2017年10月03日

No.179 他社事例は練習問題です

 私がコラムで「買収防衛策は導入すべき」と申し上げるため、中には「うちは買収防衛策を導入しているから問題ないだろ」と考える会社もいらっしゃるかもしれません。私が申し上げているのは、企業防衛を考える上で「買収防衛策の導入は基本中の基本であり、第一歩にすぎない」という意味であって、導入している企業は大丈夫ですよと申し上げている訳ではありません。

 買収防衛策を導入していたって、買収提案をされた会社はあります。例えば、東洋電機製造。2008年9月に永守社長の日本電産に買収提案をされました(同年12月に買収提案を撤回)。東洋電機製造は2008年8月に買収防衛策を導入していました。

日本電産は3,175円(当時は635円。5株を1株にする併合を実施)と株価1,525円の倍以上の価格を提示しました。買収防衛策を導入していても、対応するのはなかなか難しいです。倍以上の値段を提示しているのだから、経営陣は提案に応じるべきだと言われるでしょう。質問と回答に時間をかけ過ぎれば「保身のために時間をかせいでいる」と非難されるでしょう。日本電産は買収提案を撤回し、その後、東洋電機製造の株価は買収提案価格を超えて推移しましたから問題なかったと言えます。なお、日本電産は「いっしょに経営していけるとは思えない」などという理由で買収提案を撤回しましたが、本当でしょうか?本当は「リーマンショックが起きて東洋電機製造を買収しているどころではなくなったから」ではないでしょうか?もしリーマンショックがなかったら、もしかしたら日本電産はTOBを実施していたかもしれません。

私はどの日本企業も買収防衛策を導入すべきと考えています。なぜなら、日本企業は敵対的買収にまだ慣れていないですし、買収価格の是非に争点が当たるような対応をできないからです。それは、何も日本の経営者に問題があるからではありません。投資家にも問題があると考えています。目先のプレミアムに飛びついてしまい、会社の本質的な価値を検討しないからです。「みんな応募してしまうから応募しなきゃ!」という投資家もいるでしょう。買収防衛策を導入しておけば、買収者と会社が真剣に対峙する場面を作ることが可能になります。ですから、買収防衛策を導入しているから大丈夫、ではないのです。何度も申し上げているとおり、買収防衛策は買収を防衛する策ではなく、時間と情報を確保するための策です。適切な情報を確保するためにどういう質問をするのか?時間はどこまでかけてよいのか?TOB価格はこれでよいのか?株主価値を考えたら本当に反対してよいのか?買収防衛策の使い方はなかなか難しいです。使い方を検討しておかないと、いざ有事になったとしても、買収防衛策を導入しているからと言って無限に時間を確保できる訳ではないのです。

東洋電機製造のケースは何度かコラムで言及していますので、皆さんもう覚えているかもしれません。これに限らず私が皆さんに何度も他社事例をご紹介するのは、練習問題にしていただきたいからです。実際に株主提案や敵対的買収といった場面に遭遇してしまうと、いきなり本番です。他社事例をよく研究しておくしかありません。うちの会社にも同じような提案がなされる可能性はあるのか?提案されたらどう反論するのか?反論できないのなら平時のうちから対策を考えておいたほうがよいのではないか?です。

 

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