2023年04月04日

No.1507 キャノンショック!御手洗さんの賛成率50.59%の衝撃!!

これ、衝撃的です・・・。まさにキヤノンショック。日経1面トップに掲載されてもおかしくないレベルです。ちなみにキヤノンはフジテックと違い、特定のアクティビストに大量に株を持たれたり、経営権の争いなどが勃発したりしているわけではありません。いたって平時の会社でした。もしかしたらまだオアシスが株を持っているかもしれませんが、さほどの比率ではないでしょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC039AH0T00C23A4000000/

キヤノンが3月30日に開いた定時株主総会の取締役選任議案で、御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)の再任に対する賛成比率が50.59%にとどまったことがわかった。一部の米議決権行使助言会社が取締役に女性がいないことを理由に反対推奨したことが影響した可能性がある。

キヤノンの株主構成・御手洗さんの賛成率を見ておきましょう。なお有価証券報告書「所有者別状況」に記載の割合とは異なります。あれは自己株を含めた発行済株式総数に対する割合ですが、キヤノンは自己株式をたくさん持っているので、議決権ベースの割合に修正しています。

キヤノンって個人株主比率を相当増やしましたねえ。昔は以下のような感じだったんですよ。個人株主比率、10%もなかったんです。株価が高いから個人が手を出しにくかったんでしょうね。知名度は高いけど個人株主比率の低い会社の典型例でした。

https://ib-consulting.jp/column/102/

2013年3月総会(上表だと2012/12期末の株主構成が該当)において御手洗さんの賛成率が72.21%になってしまいました。その要因は以下のとおりだと思われます。

https://ib-consulting.jp/column/655/

キヤノンの2013年3月に開催された株主総会の議案賛成率です。御手洗さんの賛成率が低いのは、ISSが反対推奨したからです。ISSは2013年2月以降に開催される株主総会から、社外取締役を選任していない企業の経営トップに反対する方針でした。当時はキヤノンとトヨタが社外取締役を選任していない日本の代表企業と見られていたと思います。ちなみに、2013年3月、キヤノンの株主総会のほぼ直前に、トヨタは社外取締役を3名選任することを公表しました。社外取締役を選任していないキヤノンが目立ってしまったのかもしれませんね。御手洗さんの賛成率は約72%でした。

これ、このときの注目議案は御手洗さんのほうではなく、実は「第3号議案 退職慰労金制度廃止に伴う打ち切り支給」のほうです。賛成率が66.01%しかなかったんです。つまり、ISSは御手洗さんの議案と第3号議案の両方に反対推奨をした、機関投資家は第3号議案にはISSの推奨通り反対した、でも御手洗さんの議案には「ISSが御手洗さんの議案に反対推奨したけど、まあそうはいっても社外取締役を採用していないだけで反対はできんわな」と考えて反対しない機関投資家もいた、だから66%までは下がらなかったのでしょう。ISSの推奨通りに機関投資家が議決権行使をしたら御手洗さんの賛成率も66%くらいになってしまうリスクがあったのです。このときからキヤノンは御手洗さんの賛成率がかなり低くなりリスクを抱えていたということです。

株主構成を見る限り、大きく変化はしていないので、おそらく機関投資家がスタンスを変更して御手洗さんの議案に反対したから、今年の賛成率が50.59%まで下がっちゃったんでしょうね。ではキヤノンの実質株主の状況を見てみましょうか。

https://app.tikr.com/stock/ownership?st=shareholders&cid=195225&tid=20215491&ref=s2ahcp

これ、登録すれば無料で閲覧可能です。キヤノンの実質大株主は野村アセットマネジメント3.43%(45,780,097株)、アセットマネジメントOne2.47%(32,887,000株)、ヴァンガード2.10%(27,947,558株)、日興アセットマネジメント1.66%(22,077,441株)、大和アセットマネジメント1.63%(21,724,663株)などなどです。

野村アセットマネジメントは昨年の御手洗さんの議案には賛成していますが、2022年11月1日に議決権行使基準の改定を公表しており、「女性の取締役がいない場合、会長・社長等の選任議案に反対」というのが新設されました。野村アセットマネジメントがおそらく反対したのでしょうね。

https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/pdf/vote_policy20221101.pdf

