2017年02月10日

No.55 株主提案権 乱用防ぐ

 株主提案が増えています。まともな株主提案もあれば、「これはどうなの?」という株主提案もあることは事実です。本日の日経には「野村ホールディングスは2012年、1人の株主から社名を野菜ホールディングスに変更するなどの株主提案を100個受けた」とあります。覚えています。野菜ホールディングスへの社名変更以外に以下のような提案がありました。

< 株主提案(第2号議案から第19号議案まで) >

第2号議案から第19号議案までの各議案は、株主(1名)からのご提案によるものです。

 株主からは、当社商号の「野菜ホールディングス」への変更を求める件をはじめとする100個の提案がございましたが、株主総会に付議するための要件を満たすもののみを第2号議案から第19号議案としております。

 以下、各議案の提案の内容および提案の理由は、個人名を削除したことを除き、原文のまま、提案された順に記載しております。

○第2議案から第19議案にする取締役の意見

 取締役は、第2議案から第19議案までのすべての議案に反いたします。これは取締役会として、これらの提案が株主共同の利益または企業価値の向上のいずれにも資するものではないと判断したためであります。(なお、各議案の記載で、「取締役会の意見:本議案に反対いたします。」とのみ記載した箇所につきましては、この共通する理由によるものであるため、個別の理由記載を省略いたしております。)

第3号議案 定款一部変更の件(商号の国内での略称および営業マンの前置きについて)

当社の日本国内における略称は「YHD」と表記し、「ワイエイチデイ」と呼称する。営業マンは初対面の人に自己紹介をする際に必ず「野菜、ヘルシー、ダイエツトと覚えてください」と前置きすることとし、その旨を定款に定める。

第11号議案 定款一部変更の件(投資先の制限について)

東京電力、および関西電力に対する融資、投資を禁じる旨を定款に明記する。

第12号議案 定款一部変更の件(日常の基本動作の見直しについて)

貴社のオフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価四桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする。

第13号議案 定款一部変更の件(取締役の呼称について)

取締役の社内での呼称は「クリスタル役」とし、代表取締役社長は代表クリスタル役社長と呼ぶ旨定款に定める。

 

 当時は社員でしたので「和式はやめて」と思いました。そもそも、これらの提案を株主提案として取り上げるべきだったのか疑問が残ります。会社の主張としては、100個の株主提案があったけど、株主総会に付議するための要件を満たすもののみを取り上げたということですが、上記の提案は要件を満たしているのかもしれませんが、何でもかんでも定款変更にしてしまえば要件を満たしていると言ってよかったのか疑問です。

 株主提案権の乱用を防ぐという議論において、上記の野村ホールディングスへの株主提案を取り上げるのはちょっとどうかと思います。そもそも、会社がリスクをとって、取り上げなければよかったことです。常識的な株主であれば、取り上げなかった経営者を支持するでしょう。まあ、取り上げないことで訴訟になる可能性はありますが。

 株主提案の件数推移などは添付の全国株懇連合会の資料が参考になります。(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kabunushi_soukai/pdf/005_s07_00.pdf

 野村ホールディングス以外への乱用的な株主提案はどのようなものがあるでしょうか。ぱっと思いつくのは、電力各社に対する原発反対に関する株主提案です。原発に関する議論をここでするつもりはありませんが、確かに、定款変更に絡めて原発反対に関する株主提案をするのは株主総会の議案としてなじむのかと言うと疑問です。別の場所で議論してくれ、という話でしょう。このような株主総会の議案としてなじまない提案で、株主総会が長時間におよんでしまうのはどうかと思います。最近の電力会社の株主総会はかなり長い時間がかかっています。私も出席しましたが、2011年の東京電力の株主総会は6時間かかりました。

株主提案権の乱用を防ぐための措置として、日経の記事を見ると米国やドイツの事例が挙げられています。提案を株主1人につき1つに制限する、乱用的な内容の議案を排除する規定を設ける、などです。このような措置を取れば、乱用的な株主提案を防ぐことができるのでしょう。

