からの受注が増えたことなどが影響し、900円台にまで上がりました。東洋電機製造の株主は、仮にTOBが実施されたとして、635円で売らなくてよかったですね、ということになりました。一方で、635円という当時の株価の倍の値段で買うといった日本電産の永守社長の見る目があることも証明されました。

どうでしょうか?買収防衛策で時間と情報を確保する意義があると思いませんか?

 

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