2022年05月24日

No.1313 東芝は何のために非公開化するのか?

アクティビストと経営陣が対立してにっちもさっちもいかないから非公開化しまーすって言うんですか?それ、理由にならないですよ。それを正式な理由にせずお化粧した理由にしたとしても、みんな「アクティビスト対策で非公開化するんだよね」と思うはずです。そのような状況で非公開化したら、後々また困ることになります。

東芝と潜在的な投資家及びスポンサーとの協議の状況です。

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/news/20220513_3.pdf

5月13日時点で計10社から秘密保持誓約書を受け入れたそうです。そういえば、東芝ってそもそもどうして非公開化を検討しているのでしょうか?発端は以下のCVCによる提案ですよね?

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/irAssets/about/ir/jp/news/20210420_1.pdf

でもこれって東芝が望んだものなのでしょうか?非公開化提案を受けたから検討したというものであって、そもそも東芝は何のために非公開化をしようとしているのでしょうか?さらに言えば、東芝の経営陣は非公開化したいと本気で考えているのでしょうか?「投資家が非公開化の提案をしてきた以上、それが株主にとって最大の利益を生み出すものなら取締役会は真剣に検討しろ」ってことですか?ふーん。

では、次にベインのインタビュー記事を見てみましょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC192J20Z10C22A4000000/

杉本氏は取材に対し、「株式を非公開化するメリットが大きい。少数の株主と経営者が一緒に徹底的に議論し、まずは一枚岩にならないといけない」と指摘した。「もう一度全事業を評価し直すべき」だとして、仮に買収が実現した場合には「戦略的な話を経営陣と徹底的にしていきたい。まずは何も切り売りせずに全ての事業をもう一度経営していくと思う」と述べた。

また、買収実現後も経営陣には残留してもらう考えを示した。「ガバナンス(企業統治)の問題でなかなか事業の方に時間が取れていない。大変かわいそうだと思っている」とし、「引き続き残ってもらい、私たちと一緒に経営改革をしていただきたいと希望している」と述べた。

「ガバナンスの問題でなかなか事業の方に時間が取れていない」ということです。アクティビストの攻勢により東芝の経営陣が本業に集中できない、少数の株主と経営陣が徹底的に議論して一枚岩になる。つまりアクティビストにはいなくなってもらいましょう、ということです。

今回の非公開化の目的は「うるさいアクティビストを追い出して、株主を少数に絞り、経営陣が本業に集中できる体制を構築しましょう」ということですね。

ということは東芝は二度と再上場できませんね。なぜかと言うと、上場している以上、たくさんの株主がいます。それらの株主は多種多様の考えを持っています。そのような株主を取りまとめ、経営方針や株主還元を示し株主に納得してもらう訳です。なかには納得してくれない株主もおり、そういう株主は株主提案をしたり、株式を買い集めて圧力を強めたりします。上場している以上、そのようなことは当たり前に起きます。

そういったことに嫌気して「もういったん非公開化したほうがよい」と考えるのなら、上場会社の経営者失格ですよ。仮に東芝が非公開化しても、いずれ東芝のままなのか形が変わるのかはわかりませんが、再上場するチャンスがあるかもしれません。でも再上場したら、またアクティビストのような株主も登場します。経営陣と意見が食い違うことなんてザラにあります。そのたびに東芝は「また意見が食い違う!」と考えて非公開化するんですか?

株主と経営陣の意見が食い違うなど当たり前のことです。会社は株主だけのものではないですし、経営者は株主のことだけを考えて経営しているわけではありません。株主、従業員、取引先、地域社会のことをバランスよく考えて、各ステークホルダーに利益配分をしています。当然、各ステークホルダーは「自分たちの利益を増大させろ」と主張するでしょうが、特定のステークホルダーだけの利益のみ増大させるわけにはいきません。だから株主と経営陣が対立することもあります。

そんなときにはどうすればいいのでしょうか?よく対話するんですよ。アクティビストに対して自分たちの経営の正当性、戦略の正当性を訴える。株主還元も増やしたいけど、成長戦略投資にこれだけ使わなくてはならないから、今期はこれしか還元はできない、とちゃんと説明するんですよ。

それでアクティビストが納得するか?しないかもしれませんね。いや、しなかったのでしょう。そういう場合はどうすればよいか?アクティビスト以外の株主を説得し、東芝の経営陣の味方を増やすんですよ。当たり前です。東芝の経営陣はアクティビストに振り回されて、他の中長期的に株式を保有してくれている機関投資家への手厚い説明をしましたか?常にアクティビストが納得する経営ばかりを考えてきませんでしたか?見ている方向がずーっとアクティビストだけだったのではありませんか?

アクティビストにビビり過ぎましたね。もうちょっと胆力のある経営者をトップに据えるべきだったと思いますよ。東芝出身者でも金融機関出身者でもない人をです。まあいまさら言ってもしょうがないことではあるのですが。念のためですが、私はずーっと言い続けてきました。↓これは有料です。

No.1213 東芝出身者ではムリだったということ。交渉できるわけがないんですよ

↓こっちは無料です。

https://ib-consulting.jp/column/137/

↓有料でしたが、この機会に無料公開します。

https://ib-consulting.jp/column/322/

ただ、東芝がもしアクティビストから逃れるために非公開化を選択するのであれば、それは大間違いです。上場している以上、いろんな意見の異なる株主が寄ってくるのは当たり前で、経営陣と異なる意見の株主が多数を占めることだってあります。意見が異なる株主が多いから、そのたびに非公開化なんてできませんよ。ときには役員選任議案に反対票を突き付けられることだってあるかもしれませんが、そんなことを経営陣が恐れていては上場会社の経営などできません。株主に圧力をかけられようが、経営陣は信念をもって経営に当たるべきなのです。自分たちのファン株主を育てていかねばならんのです。

 

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