しかし、このような対応が本当に日本企業の期待するものでしょうか?日本企業の本音はこの対応ではないと思います。そもそも米国において株主提案が可決された場合は、どのような対応になるのでしょうか。米国における株主提案の多くは勧告的決議であり、株主総会で可決されても法的拘束力はありません。添付の三井住友信託銀行の方が作成されている資料がわかりやすいです。(http://www.smtb.jp/business/agency/consulting/pdf/no2-026.pdf

日本企業もこのような対応を本音では求めているのではないでしょうか。昨今のコーポレートガバナンス改革により、株主権を強化するような法改正であれば歓迎されそうですが、株主権を弱体化するような法改正はおそらく風当りが強いのでしょう。しかし、大幅増配や大規模自社株買いの株主提案はどうでしょうか?乱用的ではないと言い切れるでしょうか?配当や自社株買いは会社の財務内容を熟知している経営陣が決めるべきものと思います。株主は表面的な財務はわかるものの、実際に会社が金融機関とどういう交渉を行いながら経営に必要な資金を確保しているか理解しているでしょうか?表面的には大幅増配や大規模自社株買いが可能であっても、実際にはできないケースもあるでしょう。それを判断するのが経営陣です。会社の実際の経営を考えると、増配や自社株買いの提案も時には乱用的な株主提案になってしまう場合もあるでしょう。

ずいぶん前の日経に「株主提案権を行使できる株主を1%・300個ではなく5%にすべきではないか」という意見が掲載されていました。株懇で議論されているみたいですね。

ただ、私は、5%だと時価総額が兆円レベルの会社だとよいのですが、数千億円レベルまでの企業では5%くらい買われるリスクがあると思います。ですので、例えば、社外取締役を過半数採用している企業は、株主提案は株主総会で可決されても、それを実行するかどうかは取締役会が判断するという法律改正をすべきではないかと思っています。今日の日経には「社外取締役の義務付けの是非も検討対象だ」とあります。社外取締役が過半数を占めている会社は株主提案を取り扱うかどうかは取締役会の判断で決定できるといった制度にしてしまえば、社外取締役を増員する会社も増えるのではないでしょうか。

■持ち合い解消相次ぐ

 オリンパスとテルモが2月9日に持ち合い関係を解消すると発表しました。SUMCOも新日鐵住金と三菱マテリアルが保有する株の一部を売却するとの連絡があったと発表しました。昨日のコラムで話題にしましたが、富士電機と富士通も持ち合いの縮小を発表しています。オリンパスはテルモの発行済株式総数の2.48%、テルモはオリンパスの1.63%を保有していますが、すべて売却するそうです。オリンパスはテルモが実施する自社株買いに応募します。テルモは今期中に売却する方向のようですが、売却方法は不明です。

 「資本関係がなくとも良好な関係が維持できる」としています。おっしゃるとおりですね。確かに資本関係がなくても業務提携はできますし、機関投資家は「そもそもお互い数%しかもっていないのだから、その程度の株式で経営をチェックできないんじゃないの?」と考えるかもしれません。

 オリンパスとテルモの株主構成を見てみましょう。まずはテルモです。

 安定株主比率を計算すると、20.7%です。ここからオリンパスの持分2.48%をマイナスすると18.22%です。そんなに高くはないですが、テルモの時価総額は約1兆5,000億円なので、時価総額を考慮するとそこそこ高いですね。外人比率もそこそこ高いですが、高すぎる状況ではないです。

 では次にオリンパスを見てみましょう。

 安定株主比率は24.48%です。会計不祥事の際、ソニーに対して第三者割当増資を行ったこともあり、安定株主比率はそこそこ高いです。時価総額は1兆3,000億円ですから、規模のわりにも高いです。ですが、個人株主比率は相当低いです。テルモによるオリンパス株式の売却手法は公表されていません。オリンパスのような株主構成の場合、国内個人投資家向けの売出しが個人株主を増やすためのよい施策に思えます。

