2024年04月16日

No.1739 もの言う株主が消える日?

みなさんこう聞いて「なに?いなくなる日が来るのか?」と思いましたか?ぬか喜びさせてしまい申し訳ございません。以下の記事をご覧ください。日経上級論説委員の小平さんの記事です。この記事は大変勉強になりますし、見方を変えながら読むと、上場会社にとっての示唆に富んでいます。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1310R0T10C24A4000000/?n_cid=NMAIL006_20240416_H

経営に様々な注文をつけ企業価値の向上を試みる投資家を、私たちは「アクティビスト」と呼び「物言う株主」という日本語を当ててきた。最近はこの言葉の選択が適切なのかどうか、判断に迷うことが多くなった。

アクティビストを「物言う株主」と呼ぶと、それ以外の資産運用会社や個人投資家を「物言わぬ株主」と決めつけることになりかねない。それは実態と違う。運用会社や個人もそれぞれのやり方で意見を表明する。特別な存在としての「物言う株主」は株式市場で消えつつあると考えるべきではないか。

例えばなんですけど、シルチェスターという投資家がいます。彼らはずーっと昔から日本株を投資をしています。シルチェスターの創業者?であるスティーブン・バットさんという方がいらして、その方、かなり厳しい方なんですよ。例えばIR面談で訪問すると「貴社は前回我々が指摘した課題を克服したのですか?」と聞き「いや、まだそれは・・・」と言うとドアを指さし「出ていけ」とおっしゃるそうです。

ある会社は以下のやり取りでした。

バットさん:この余剰資金は何に使うんだ?

会社:将来的なM&Aに投資しようと考えています。

バットさん:どこの会社を買うつもりだ?

会社:いや、それはまだお答えできませんよ。

バット:じゃあオレが決めてやろう。(同業一覧を見せながら)この会社が一番割安だ。この会社をM&Aしろ!

会社:え?この会社って・・・当社じゃないですか?当社をM&Aしろって???

バット:わからんかね?貴社の株価が一番割安なんだから、他社を買うのではなく自社を買え!つまり自社株買いをしろということだ!

このくだりずいぶん前にお客さんから聞いた話です。「おもろい表現するおっさんがおるんやな」と思った記憶があります。

このシルチェスターという投資家、昔は「口うるさい投資家」と言われていましたが、いつの間にやらアクティビストの範疇にくくられるようになりました。

そもそも株主と言うのは物を言うのです。もの言わぬ株主の方がめずらしく、一般的に機関投資家は物を言います。株主と言うのは口うるさいものなんですよ。ただ、アクティビストってのはちょっと違いますね。物の言い方が違うと言えばいいでしょうか。

シルチェスターも最近は株主提案をするようになりましたが、昔はしませんでした(水面下の話は別)。表立って会社を攻撃するようなことはありませんでしたが、いわゆるアクティビストは攻撃を仕掛けてきます。攻撃を仕掛け、社長やCFOが本業に集中できなくなります。一般的な機関投資家が会社に対して口うるさい意見を言うものの、攻撃=アクティビズムを仕掛けないのは、会社の中長期的な競争力だったり、研究開発力だったり、本源的な企業価値の毀損につながるようなことをしたくないからではないでしょうか?

なぜなら、一般の機関投資家の利益目線はアクティビストよりも中長期にわたっているからでしょう。一方のアクティビストは短期間で結果を求めようとしているように見えます。こう言うと「いや、●●ファンドは●●社の株を10年も持っているぞ!」とおっしゃる方がいますが、それ、結果的にアクティビズムが失敗し、期待リターンを達成していないから塩漬け的に持っているだけでは?基本的には短期での結果を求める人たちだと思いますよ

記事にはこうも書いてあります。

アクティビズムは孤立無援では成功しない。花王にブランドの絞り込みや販促の強化を求めたオアシス・マネジメントは記者会見で「すべての株主に同じような要求をしていただきたい」と述べた。言い分に力を持たせるには仲間づくりが必要となる。

おっしゃるとおり、かつての旧村上ファンドを除くアクティビストは単独でのアクティビズムは成功させられません。村上さんは大量に買っていたので、ある意味成功し、売り抜けられましたが、オアシスなどのアクティビストは30%も買いません。せいぜい20%です。だから実はオアシスなどがギャーギャー騒いでも、国内外の機関投資家が味方しないと、オアシスの要求は通らないのが現実なのです。

これ、上場会社のみなさんは冷静に考えてください。アクティビストって今いろんな人に礼賛されていますが、実際問題、アクティビストの株主提案が可決されることなどめったにありません。フジテックが例外中の例外なんです。なんだかこれだけアクティビストの行動が報じられ、アクティビストが登場すると株価も上がり、マスコミが「次の手は?」「次のターゲットは?」などと報道すると、なんだかアクティビストに狙われると「もう終わりだ!」という雰囲気になってしまうんですよ。

