2017年05月08日

No.86 なんだかでかい話になってきた佐々木ベジさんなど2コラム

■なんだかでかい話になってきた佐々木ベジさん

反骨の実業家、台湾マネーのバックアップの下で企業買収ファンドの設立を計画

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-24/OOLQOB6TTDS301

http://www.freesia.co.jp/news/bloomberg_news.html

 ↑2017年4月25日にブルームバーグで掲載された記事です。

佐々木ベジさんのソレキアに対するTOBですが、佐々木ベジさんはそれだけで終わるつもりはないようです。ソレキアへの敵対的TOBは「手始め」に過ぎないのかもしれません。ソレキアで花火を打ち上げて佐々木ベジの名を世に知らしめ、そしてどんどんTOBを仕掛ける、という戦略なのでしょうか。

私が野村證券を退職して昨年独立したのは「今後、日本で敵対的TOBが増えることは間違いない」と考え「自分でやってみよう」と思ったからです。いつ起きても不思議はないと思っていましたが、こんなに早く、しかも派手に起きるとは思っていませんでした。

 ブルームバーグの記事を見ますと『佐々木氏は台湾の投資家と組み、日本での経営陣による自社買収(マネジメント・バイアウト、MBO)を支援するファンドの設立も進めている。台湾では日本企業への関心が高い上、日本の技術をアジアにも広めたいとの考えからだ。立ち上げ時のファンド規模は100億円程度を見込む。大企業の実質的なグループ会社や世襲社長の経営で、リスクテークの意識に欠ける日本企業を変えたいとの思いが強く、今回のソレキア買収は「1つのテストケースとしている面もある。だから、私は勝たなくてはいけない」と語った。』とあります。

 なんだか大きな話になってきています。ただ「ファンド規模は100億円程度」ですので、そんなに大きな金額ではありませんから、買える会社は限られています。しかし、村上ファンドだって、ファンドを設立した際の規模はそんなに大きくありませんでしたが、どんどん規模を拡大させていきました。佐々木ベジさんが成功すれば、お金はどんどん集まってきて、買える会社の規模は大きくなっていきますので、他人事ではなくなってきます。それに、敵対的TOBに慣れていない日本企業は買収者からすると「宝の山」なのです。たぶん、佐々木ベジさんが作るファンドは儲かるでしょう。そう考えた投資家は佐々木ベジさんにお金を出すでしょう。

ソレキアへの佐々木ベジさんによるTOBの期限は5月12日までです。一方、富士通によるTOBの期限は5月10日までです。もうすぐ結果がわかります。以前から申し上げているとおり、佐々木ベジさんのTOBに負けはありません。まあ、10%くらいしか集まらなければ負けと見なされるかもしれませんが、20%以上集まれば勝ちと見なすことができるでしょう。経営に対して一定程度のプレッシャーを与えることのできる持分だからです。一般的な買収防衛策のトリガーも「20%」と設定していますから、20%という持分は経営陣からすると「これ以上は買われたくない水準」と見なすことができます。

 佐々木ベジさんは「ソレキア買収は一つのテストケース」と言っています。ソレキアのケースはM&Aのプロと呼ばれる方々ですら認識していません。日経がほとんど取り上げていませんから、世の中は敵対的TOBが起きていることに気付いていません。しかし、このケースは近年まれに見る大変学ぶことの多いケースです。それなりの増配を早く打ち出していれば即終了し防衛できていたケースですが、富士通という大企業がホワイトナイトとして登場し、しかもTOB価格で個人の佐々木ベジさんに競り負けてしまいました。あまり見ることのできるケースではありません。

 これは「テストケース」だそうです。テストするにはかなり大がかりなケースになってしまいましたが、佐々木ベジさんが最も望んでいたシナリオだったと思います。結果はまだわかりませんが、少なくともTOB価格では佐々木ベジさんが勝っています。

 エフィッシモ、村上ファンド、ストラテジックキャピタル・・・に加えて佐々木ベジさんも舞台に登場してきました。日本企業VSアクティビストファンド・・・これからの日本企業を取り巻く状況はかなり厳しいと考えます。新たな役者の登場に加えて、日本企業には「持ち合い解消」というシナリオが待っているからです。また、第一生命が株主総会議案の賛否の個別開示を決めました。こうなってくると、生命保険などの金融機関が安定株主として機能するのかどうかも怪しくなってきました。

