2020年11月17日

No.956 (無料公開)島忠による敵対的TOBへの賛同表明~日本企業はこれからどうすべきか?~

朝日新聞さんやWBSさんのインタビューでもお答えしているのですが、ちょっと詳しく書きます。今回のコラムは無料公開します。

以下の記事をご覧ください。

ニトリの島忠TOBを外国人投資家が称賛「やっと日本もまともになった」

そうはいっても、日本人的な感覚で言えば、“婚約”しているのに嫁になる人を奪いに行くのは企業の見え方としてどうなのか?疑問に思ったが、実は、一見、モラル的に疑問に見えた今回の「あとからTOB」について、逆に「やっと日本もまともになった」と称賛する声があがっていたという。

どこからか?外国人投資家からだ。つまり、これまで日本では、企業の経営者同士が“握った”ら、他の企業には原則、分け入るチャンスはなかったが、実際、株主の視点に立って考えた場合には、より良い条件の企業が名乗り出てきた場合に乗り換えるチャンスがある環境の方が“健全だ”ということだ。

当然予想された反応です。これまで日本企業は敵対的TOBに賛成したことはありません。外国人投資家は「日本企業は価格の高いTOBをまともに検討せず、ただ敵対的だという理由で感情的に反対している」と思っていることでしょう。はい、おおむね正しいです。例えばソレキア。佐々木ベジさんに敵対的TOBを仕掛けられた際、意見表明報告書でけっこう感情的な反論をしました。詳しくは以下のコラムをご覧ください。

https://ib-consulting.jp/column/134/

ほかにもけっこうあります。だいたいの会社が「当社に何の打診もなく突然TOBを実施してきた!」とおっしゃいますが、そりゃ仕方がない話です。お気持ちはよくわかりますが、株式を上場している以上、TOBを突然仕掛けられても仕方がないのです。それがイヤなら上場を廃止するしかありません。安定株主でガチガチにしても、突然TOBを仕掛けられることはあります。以下の会社がそうです。

https://ib-consulting.jp/column/1347/

ちょっと話がそれますが、よく「安定株主比率が高いのになんで買収防衛策を導入するんだ?」という方がいらっしゃるのですが、安定株主比率が高くても敵対的TOBを仕掛けられたり、株主提案をされたりすることはよくあるのです。例えば以下も。帝国繊維やTBSは安定株主比率が非常に高いですが、株主提案をされています。

https://ib-consulting.jp/column/1409/

安定株主比率が高いから買収防衛策は必要ない、ではないのです。買収防衛策は買収提案の実現を阻害するためのルールではなく、単に20%以上の株式を取得する場合は情報と時間をくださいと言っているルールに過ぎません。だから安定株主比率が高くても20%以上の株式取得をされる可能性があり、20%以上取得されたら経営に重要な影響を与える恐れがあるから、株式取得に関する情報と検討するための時間をくれと言っています。

話を元に戻しますが、これまで敵対的TOBを仕掛けられた日本企業の反論は感情的な内容が多く、そして「TOB価格」についてはあまり言及してきませんでした。言及しても意見表明の最初ではなく、中盤とか後半です。反対の最大の理由は「一緒になってもシナジーがない」です。そしておまけのように「TOB価格も安い」と付け足す例が多かったですね。

でもこれからそうはいかなくなります。そもそもTOBというのは株主に対して「あなたが持っている株を●●円で売ってほしい」と直接お願いしている行為です。経営陣が株主に敵対的買収者に株を売ってほしくないのであれば「シナジーがないから売らないでください」では通じません(100%買収の際です。部分買付けなら通用します)。「TOB価格は市場株価にプレミアムが付いているものの、中長期的な当社の価値に比べたら安いです。応募すべきではありません」と言わなくてはなりません。WBSのインタビューで私は以下のとおり答えました。

「自社のリスクが何なのか?そのリスクは平時から解消できるのか?常に議論検討して課題を解決していくことが大切」

これまで敵対的TOBを仕掛けられた会社は、平時の準備をちゃんとやっていなかったように見えるのです。本当はちゃんと準備していた会社もあるかもしれませんが、以下、私の感想です。

ソレキア:敵対的TOBを仕掛けられる前、フリージア・マクロスに株式を取得されたことを知っていたのに適切な対応を平時に取らなかった。

デサント:伊藤忠商事が約25%も持っているからどうしようもないと考え、企業防衛について勉強しなかった。

ユニゾHD:敵対的TOBを仕掛けられる前、エイチ・アイ・エスがアプローチしてきたのに適切な対応を平時に取らなかった。

東芝機械:旧村上ファンドに株式を取得されているのに買収防衛策を廃止した。

前田道路:前田建設工業が約25%も持っているからどうしようもないと考え、企業防衛について勉強せず、誰が見ても失敗する特別配当で対抗してしまった。

大戸屋HD:創業家ともめているのに適切な対応をとらなかった。

デサントは仕方がないです。誰がどうやっても伊藤忠商事にはかないませんでしたが、ただもっとましな戦い方はできたと思います。しかしソレキアや大戸屋HDは敵対的買収を仕掛けられないように事前に買収防衛策をちゃんと導入しておけばよかったのにと思いますよ。また、前田道路はあんなわけのわからん策にもなっていない特別配当をやるのではなく、パックマン+αを実行したら買収されなかったですよ。

これからの時代、確実に敵対的TOBは増えます。間違いありません。年内、また起きるかもしれませんよ。これから敵対的TOB時代を迎えるにあたって、買収防衛策は必須になります。「機関投資家が反対している買収防衛策を導入・継続するなんて時代錯誤では?」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、間違っています。だれも経験したことのない敵対的TOB時代を迎え、それを乗り越えて上場会社として独立した経営を確保するために買収防衛策は必要なのです。

「買収防衛策は経営者の保身だ」と言う方も間違っています。そもそも買収提案に当たって情報と時間をくれと言っているに過ぎないルールのどこが経営者の保身のルールなのか?こういうと「買収防衛策を使って時間をかせぎ、買収提案がなかったことにするつもりだ!」と言う人もいますが、理解できません。時間をかけたらなぜ買収提案がなかったことになるのか?また友好的な買収提案ですら、それを実行するまでに相当な時間がかかります。DCMが島忠にTOBをかけるまでおよそ半年かかりました。買収防衛策で半年~1年かけて情報をあつめ検討したとしても、時間がかかり過ぎと言えるでしょうか?なお、そもそも企業価値研究会も「時間稼ぎをすべきではない」という趣旨のことを言っており、時間稼ぎのためだけに買収防衛策を使うのは難しいです。

「買収防衛策があると経営者に緊張感がなくなる」と言う人もいますが、これも間違っています。買収防衛策があると経営者は常日頃から企業価値とは?企業価値を向上させるには?を考えます。なぜなら買収防衛策の継続を認めてもらうには、企業価値を向上させないと株主が納得しないからです。買収防衛策を認めてもらうために、経営者は必死にがんばります。常日頃から事務局は敵対的TOBの事例を研究し、自社に仕掛けられないようにするにはどうすればよいか?を考えます。買収防衛策は企業価値になんらマイナスではなく、むしろ経営者に緊張感をもたらすプラスに働くルールなのです。買収防衛策を導入していない会社は即導入すべきですし、廃止した会社は即再導入すべきと私は考えます。

平時にできることは平時にやっておく。そして平時から「敵対的TOBを仕掛けられないようにするにはどうすればよいか?」を真剣に議論する。これがここから始まる敵対的TOB時代を乗り切るために必要なことです。

 

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