 なぜ売出しがよいのか?テルモが保有するオリンパス株式は発行済株式総数に対して1.63%です。「個人株主比率がたった1.63%増えるだけでしょ?」とお考えになるかもしれませんが、そこがポイントです。1.63%は時価ベースで計算すると、約220億円です。これを国内個人投資家に販売するために、証券会社の営業マンを総動員する訳です。全国にある支店を動かします。オリンパス株式を買ってもらうために営業マンが何人のお客様に連絡するでしょうか?そのお客様は「ふーんオリンパスねえ。株価いくらなんだ?」とオリンパスの株価を見ます。これで個人投資家のアタマの中にあるポートフォリオにオリンパス株式が組み込まれる可能性が出てきました。実際にオリンパス株式を買わなかった個人投資家もこれから株価をチェックする可能性があります。売出しにはこういう効果が期待できるということです。株価が上がれば、買った個人投資家は売却して儲けることができます。買わなかった個人投資家は「買っておけばよかった」と思うかもしれません。

 

 

■「金持ち子会社」に照準

 今日の日経に出ていた記事です。パナソニックによるパナホームの完全子会社化について触れており、「焦点は子会社が保有する多額の現金」とあります。

 6月の株主総会でパナホームの完全子会社化を提案するようですが、株式交換比率が少数株主にとって不利と香港の投資家が指摘しています。争点の1つはパナホームが抱える現金です。12月末の現金同等物は975億円で時価総額の6割に達しています。キャッシュの使い方も問題視されており、740億円が親会社やグループ会社が活用できる「関係会社預け金」として拠出されています。

 この「関係会社預け金」ですが、投資家はよく問題視します。本コラムでよく挙げているエフィッシモが投資している上場子会社でも多額の関係会社預け金が計上されている会社があります。まあ、エフィッシモが投資した先にたまたま関係会社預け金が多額にあった、ということではなく、多額の関係会社預け金がある会社を狙ったというほうが正しいかもしれません。

 多額の関係会社預け金が発生している会社は「銀行に預けるより有利な条件なんですよ」とおっしゃいます。確かにそうでしょう。しかし、この記事でも指摘されていますが「投資家が求めるのは少なくとも1ケタ台後半のリターンだ」とあります。

 銀行に預けるよりは有利かもしれませんが、そもそもそんなに多額でかつ今のところ使い道が決まっていない現預金を抱えるのではなく、自社株買いや増配をしてくれというのが株主の主張でしょう。

親子上場問題についての議論は今に始まったことではありません。「開示しているのだから、イヤなら投資するなよ」「そもそも親会社が存在するのだから、親会社の都合で完全子会社化されることもあるだろ?」と言い切ってしまうことも可能です。まあ、投資家は離れていきますが。

上場子会社で外国人株主比率が高い会社ってそんなにはないでしょうし、離れていくのは別に構わないと割り切ってしまってもよいと思います。ですが、逆に寄ってくる投資家もいます。先ほど挙げたエフィッシモですね。そういう投資家に対して「銀行に預けるより有利な条件である!」と主張した時に、「へえ、じゃあちゃんと比較したんですね?どの銀行に相談しましたか?銀行からはどういう条件を提示されましたか?本当に相見積とったんですか?見せてくださいよ」と言われたときにちゃんと説明できるでしょうか。また「関係会社預け金として拠出することを決めた際の取締役会議事録を見せてください。見せないなら議事録の閲覧謄写請求をします」と言われたらどうしますか?アクティビストはそういう風に会社と親会社を追い込みます。

実際に、銀行に対して条件を提示させた上で検討していない場合が多いのではないでしょうか。一般的な普通預金よりは高いよね!という風に決めていることが多いのではないでしょうか。

投資家に攻められたときに、ちゃんと回答できるかどうかがポイントです。

 

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