2022年05月12日

No.1305 30年先を考えた企業防衛投資

みなさん、貴社の100年先を考えたことありますか?私はありません!20年先を考えることはよくあります。20年後にはこうありたい、こういう仕事をやっていたい、とかです。100年先となると想像もつきませんが、経営者はやはり100年とは言わんけど、20年、30年先のことを考える必要があります。この話は以下のコラムでまとめたことがあります。

https://ib-consulting.jp/column/590/

2017年に佐々木ベジ氏がソレキアに敵対的TOBを仕掛け成功させました。そして2019年1月に日本を代表する総合商社である伊藤忠商事がデサントに敵対的TOBを仕掛けました。以降、エイチ・アイ・エスvsユニゾHD、コクヨvsぺんてる、HOYAvsニューフレアテクノロジー、旧村上ファンドvs東芝機械、前田建設工業vs前田道路、コロワイドvs大戸屋、ニトリvs島忠、ストラテジックキャピタルvs京阪神ビルディング、フリージア・マクロスvs日邦産業、日本製鉄vs東京製綱、エフィッシモvsサンケン電気、スターウッドvsインベスコ・オフィス、アスリードvs富士興産、SBIvs新生銀行というケースが起きました。

TOBのターゲットになった会社はいずれも平時型買収防衛策を導入していません。東芝機械は導入していましたが、TOBを仕掛けられる前の2019年に廃止しました。これらの会社は、平時型買収防衛策を導入していなかったため、敵対的TOBを仕掛けられ買収者のグループ会社になってしまったり、有事対応のために多額のコストをかけざるを得なかったりしました(もちろん平時型を導入しておけば万全だったと申し上げるつもりはありません)。

つまり、平時のうちから企業防衛投資をしていなかったからこういうことになってしまったのです。有事になってから投資をしても遅く、有事になってから対応すると投資ではなくコストになります。外部アドバイザーにコストを支払っただけとなり、企業防衛に関するノウハウは会社に残りません。だって、突然有事になったら「TOBってなんや?よーわからんから弁護士と証券会社を呼べー!」となり、弁護士と証券会社の言うがままに対応するでしょ?彼らのアドバイス内容が何を意味しているのか、どういう効果があるのか、リスクとリターンは何なのか、よくわからないままに物事が進んでいきます。だってはっきり言って有事になったら、アドバイザーの策を吟味する時間もないし、能力も身についていませんからそもそも吟味できません。「弁護士がそう言ってるんだろ?それしかないんだったらやるしかないだろ!」となりがちです。そして結果として独立性を確保できたとしても(守れたとしても)、多額のコストだけが流出し、「はあ、守れてよかった!」と思うだけで、会社には何のノウハウ、つまり資産は残りません。残ったとしても悪い思い出くらいでしょうかね。もちろん悪い思い出を教訓として生かしている会社もあることは私も知っています。

でも、上記の敵対的TOBを仕掛けられて何とか守れた会社で平時型買収防衛策を導入した会社、あります???特に有事型買収防衛策を発動して対抗した会社はなぜ平時型をこの機会に導入しないのでしょうか?「また同じことが起きるかもしれない。有事型で対抗できたけど、ちゃんと企業防衛体制を平時のうちから構築しておくべき」となぜ考えないのか不思議です。また多額のコストが発生してもよいのでしょうか?

企業防衛体制の構築は平時のうちにしかできません。平時のうちに構築した企業防衛体制は貴社の資産になります。なぜなら投資だからです。でも有事になってからは企業防衛体制という資産は構築できず、多額のコストだけが発生します。投資をしてそれが貴社の優良な資産になるには時間がかかります。そりゃそうです。貴社が本業で投資をして、投資資金を回収するのには時間がかかるでしょ?

私は経営者の皆さんにぜひ30年先の貴社の経営者のことを考えてほしいと思っています。なぜ30年先かと言うと、30年後の貴社の経営陣をイメージしていただきたいのです。30年先の経営陣というと、おそらく現在30歳前後の社員か、経営陣が若い会社だと今の新入社員かその上くらいではないでしょうか?もしかしたら社長になっているかもしれません。そのような貴社の未来を担う若者たちが30年後の貴社で経営している姿を想像していただきたいのです。もし30年後の貴社がどこかの会社の傘下になっていたら?合併されてなくなっていたら?当然、貴社の若い社員は経営陣にはなっていないでしょう。企業防衛投資というのは、未来の貴社の独立性を守り、かけがえのない社員が貴社の企業価値向上に貢献するための投資なのです。コストではないのです。

日本の株式市場は米国の後追いです。感覚的には20年~30年、遅れているのではないかと思っています。と考えると、米国で20年~30年前に起きていることが今日本で起きているのです。そして今米国で起きていることが30年後に起きるのかと言えば、もっと早いでしょう。これだけの情報化社会ですから、さすがに今米国との差が20年も30年もあるとは思えません。10年先には敵対的TOBが当たり前になっていると思っていた方がよいです。いや、10年どころか5年・・・かもしれません。少なくとも30年後の日本では敵対的TOBは当たり前になっています。

2003年~2007年に起きた第一次敵対的TOBブームの際、日本中の上場会社が買収防衛策、企業防衛のことを考えたと思います。でも今、あの頃のような熱量で企業防衛のことを考えているようには私は感じないのです。あの頃よりも本格的な敵対的TOBが増えているにもかかわらず、多くの上場会社はその事実に目を伏せているように感じるのです。

現実は、敵対的TOBが増え、いつ貴社がターゲットになってもおかしくない時代になっています。今現実逃避をして企業防衛投資を怠っていると、いずれ多額の授業料=コストをアドバイザーに支払うことになります。資産として残らず、授業料として社外流出するだけです。高い授業料で済めばまだマシで、現実的には買収されてしまうリスクもあるのです。

ぜひ皆さん、平時のうちに企業防衛投資をしてください。今企業防衛体制を構築すれば、それは皆さんにとってのかけがえのない資産になり、会社の独立性維持とか企業価値向上といった収益にいずれつながります。投資とはそういうもんです。

 

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