2017年12月04日

No.221 長期株主への優遇拡大(2017/12/03日経7面)

 株主に金券や自社製品を贈る優待制度で、長期保有の株主を優遇する企業が増えているそうです。日曜日の日経によると、「9月末時点で上場企業の1割弱にあたる315社が長期株主の優遇制度を導入した」とあります。いつも私が申し上げていますが、はっきり言って「なぜそんなことをするのだろうか?」です。

 記事には「キッコーマンはしょうゆなど自社製品を贈る株主優待の制度を変更」「コーセーは新たに3年以上の株主を優遇」「ツムラも3年以上の株主限定で自社の入浴剤を」とあります。これはわかるんです。だって、キッコーマンもコーセーもツムラも、「株主を顧客にしたい」という考え方も持っていると思うんですよ。「ぜひ株主も顧客になってもらいたい」と。B to Cの企業ならわかるんですよ。カゴメなんかも有名ですよね。でも「射出成型機メーカーの東洋機械金属は3年以上の株主に対して優待額を上乗せする」とあります。東洋機械金属?いったいどんな優待を?見てみましょう。

 出た!カタログギフト!なぜそんなものを・・・。一昔前、お米を優待として渡していた企業がありましたね。今もやっているのでしょうか・・・。しかし、このような優待を見た機関投資家はなんと言うでしょうか?「配当増やせよ・・・」ではないでしょうか?では、東洋機械金属の株主構成を見てみましょう。東洋機械金属が優待制度を変更したのは2017年3月末からなので、2016/3期末と2017/3期末の株主構成の変化を見ましょう。

 2016/3期末の株主数は5,215人で、個人株主比率は46.93%です。けっこう高いですね。では、株主優待制度を見直した結果、個人株主比率はどうなったのでしょうか?

 個人株主数は5,362人に増えましたが、個人株主比率は43.04%に低下しました。数だけ増えて率が減った。意味がない・・・。では、東洋機械金属の株価を見てみましょう。

 〇で囲んだ2016/3期は株価が下落傾向にありました。一方、その後の株価はどうでしょうか?右肩上がりですね。そりゃ、株価上がってるんだから個人株主比率は減るでしょうね。優待制度の変更程度で個人が売らない訳がない。ある意味、個人株主をなめています。

 記事の後半にはこうも書いています。「日本株は個人の保有比率が下がっている。東京証券取引所などの株式分布調査によると16年度の個人の保有比率は2年ぶりに過去最低を更新した」と。しかし、記事の前半を見てみると「11月上旬に日経平均株価がバブル崩壊後の高値を超えるなど相場は活況だが、個人の株式保有比率は17.1%と過去最低に落ち込む」とあります。

 個人の保有比率が減るのは当たり前です。なぜなら、バブル崩壊後の高値を超えて株価が上昇しているからです。個人株主は株価が上がれば売り、下がれば買う株主です。日経平均が上昇しているのですから、個人株主比率が減少するのは当たり前のことです。

 「企業が小口の個人投資家を増やし長期で保有してもらえれば安定した株価形成につながる。大和IRは「長期保有株主を獲得しようと工夫を凝らす企業は今後も増えていきそうだ」とも書いてあります。私はこれを「工夫」ではなく「ムダな努力」と考えます。「個人株主に長期で持ってもらいましょう!安定した株価形成につながりますよ!」 なぜそうなるのか、ぜひともロジカルに説明していただきたい。IRアドバイザーが自分たちの仕事のために言っているとしか思えませんね。ちなみに、前述の東洋機械金属の株価動向を見直してみてください。超不安定な株価動向ではないでしょうか?だから長期保有の個人を増やすんだ!とおっしゃるかもしれませんが・・・。そもそも「安定した株価形成」という日本語が理解できませんね。株価形成が安定している状態とは?株価が横ばいのことでしょうか?横ばいなら安定していると言えますけど・・・。

株主優待って株主や株価のためにやるものではなく、自社の売上につなげるためにやるものだと思います。

 

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