2022年06月08日

No.1324 インサイダー取引はダメだけど問題の本質はそこではないのでは?

すでにご存じのとおりIRジャパンが以下を公表しています。

本日の一部報道について

調査委員会の設置に関するお知らせ

IRジャパンの株価です。連日のストップ安です。注目したいのは6月6日の株価です。

6月6日の株価の状況は、6月3日終値4,270円に対して、始値3,640円、高値3,655円を付けています。以下の週刊ダイヤモンドの記事が登録されたのは6月6日5:12のようです。

https://diamond.jp/articles/-/304350

日経の報道は6月6日9:53になっていますね。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE01C2B0R00C22A6000000/

たぶんですが、6月6日の株価はかなり下げて始まっていますから、報道を織り込んではいたのでしょう。でも当初は「IRジャパンの役員がインサイダー取引をしたらしい」という受け止め方だったのではないかと想像します。でも週刊ダイヤモンドの記事を見ると、冒頭で以下のように記載されています。

上場企業の“用心棒”として株主対応などを手掛けるアイ・アールジャパン(東証プライム上場)が、上場規程に反して業績予想修正を適切に開示しなかった疑いが、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。株価維持による最高幹部のインサイダー取引疑惑も浮上している。監視当局もこうした事実を把握し、調査に着手した。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

週刊ダイヤモンドはインサイダー取引を問題視しているのではなく「上場規定に反して業績予想修正を適切に開示しなかった疑い」をまずは問題視し、次に「株価維持による最高幹部のインサイダー取引疑惑」について触れています。週刊ダイヤモンドによると証券取引等監視委員会の捜査員がIRジャパンの家宅捜索に入ったのは6月1日だそうです。

そしてIRジャパンは以下を6月3日に公表しました。証券取引等監視委員会の調査を受けてのことなのでしょうね。

代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ

ちなみにこの方は当初、退任すると公表されていました。以下5月13日の公表資料です。

代表取締役及び役員の異動ならびに連結子会社等の役員の異動に関するお知らせ

IRジャパンHDとHDの子会社IRジャパンの代表取締役副社長を退任し、子会社IRジャパンの顧問に就任予定でしたが、上記のとおり6月3日に辞任しました。顧問就任もなくなったようです。

そして週刊ダイヤモンドは記事の中で、2021年12月末の幹部のみの会議で通期の売上見通しとして示された数値は95億4,600万円だった、と指摘しています。有料記事なので詳しい抜粋は控えます。この数字だと、公表している予想値120億円に対して20%以上の下振れになるそうです。

このように週刊ダイヤモンドが問題視しているのはインサイダー取引ではなく、業績見通しが未達になる可能性がある中で、なぜ昨年12月の時点で適時開示をしなかったのか、ということです。そしておそらくマーケットも当初はインサイダー取引に目がいったもののよく考えると「いや、この問題の本質はインサイダー取引ではない。IRジャパンの適時開示姿勢が問題なのではないか?IR支援をする会社の適時開示姿勢に問題があるというのは重大」と認識し、6月6日と7日の株価がストップ安になったのではないでしょうか?いや「適時開示姿勢」といったあいまいなものではなく「適時開示義務に反していたのではないか?」とマーケットがみなした可能性もあります。

なお、私は1997年に野村證券に入社しましたが、当時は入社後2か月間は研修を受けていました。研修の最初のころにある映画を見ます。さてどんな映画でしょうか?それは「ウォール街」です。ウォール街という映画がどういう内容なのか?以下をご覧ください。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AB%E8%A1%97_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

証券会社に勤める営業マンのバドは、貧しい生活に嫌気が差し、出世を夢見ていた。ある日バドは営業のために、投資家ゴードン・ゲッコーのオフィスを訪れる。ゴードンは始めバドに興味を示さないが、バドが父の勤める航空会社"ブルースター・エアライン"の内部情報を話すと、ゴードンは興味を示し注文を取ることに成功する。

ゴードンはバドの功名心につけこみ、インサイダーを行うための情報収集を指示する。バドは友人の弁護士法人のオフィスに清掃員の監督として忍び込み、スパイ活動まで行って企業秘密をゴードンへ提供する。報酬を得てリッチになったバドは、ゴードンから紹介された美しいフランス人女性ダリアンと恋仲になり、高層マンションで同棲し栄華を極める。

バドは自分の企画として、父が勤める経営破綻寸前のブルースター社の買収をゴードンへ提案する。始めは相手にしないゴードンだが、父が同社の労働組合幹部であり、組合員を説得したうえで買収できるとバドが強気に説得すると、ゴードンは買収を決める。

いいですねえ。インサイダー取引の話に加えて、アクティビストによる買収の話まで網羅しています。あの当時はこの映画を見ても「なんのこっちゃ?」と思っていましたが。

インサイダー取引に関する研修なども証券会社にはあります。「インサイダー取引をしたら100%ばれると思え」と言われます。現にそうでしょうね。確実にばれます。監視委員会の調査をなめないほうがよいです。

なぜ証券会社出身の方がインサイダ―取引の疑いをかけられてしまうような行為をしたのか???理解に苦しみます。あれだけ「インサイダー取引はばれるんだ」と教えられていたのに・・・。もちろんまだ調査段階なのでしょうけど。

本日6月8日の株価はどうなるんでしょうか・・・・。

 

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