アセマネOneも女性の取締役がいないと反対する方針なのですが、4月1日以降のようなので、今回のキヤノンに関してはまだ適用外ですかね。

http://www.am-one.co.jp/img/company/16/230228_AMOne_newsrelease.pdf

日興アセットは2023年1月以降、女性の取締役がいないと反対する方針です。

https://www.nikkoam.com/files/lists/voting/jp-stocks/2303_voting_rights_update.pdf

大和アセットも女性の取締役がいないと反対する方針です。昨年御手洗さんには反対していないようです。2022年11月1日に適用されたのかな?

https://www.daiwa-am.co.jp/company/managed/guideline_03.pdf

御手洗さんの賛成率がギリギリになってしまったのは、おそらく国内機関投資家の反対が大きく影響したように思います。野村アセット457,800個、日興アセット220,774個、大和アセット217,246個の議決権を足すと895,820個です。御手洗さんの賛成個数・反対個数を前年と比較すると、

2022年3月総会:賛成5,891,849個、反対1,796,094個

2023年3月総会:賛成3,757,240個、反対3,655,508個

です。反対個数は3,655,508個―1,796,094個=1,859,414個増えています。上記の野村・日興・大和アセット895,820個なので、他の機関投資家も反対に回ったのでしょうね。細かく調べればもっとわかると思いますが、これくらいにしておきます。女性の取締役を採用していないことに加えて、御手洗さんの年齢なども影響しているのかな?それはないか。

キヤノンの御手洗さんのケースから言えることはなんでしょうか?それは「国内機関投資家を敵に回したら終わる」ということです。ちょっと言い過ぎかもしれませんが。

例えば、かつては時価総額が大きく安定株主比率の低い会社であっても買収防衛策を導入できていました。しかし2015年頃から廃止する会社が増えました。なぜでしょうか?「ガバナンス意識が高まったからだ!」「買収防衛策が経営者の保身だとようやく気付いたからだ!」 全然違います。昔は国内機関投資家は買収防衛策の導入に賛成してくれていたのですが、2015年頃から反対するようになったのです。国内機関投資家に反対されると、時価総額が大きく安定株主比率の低い会社は、買収防衛策の議案が株主総会で否決されるリスクが非常に高くなってしまうのです。否決リスクをおそれて時価総額の大きい会社は本音では継続したいけど買収防衛策をやめたのです。

株主提案がなかなか日本で可決されないのは?これはいろいろとご意見があるとは思いますが、米国などと違い日本の株主提案は強制力があることだったり、基本的に経営陣を支持している場合は株主提案には反対することなどだったり、国内機関投資家が株主提案に賛成しないからです。

敵対的TOBが成立しにくい理由は?上場廃止にならないと、インデックス運用の機関投資家が応募しないからです(もちろん個人投資家の存在もあります)。

ようは国内機関投資家のスタンス次第で、株主提案や敵対的TOBが成功するリスクが高まるんです。今の日本はそういう時代なったということなんです。米国の資本市場で起きたことは必ず日本でも起きるんです。だから普段から株価であったり、株主還元であったり、買収防衛策であったり、いろいろなことを考えなくてはならんのです。攻められてから考えよう、では遅いのですよ。

以下は2017年1月4日に書いたコラムです。

https://ib-consulting.jp/column/55/

私の仕事は予想を的中させることではありません。起こり得るイベントが上場企業に対してどういう影響があるのかを分析することが仕事です。当然、どこの会社も役員選任議案が否決されないかもしれません。しかし、否決されるリスクが一昔前に比べて、各段に上昇しています。一昔前は「いつか役員選任議案が否決される時代が来るかもしれないね」と言っていましたが、とうとうその時代がやってきた!ということです。

よく「資本市場に背を向けた経営をしてはいけない」という方がいます。私は、資本市場に背を向けてよい会社とよくない会社がある、と考えます。安定株主比率が非常に高い会社は、資本市場に背を向けた経営をしても問題ありません。そもそも外国人株主がほとんどいないのですから、外国人株主の声に耳を貸す必要はないです。むしろ持ち合い先の声に耳を傾けるべきでしょう。だって、持ち合い株主のほうが多いのですから。しかし、持ち合い構造が崩れていく中で、次に増える株主はどんな性格の株主でしょうか?未来を見据えた経営やIRを考える必要があります。

とうとう経営トップの選任議案が否決される時代に突入です。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

「何を言っているんだ、コイツは?」と思ったかもしれませんが、株主総会の時期だからこそ来年の株主総会のことを考え始めなくてはならないのです。正確に言えば、7月から来年に向けて検討を開始したほうがよいでしょう。

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