2022年03月28日

No.1278 (無料公開)買収防衛策を導入しないことも経営者の保身なんです~時代に逆行するから導入したくない~

東芝の株主総会の結果を見て、私はけっこう危機感が高まっています。以下、3月25日に東芝に関連してまとめたニュースです。

今日の日経の社説について

東芝って買収防衛策を導入していた会社です

皆さんも東芝のような状態になることは十分にあります

日本企業は東芝状態にならないようどうしておくべきか?

私は非常に危機感が高まっており「買収防衛策をきちんと導入しておくべきだ」とあらためて考えていますが、皆さん、買収防衛策を導入しよう!と思いますか?思っていないでしょう。でもそれ、経営者の保身ですよ。このテーマは何回か連載します。

まず買収防衛策を取り巻く状況について整理してみましょう。まずは導入、廃止状況です。なお、ここで言う買収防衛策は「平時型買収防衛策」のことです。

このように買収防衛策を廃止する会社は増えています。特に増え始めたのが2016年~2017年にかけてです。なぜこの時期から増え始めたのでしょうか?それは国内機関投資家の買収防衛策に対するスタンスが変わったからです。この時期まで国内機関投資家は買収防衛策に対してネガティブではあったものの賛成はしてくれていました。まあそうでしょう。なぜなら国内機関投資家はどこかの金融機関の系列だからです。ようは貴社のメインバンクや主幹事証券の系列ですから、貴社との関係を考慮して議案に反対しにくかったのです。ですが、この時期くらいから買収防衛策に対して明確に反対するようになってきました。だから廃止する会社が増えたのです。そして2019年に大幅に廃止が増えました。2016年6月総会ではまだ継続できたけど、さすがに否決されるリスクが高まった、だから廃止しようと考えた会社がたくさんあったのです。2019年に廃止した大手企業は、三菱地所、日本製鉄など以下のとおりです。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO45095250R20C19A5DTA000/

しかしここで注目していただきたいのが新規導入です。これだけ廃止する会社が増え、一般的には「買収防衛策は経営者の保身」「廃止する会社が増える中、時代に逆行している」「コーポレートガバナンス重視の流れに反する」などと言われる中、毎年数社は買収防衛策を新規導入しているのです。なぜでしょうか?

簡単ですよ。みんなやっぱり「買収防衛策には効果がある」と思っているということですよ。アクティビストに株を買われた、同業に株を買われた、世の中で敵対的買収が増えてきた、「やっぱり買収防衛策をちゃんと導入しておいたほうがよいのではないか?」と考えて導入するんですよ。これだけ廃止する会社がいる中で効果もない施策をあえて入れる会社などいません。上場会社は「買収防衛策には効果がある」ということを知っているんですよ。さらに言えば、平時型買収防衛策をやめても有事型買収防衛策で対抗する会社が増えています。平時型と有事型の仕組みはまったくと言っていいほど同じで、導入のタイミングが違うだけです。平時型だろうが有事型だろうが、買収防衛策には効果があるのです。そもそも廃止した会社ですらこう言っています。

https://www.smm.co.jp/news/release/uploaded_files/20220215_2.pdf

しかしながら、昨今我が国においては、取締役会の同意を得ずに開始される株式の大量取 得行為に対しては、実際に特定の者により大量取得行為に関する提案が行われた段階で、具 体的な買収者の性質や当該提案の内容、当該大量取得行為の目的・態様・条件、その他の具 体的事実関係を踏まえて買収防衛策等の対応策の必要性について株主の皆様の意思を確認 する事例が増加しております。このような近時の動向および機関投資家との対話状況を踏 まえ、当社は、具体的な買収者が登場していない段階で、一般的な目的での買収防衛策の更 新を行わないことといたしました。当社としては、実際に特定の者が出現し、当社株式の大 量取得行為に関する提案等が行われた時点で、必要に応じて、適切な対応策について株主の 皆様にお諮りすることが望ましいと判断しております。

住友金属鉱山は簡単に言えば「平時型を廃止するけど、いざとなったら有事型で対抗しますからね」と言っています。住友金属鉱山は実際には買収防衛策を廃止していないと言っても過言ではありません。

上場会社は買収防衛策には効果があるとわかっているのになぜ廃止するかと言えば、結局のところ買収防衛策は経営者の保身だからよくないと考えているわけではなく、買収防衛策は経営者の保身だと考える機関投資家が反対して否決されるリスクが高まったから廃止しているに過ぎません。日本を代表する日本製鉄や三菱地所が何の効果もない施策を10年以上継続すると思いますか?彼らはちゃんと検討した上で買収防衛策には効果があると考えていたから10年以上継続していたのです。2019年になってやむを得ず廃止したんですよ。

でも皆さん廃止したものの、いざ敵対的買収を仕掛けられたら、廃止した会社は必要があればなんら迷うことなく有事型で対抗しますよ。きれいごとなど言ってられなくなるからです。そして導入することを躊躇している会社もいざとなれば有事型で対抗します。平時型買収防衛策を廃止した東芝機械や東京機械製作所は有事型で対抗したでしょ?

でもね、すんごいコストがかかるんですよ。

https://www.tks-net.co.jp/corporate/wp-content/uploads/2022/01/e060caceede12f34b7a16ca5cde38676.pdf

東京機械製作所はさほど規模の大きい会社ではありませんでしたから、これくらいですみましたが、この倍、いや4~5倍かかる可能性だってありますよ。

やるべきことは平時にやっておく。そうしない会社が有事になって莫大なアドバイザリーフィーを払うはめになるのです。そして最悪、会社を乗っ取られるのです。そもそも買収防衛策に反対しているのって、株主だけですよね?従業員や取引先はどうですか?経営者の保身だから反対なんて言う従業員や取引先、います?むしろ従業員らは「会社が大混乱するからちゃんと買収防衛策を導入して備えを万全にしてほしい」「会社を乗っ取られてリストラされるのは我々」と考えているのでは?

従業員や取引先を守るための買収防衛策を、時代に逆行するとか経営者の保身だとか株主、マスコミに言われることを恐れて導入しないという考えこそが経営者の保身なのです。つまり「オレが保身の経営者と言われるのがイヤ」という保身です。

敵対的買収がこれほど増え、明日は我が身の時代において、従業員や取引先を守るための術を導入しないでどうするのか?もちろん株主のためでもあります。

買収防衛策を導入して批判されるのを恐れるべきではないのです。買収防衛策は買収防衛策じゃないんですから。

保身の意味を今一度考えていただきたい。

 

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