それに輪をかけたのが東芝なんですよね・・・。東芝って、そもそも上場廃止なんかする必要なかったのですよ。20%程度保有していると言われたアクティビストに振り回されただけです。本来、20%しかいないアクティビストの言うことに振り回されずに、他の機関投資家に対して中長期的な経営戦略を説明し納得してもらい、経営陣を支持してもらえばアクティビストなど怖くなかったのです。東芝がやり方を間違え、やる必要もない非公開化をしてしまったことから、上場会社が「アクティビストは怖い」と思ってしまいました。

まあ、まったく怖くないというわけではありませんが、取って食われるわけではないですし、会社を乗っ取られるわけでもありません。本来、上場会社がおそれるべきはストラテジックバイヤーだったり、いわゆる乗っ取り屋だったりです。彼らは株価が上がろうが出ていきませんから。

なお東芝の失敗については以下です。私は「東芝の経営トップを日立の川村さんにやってもらえれば、あんなことにはならなかった」と思っています。

No.1213 東芝出身者ではムリだったということ。交渉できるわけがないんですよ

以下も無料です。ちょっと厳しく書いています。東芝はよく「名経営者を輩出した企業」と言われますが、東芝出身の名経営者は東芝プロパーではありません。

No.1506 東芝、歴史は繰り返す

話は記事に戻りますが、以下の部分。勘違いしないほうがいいですよ。

野村証券の23年の個人投資家調査によれば、株主総会で議決権を行使した個人のうち「全議案に賛成した」とする割合は61.8%と、22年調査の69.2%から低下した。個人の投資先企業への関心が高まった結果、是々非々で議決権を行使することにより、経営に積極的に関与していく姿勢が読み取れる。

これを読んで「よっしゃ!時代は個人株主や!個人株主を増やすでぇ!」と思わないでください。増えませんから。以下どうぞ。無料です。NTTの株式分割については私もよくわかっていません。

No.1532 NTTが1株を25株に分割

個人株主を増やすにはどうすればよいか?株価をブチ下げれば個人は増えますよ。そもそも株主構成はコントロールできません。例えば国内個人向けの公募増資や売出しをすれば一時的に個人株主を増やすことができますが、ディスカウント価格で個人は買っていますから、さや抜くためにすぐ売却すると思いますよ。

個人を増やすのはいいのですが、そのためにお金を使うのはナンセンスです。持ち合い解消の際に売出しをしてもらうのがベスト。貴社のお金は使いませんから。

No.1428 理想的な株主構成とは?

そして記事の以下の部分。これで最後の引用です。

アクティビストは言うに及ばず資産運用会社、生保、そして個人。全方位から改革要求が来るようになった今、企業には資本市場の言葉で経営を語り監督できる人材が、これまで以上に求められる。近年、プロの最高財務責任者(CFO)に注目が集まっているゆえんでもある。

大事なのはここです。全方位から改革要求がくるし、オアシスやエリオットと言ったアクティビストが貴社の株を買うかもしれないのです。「安定株主がいるからOK!」ではないですよ。以下の通り、安定株主がかなりいるであろうわかもと製薬もアクティビストに狙われました。安定株主+α、意味のある安定株主対策が必要になってくるんです。

日ごろのトレーニングも重要ですよ。例えばですが以下の京阪神ビルディングの会長の発言。これもったいないですよ・・・。会長の言いたいことはホントはこうじゃなかったと思いますよ。以下無料コラムに書いてあります。

No.1689 平時に何をすればいいんだ?~これ、営業コラムです~

で最後に営業です。

No.1690 平時に何をすればいいんだ?②~賢人は歴史に学ぶ~

ちなみに時価総額の大きな企業って、昔からアクティビストや敵対的買収リスクってわかっていたし、いち早く備えもしていたんですよ。以下、なんでしょうか?

https://ib-consulting.jp/column/4364/

かつて買収防衛策を導入していた会社ですよ。これらの会社は「時価総額は大きいけどうちだって狙われるリスクはある」とわかっていたんです。でも残念ながら、敵対的買収時代本番前に廃止してしまいましたけど。これから必要になる時代なんですけどね。

さて、敵対的買収時代はこれからが本番です。日本を代表するような会社が外国企業に買収されるかもしれません。国内の規模の大きい会社同士の争いが勃発するかもしれません。

その時代の主役になるのか?それとも脇役になって食われてしまうのか?それは皆さんの腹の括り方次第です。

そのお手伝いをするのが当社です。

 

 

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