アクティビストファンドの常識と日本企業の経営者の常識にはズレがあると思います。どちらが良いのか悪いのかという話ではありません。株式市場と日本企業の経営者にはズレがあるということです。長期的には株式市場と日本企業の経営者にズレはありません。「企業価値を向上させ株価を上げる」という目標は両者ともに一致しています。何がズレているかと言うと、時間軸です。株式市場の求めるスピードはとても速いです。そのスピードについていけない企業は投資家から見放されてしまいます。つまり、誰もその企業の株式を買わない状態になり、株価は割安に放置されてしまいます。

 そうするとどうなるでしょうか?PBRは1倍を割ってしまい、見る人が見れば非常に魅力的な状態になります。つまり、アクティビストファンドのターゲットになりやすくなるということです。アクティビストファンドは見逃しません。

 「安定株主がいるから大丈夫!」 はたしてそうでしょうか?安定株主だって自社の株主に対する説明責任があります。安定株主の安定株主比率は大丈夫でしょうか?「うちは安定株主比率が低いから、理由を説明できない株式を持ち続けることは不可能です」と通告される日はそう遠い日ではないでしょう。安定株主がいたとしても、30%くらいなら買われてしまう可能性が高くないでしょうか?経営権を取られはしないけど、株主総会の拒否権を取られるリスクが高い企業がほとんどです。そうなると、中長期にわたってアクティビストファンドに対応しなくてはなりません。社長をはじめとした経営陣は疲弊します。

 第二のソレキアになる可能性はどの企業も抱えています。「いくらIRをやっても株価が上がらないし、投資家とのアポイントすら難しい」「説明会をやってもそんなに来てくれない」 株価をあげるためにいくら情報発信をしても投資家が振り向いてくれない企業はたくさんいらっしゃると思います。でも上場している以上は考え続けなくてはいけない。悩ましいところです。

■一瞬、きわどい防衛策と思いましたが、、、

 ソレキアを取り巻く状況は日々変化しています。実は、4月28日にソレキアの大量保有報告書を提出した人がいます。吉田 知広氏です。「え?誰?」という反応かと思いますが、私もです。てっきり個人の安定株主がソレキアのために買い増したのかと思いましたが、純粋な個人投資家のようです。吉田さんは4月28日の17:03に大量保有報告書を、17:04に変更報告書を提出しており、それらによると保有割合は9.64%、8.46%です。変更報告書に記載されている最近60日間の売買状況を見てみます。

 吉田さんがソレキア株式を買い始めたのは3月21日からのようです。3月16日(木)に富士通がソレキアのホワイトナイトになることが公表され、3月21日(火)に佐々木ベジさんがTOB価格を引き上げました。TOB合戦になることを見越して買い始めたのでしょう。ちょっとだけ上から目線で申し上げますと「買い始めるタイミングが遅い」です。TOB合戦になることはソレキアが佐々木ベジさんに質問した内容を見れば2月の段階でわかったことです。また、4月24日に98,000株買っていますが、たぶん、佐々木ベジさんが票読みを公表しその内容を見て「TOBに上限が付いているものの、どうやら按分にはならず全部買ってもらえそうだ」と思ったから大量に買ったのでしょう。これもソレキアの株主構成を見れば容易に想定できたことです。更に申し上げますと「気付くのが遅い」です。

これがデイトレーダーとインベストメントバンカーの違いです(笑)

一瞬吉田さんの登場は「安定株主による市場での買い増しかな?」と思いましたが、違いましたね。どういうことかと言うと、ソレキア経営陣が安定株主に対して「市場で当社株式を買い増してほしい」とお願いするということです。浮動株を吸い上げることによって、佐々木ベジさんのTOBへの応募を少なくする方法です。インサイダー取引規制に触れてしまうリスクがあり、ちょっと微妙な防衛手段なので実際に行う際には慎重に検討する必要があります。ただし、今回の場合、上表の「取得又は処分の別」という欄を見ると、取得している日もあれば処分している日もあります。安定株主による買い増しであれば処分はしないでしょう。既述のとおり、佐々木ベジさんのTOBは上限が付いているものの、ソレキアの安定株主は佐々木ベジさんのTOBには応募しません。佐々木ベジさん自身もソレキアの株主名簿をもとに票読みをしていますし、その内容を公表しています(株主にレターを送っています)。おそらく按分にはならず全部買ってもらえると考えたから買い増したのでしょう。吉田さんが保有しているソレキア株式約10%は佐々木ベジさんのTOBに応募する可能性があります。ある程度の株式を佐々木ベジさんは集めてしまうかもしれません。

 なお、ソレキアにはまだTOBを阻止する手段が残っています。しかしそれをやると株主代表訴訟をくらってしまうリスクがあるのでたぶんやらないと思います。

 

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