2017年10月11日

No.185 株主にとって買収防衛策は必要

 最近よくこのネタでコラムを書いています。というのも、やっぱり買収防衛策って誤解され過ぎなんです。よーく考えてみると、買収防衛策って経営者の保身のための施策ではないんですよね。例えば、出光興産にTOBがかかったら株主はどう行動するか考えてみましょう。

 私、株主です。銘柄コード5019出光興産の株価です。では、2017年10月10日の終値3,190円に対して30%のプレミアムが付いた価格で敵対的TOBが実施されたとして、株主は応募するでしょうか?いや、私は応募するでしょうか?3,190円に30%のプレミアムですから、4,147円です。答えは「絶対に応募します!」です。30%プレミアムですから・・・・そりゃ応募しますよ。

でも、待ってください。10月10日の出光興産のPBRは0.87倍です、BPSは3,649円です。TOB価格4,147円だと、PBRは1.14倍ですね・・・。これって、高いんですかね?JXのPBRは0.82倍です。コスモは1.3倍、昭和シェルは2倍です。石油業界の専門家ではないので、正確なことは言えませんが、仮に出光興産に30%プレミアムの敵対的TOBが今かかったとして、本当に応募してよいのかどうかは、ちょっと疑問を感じ始めました。本当に高いのだろうか?と。

 はい、これが株主のレベルです。私、今30%プレミアムのTOBがかかったら、応募してしまいます。なぜなら、その価格が中長期的に見て高いのか安いのかよくわからないけど、目先30%も儲かるから応募するのです。本日の日経20面「ファンド攻勢、株底上げ」に「「ベインさまさま」。都内に住む60代の女性個人投資家はほくほく顔だ。2007年に1株4,000円弱で購入したアサツーDK株を、ほぼ同価格で売れたからだ。株価低迷が続き「ずっと損切りを考えていたのでチャラで十分。次はIT銘柄に投資しようかしら」と満足げだ。」とあります。失礼ながら、個人投資家はこのレベルです(私も含めて)。たぶん、この方、次のIT銘柄でも損すると思います・・・。

 仮に出光昭介氏がTOBを仕掛けたとして、出光興産はどういう反論をするでしょうか?ソレキアのような感情的な反論でしょうか?「出光昭介氏が当社を支配したら企業価値が毀損するんです!」「取引先が離れていきます!」「現経営陣に何の断りもなく突然TOBを仕掛けてきました!なんという無礼者でしょうか!このような無礼者のTOBに応募しないでください!」・・・私、絶対に応募しますね。もしこのような感情的な反論を経営陣がしたら、信用しません。

 ではこう反論したらどうでしょうか?「出光昭介氏が経営権を握ったら、現在計画している昭和シェル石油との経営統合は実現されなくなる。出光昭介氏のTOB価格は現在の株価に30%のプレミアムが付されており、一見高い価格である。しかし、我々が昭和シェルと経営統合したら、中長期的にはもっと企業価値・株主価値が向上すると考えている。ちなみに、プレミアムを付したTOB価格はPBRで計算すると1.14倍にしかならない。同業であるコスモや昭和シェルのPBRと比べても相当安い。現在の株価が当社の価値が正当に評価されたものとは考えていないし、30%程度のプレミアムを付した価格であっても安い。それに、これからの経営統合といった経営施策の実行を考えれば、相当安いと言わざるを得ない。」 どうでしょうか?まだまだ弱い反論かもしれませんが、感情的な反論に比べたら「お、そうかもしれんな」と思う株主も出てくるのではないでしょうか?そうすると、出光興産の市場株価はどう反応するでしょうか?アサツーDKと同じような値動きになる可能性があります。つまり、市場株価がTOB価格を超えて推移するということです。それが続けば、市場株価よりも安いTOBに応募する人はいません。

 TOB価格が安い!と主張することは、割と勇気のいることです。「安い価格に放置していたのは経営陣ではないか?」と言われるかもしれませんし、TOB価格を引き上げられたら反論が困難になってしまう場面があるかもしれません。しかし、株主に対して経営陣が「このTOB価格は安い!」と主張しないことには、株主はTOBに応募してしまいます。なぜなら株主は貴社の真の価値を知らないからです。迫力をもって株主を説得すれば、経営陣を信頼してくれる株主も出てくるはずです。経営陣の主張を株主が信頼してくれれば、それは株価に反映されます。そのためには情報と時間が必要、ということなのです。

 最後に、オリンパスの最近10年間の株価を掲載します。2012年1月から6月あたりの時期に市場株価に30%のプレミアムをつけたTOBがかかったら株主はどう行動したでしょうか?「粉飾決算の行方もどうなるかわからんから、応募しておこう」でしょうか?その後の株価はどうなったでしょう?5,000円くらいまで上がっていますね。5,000円の価値があるにも関わらず、会社の真の価値がわからないから株主は応募していたかもしれません。これが時間と情報を確保できなかった株主の不幸というものです。ちなみに、オリンパスは買収防衛策を廃止した会社です。

 

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