2022年04月28日

No.1301 (無料公開)準有事導入よりも平時導入をおすすめします

以下、MARRonlineの無料記事です。買収防衛策の導入状況についてまとめられています。私が注目するのは新規導入企業です。といってもこれらの企業は平時型というより準有事型といったほうがよいと思います。

https://www.marr.jp/menu/ma_strategy/ma_casestudy/entry/36453

平時型買収防衛策の導入企業数は2022年4月22日時点で274社だそうです。最大で600社くらい導入していましたからずいぶん減りました。まあそうはいってもこのあたりが底だと思います。今年更新を迎える企業は、2019年に継続を決断した企業です。2019年はすでに国内機関投資家の買収防衛策に対するスタンスが相当厳しくなっていた時期ですから、そのときに継続を決断した企業は今年も継続してくださることでしょう。期待しています。

今回注目したいのは、これだけ買収防衛策を廃止する企業が増えているのに、新規で導入する企業があるという点です。上記記事によると、平時型買収防衛策を新規で導入した企業数は2021年6月~2022年3月だと6社です。個別に見てみましょう。

・名古屋電機工業

以下のニュースで取り上げたことがあるのですが、特段誰かが大量に株を保有した訳ではなく、昨今の敵対的買収の増加を受けて導入したようですね。特定の投資家が大量保有報告書を提出したわけでもないようです。

https://ib-consulting.jp/newspaper/3609/

・三機サービス

この会社は2021年7月15日に導入を公表したのですが、大量保有報告書の提出状況を見ると、2020年11月16日に光通信が大量保有報告書を提出していますね。以降、買い増しを続け、2022年1月18日に提出した変更報告書では保有割合が15.72%になっています。

・ニッチツ

この会社は日経でも報道されたとおりです。個人投資家が大量に株式を買ったタイミングで導入していますね。

https://ib-consulting.jp/column/3950/

・クックパッド

クックパッドが買収防衛策を導入したのは、おそらくアルファレオが大量保有報告書を提出したからでしょう。

https://ib-consulting.jp/column/4017/

https://ib-consulting.jp/column/4005/

・象印マホービン

同じく中国の投資家?に株式を取得され、株主提案もされていた状況です。

・川上塗料

この会社も株主提案をされていた状況ですね。

https://ib-consulting.jp/column/3999/

こう見てみると、純粋に平時に新規導入した企業ってかなり少ないですね。名古屋電機工業くらいです。あとは気になる投資家が大量保有報告書を提出したり、株主提案をしたりしたことがきっかけで買収防衛策を新規で導入したということです。つまり「準有事型買収防衛策」を導入したというイメージですね。

これはやはり日本企業が「何かあったら買収防衛策を導入しよう」と考えている証拠だと思う反面、純粋に平時導入ではなく「何かが起こらないと導入できないんだなあ」とも感じます。はっきり言うと「導入するのが遅い」の一言です。もちろん導入しないでオロオロするよりは全然いいのですが、「そもそも純粋な平時に導入しておけばターゲットにならなかったのではないですか?」ということなんです。

こういった準有事のタイミングで買収防衛策を導入すると、これらの会社の株を買っている投資家はどう思うでしょうか?「オレたちをターゲットにしたな」です。確実にこう考えます。そして買収防衛策を導入したからこれらの投資家が追加投資や攻撃をあきらめるかと言えば、まずあきらめません。なぜならこれで追加投資や攻撃を止めたら、買収防衛策に屈したことになるからです。

買収防衛策によって何が起きるかわからないけど、とりあえずはトリガーぎりぎりまでは買うか?という行動にでる可能性があります。攻撃する側にもプライドがありますからね。そして買収防衛策によって攻撃をあきらめたと捉えらると、新しいターゲットに攻撃しようとしても、買収防衛策を導入して対抗されます。買収防衛策を導入しても俺たちはあきらめないよ、というメッセージを打ち出すためにも、途中で買収防衛策を導入されたからといって攻撃をやめるわけにはいかんのですよ。

だから、買収防衛策は平時のうちに導入しておいたほうがよいですし、大量保有報告書を提出したり上位株主に登場したりする前に導入する方がよいのです。もちろん戦略的にあえて待つこともありますけどね。

繰り返しになってすみませんが、大切なことは「有事になったらどうやって戦うか?」ではありません。「有事にしないこと」です。そのためにはちゃんと平時から買収防衛策と呼ばれてしまっている事前警告型ルールを導入し、企業防衛や企業価値について常に議論しなくてはなりません。

 

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